
「スマートウォッチに表示されるVO₂maxは、どのくらい正確なの?」
「VO₂maxを上げれば、マラソンのタイムも速くなる?」
VO₂maxは、ランニングに必要な有酸素能力を評価する代表的な指標です。近年はスマートウォッチでも推定できるようになり、市民ランナーにとって身近な数値になりました。
しかし、VO₂maxだけでランニング能力が決まるわけではありません。同じVO₂maxでも、乳酸閾値やランニングエコノミーが異なれば、レース記録には大きな差が生じます。
また、スマートウォッチに表示される数値は、酸素摂取量を直接測定した結果ではありません。

本記事では、VO₂maxの意味、ランニング記録との関係、スマートウォッチの数値の見方、VO₂maxを高めるトレーニング方法について、科学的根拠をもとに解説します。
VO₂maxとは最大酸素摂取量のこと

VO₂maxとは、運動強度を段階的に高めていったときに、身体が1分間に取り込み、運搬し、利用できる酸素量の最大値です。
日本語では「最大酸素摂取量」と呼ばれます。
ランナーのVO₂maxは、一般的に次の単位で表されます。
mL/kg/分

これは「体重1kgあたり、1分間に何mLの酸素を利用できるか」を示しています。
例えば、VO₂maxが50mL/kg/分であれば、最大運動時に体重1kgあたり1分間で約50mLの酸素を利用できることを意味します。
VO₂maxには、体重で補正しないL/分という表し方もあります。
| 表し方 | 単位 | 意味 |
|---|---|---|
| 絶対値 | L/分 | 身体全体で利用できる酸素量 |
| 相対値 | mL/kg/分 | 体重1kgあたりの酸素量 |
ランニングでは体重を支えながら移動するため、相対値がよく使用されます。

ただし、体重が減少すると、絶対的な酸素摂取能力が変わっていなくても、体重で割ったVO₂maxは高くなることがあります。スマートウォッチのVO₂maxが上昇した場合も、心肺機能だけではなく、体重設定の変化が影響していないか確認しましょう。
VO₂maxはランニング能力の上限を表す重要な指標

ランニングでは、筋肉を動かすためのエネルギーを作る必要があります。
酸素を利用してエネルギーを作る能力が高いほど、高い運動強度でも有酸素性エネルギー供給を利用しやすくなります。
そのため、VO₂maxは中長距離走のパフォーマンスを左右する重要な要素です。
VO₂maxが高いほどマラソンも速い?

一般的には、VO₂maxが高いランナーほど高い有酸素能力を持っています。
しかし、VO₂maxが高ければ必ずマラソンも速いとは限りません。
長距離走のパフォーマンスを考えるときは、主に次の3つが重要です。
| 要素 | 意味 |
|---|---|
| VO₂max | 有酸素性エネルギー供給能力の上限 |
| 乳酸閾値など | VO₂maxの何%程度を長く維持できるか |
| ランニングエコノミー | 一定速度で走るために必要な酸素量 |
例えば、同じVO₂maxが60mL/kg/分のランナーが2人いても、一方が少ない酸素消費量で同じペースを走れる場合、そのランナーの方が効率よく走れる可能性があります。
また、VO₂maxに対して高い割合の強度を維持できるランナーは、レースペースを長く保ちやすくなります。
特にマラソンでは、VO₂max以外にも次のような要因が関係します。
- 長時間走り続ける能力
- 筋疲労への耐性
- ランニングエコノミー
- 糖質と脂質の利用
- 補給と水分摂取
- ペース配分
- 暑熱や高低差への対応
- メンタルやレース経験
VO₂maxは重要ですが、VO₂maxだけを高めればマラソンが速くなるわけではありません。
VO₂maxが高いと糖質を温存できる?

VO₂maxが高いからといって、必ず筋グリコーゲンを温存できるわけではありません。
VO₂maxは酸素を利用できる最大能力を表す指標であり、運動中に糖質と脂質をどのような割合で利用するかを直接示す数値ではないためです。
運動中の糖質利用には、次の要因が関係します。
- 走行速度
- VO₂maxに対する相対強度
- 乳酸閾値
- 持久性トレーニング歴
- 運動時間
- 運動前と運動中の糖質摂取
- 筋グリコーゲン量
VO₂maxが向上すれば、以前と同じ速度をVO₂maxに対して低い割合の強度で走れる可能性があります。
しかし、それだけで糖質が必ず温存されるとは断定できません。
VO₂maxを決める要因

酸素を多く吸い込むだけでは、VO₂maxは高くなりません。
肺から取り込んだ酸素を血液へ移し、心臓から全身へ送り、活動する筋肉で利用する必要があります。
VO₂maxは、Fickの原理を用いると、おおむね次のように表せます。
VO₂max=最大心拍出量×動静脈酸素較差
心拍出量:心臓が1分間に送り出す血液量
動静脈酸素較差:動脈から筋肉へ運ばれた酸素が、どの程度筋肉で取り出されたか
VO₂maxには、主に次の要因が関係します。
心臓が送り出す血液量
心拍出量は、次の式で表されます。
心拍出量=心拍数×1回拍出量
持久性トレーニングによって、心臓が1回の収縮で送り出せる血液量が増えると、最大運動時に全身へ多くの酸素を運びやすくなります。

持久性トレーニングによるVO₂maxの向上には、特に最大心拍出量の増加が大きく関係すると考えられています。
血液の酸素運搬能力
酸素の多くは、赤血球に含まれるヘモグロビンと結合して運ばれます。
そのため、血液量やヘモグロビン量も酸素運搬能力に関係します。
鉄欠乏や貧血がある場合は、酸素を運ぶ能力が低下し、ランニングパフォーマンスへ影響する可能性があります。
ただし、自己判断で鉄サプリメントを摂取するのではなく、疑われる場合は医療機関で検査を受けることが重要です。
骨格筋への血流と毛細血管
筋肉の周囲にある毛細血管は、血液から筋細胞へ酸素を届ける経路になります。
持久性トレーニングによって毛細血管密度が高まると、活動する筋肉へ酸素を供給しやすくなります。
ミトコンドリア
ミトコンドリアは、酸素を利用してATPを作る細胞内の器官です。
持久性トレーニングでは、ミトコンドリアの量や機能に関係する適応が生じます。
これらの適応は、VO₂maxだけではなく、乳酸閾値や長時間運動能力にも関係します。
肺と呼吸器系
肺は酸素を身体へ取り込み、二酸化炭素を排出します。
ただし、健康な一般ランナーでは、肺機能そのものがVO₂maxを制限する主要因になるとは限りません。
一方、高度に鍛えた持久系選手では、非常に高い心拍出量に肺でのガス交換が追いつかず、運動誘発性の低酸素血症などが起こる場合があります。
「肺を鍛えれば、そのままVO₂maxが上がる」と単純に説明することはできません。
VO₂maxと乳酸閾値の違い

乳酸は、疲労を引き起こすだけの不要な物質ではありません。
運動中に作られた乳酸は、別の筋線維や心臓などでエネルギー源として利用されます。
そのため、
乳酸が筋肉に蓄積する
↓
筋収縮が阻害される
↓
脚が重くなる
と説明するのは単純化しすぎです。
高強度運動で起こる疲労には、次のような複数の要因が関係します。
- 無機リン酸などの代謝物
- 水素イオンや酸塩基平衡
- 筋細胞内外のイオンバランス
- 筋グリコーゲンの減少
- 筋損傷
- 神経系の働き
- 体温上昇
- 脱水
- 主観的なきつさ
乳酸閾値は、運動強度を上げたときに、血中乳酸濃度が安静時付近から上昇し始めたり、急激に増加したりする強度を評価する指標です。

VO₂maxが「有酸素能力の上限」を示すのに対し、乳酸閾値は「その上限に対して、どの程度の強度を維持できるか」を考える手掛かりになります。
VO₂maxの年齢・性別による目安

VO₂maxやVO₂peakは、一般的に加齢とともに低下する傾向があります。
また、平均値には性別による違いもあります。ただし、この違いには体格、体組成、ヘモグロビン量、身体活動量などが関係します。
日本人を対象とした研究を統合した2023年のスコーピングレビューでは、体重補正したVO₂peakの推定標準値が次のように報告されています。
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 20~29歳 | 43.2 | 33.6 |
| 30~39歳 | 37.2 | 30.6 |
| 40~49歳 | 34.5 | 27.4 |
| 50~59歳 | 31.7 | 25.6 |
| 60~69歳 | 28.6 | 23.4 |
| 70~79歳 | 26.3 | 23.1 |
※単位はmL/kg/分です。
この研究は、健康な日本人を対象とした21研究、延べ男性54,614人、女性24,100人のデータを統合しています。
※ただし、この表は一般的な日本人の推定標準値であり、市民ランナーの競技力を評価するための基準ではありません。
また、VO₂maxではなくVO₂peakのデータが含まれ、トレッドミルと自転車エルゴメーターによる測定も統合されています。研究では、自転車で測定した値はランニングで測定した値より低い傾向が報告されています。
そのため、異なる測定方法で得られた数値を単純に比較しないようにしましょう。
VO₂maxとVO₂peakは同じ?

厳密には、VO₂maxとVO₂peakは区別される場合があります。
段階的に運動強度を高めても酸素摂取量がそれ以上増えない「プラトー」が確認された値を、VO₂maxと呼ぶことがあります。
一方、プラトーを確認できなかった場合でも、その運動負荷試験で得られた最も高い酸素摂取量をVO₂peakと呼びます。
実際の研究やスマートウォッチでは、両者が完全に統一されずに使われている場合があります。
記事や研究データを見るときは、
- 酸素摂取量を直接測定したのか
- 最大運動負荷試験を行ったのか
- VO₂maxとVO₂peakのどちらなのか
- トレッドミルと自転車のどちらを使ったのか
を確認してください。
VO₂maxを測定する方法
心肺運動負荷試験で測定する
VO₂maxを詳しく調べる方法は、呼気ガス分析装置を使用した心肺運動負荷試験です。
マスクを装着して、吐いた息に含まれる酸素と二酸化炭素を測定しながら、トレッドミルや自転車エルゴメーターの負荷を段階的に高めます。
この方法では、VO₂maxやVO₂peakに加えて、次のような項目も評価できます。
- 換気量
- 二酸化炭素排出量
- 心拍数
- 呼吸交換比
- 換気性閾値
- 運動中の心電図や血圧
ただし、測定には専用設備と専門スタッフが必要です。
走行テストから推定する
呼気ガス分析装置がなくても、一定時間に走った距離や一定距離のタイムからVO₂maxを推定できます。
代表的な走行テストは次の3つです。
| テスト | 測定内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 12分間走 | 12分間で走った距離 | 1人でも実施しやすい |
| 1.5マイル走 | 約2.4kmの走行タイム | 距離が固定され、計測しやすい |
| 20mシャトルラン | 合図に合わせた往復走 | 集団測定や狭い場所で実施しやすい |
いずれもVO₂maxを直接測定する方法ではありません。

走力、ペース配分、方向転換、天候、疲労、モチベーションなどの影響を受けるため、得られる数値は推定値として扱いましょう。

12分間走は、12分間で走った総距離からVO₂maxを推定する方法です。
1968年にCooperが報告したフィールドテストで、現在でも広く利用されています。
- 400mトラックまたは距離を正確に測定した平坦なコースを用意する
- 10~20分程度の軽いランニングを行う
- 必要に応じて短い流しを2~4本行う
- 12分間で走れる最大距離を目指して走る
- 12分経過時点の総走行距離を記録する
- 計算式へ距離を入力する

テスト中に歩くこともできますが、VO₂maxの推定を目的とする場合は、できるだけ一定のペースで走り続けます。最初から速く走りすぎると後半に大きく失速するため、12分間全体で最大距離を狙えるペース配分が重要です。
一般的には、次の式が使用されます。
推定VO₂max=(12分間の走行距離[m]-504.9)÷44.73
※単位はmL/kg/分です。
例えば、12分間で2,450m走った場合は次のようになります。
(2,450-504.9)÷44.73=約43.5mL/kg/分
走行距離別の計算例は次のとおりです。
| 12分間の走行距離 | 推定VO₂max |
|---|---|
| 2,000m | 約33.4mL/kg/分 |
| 2,200m | 約37.9mL/kg/分 |
| 2,400m | 約42.4mL/kg/分 |
| 2,600m | 約46.8mL/kg/分 |
| 2,800m | 約51.3mL/kg/分 |
| 3,000m | 約55.8mL/kg/分 |
12分間走の距離と、トレッドミルで実測したVO₂maxとの間には関連が報告されています。
一方、推定式の精度は、年齢、性別、トレーニングレベル、対象集団によって異なります。
2015年に男子大学生を対象として行われた研究では、12分間走による推定値と実測値の間に高い相関が認められましたが、一般的な計算式ではVO₂maxを平均約3mL/kg/分高く推定しました。
また、2026年に大学チームスポーツ選手73人を対象とした研究では、12分間走が実測VO₂maxを平均6.0mL/kg/分低く推定し、個人単位の誤差も大きい結果でした。
つまり、12分間走は有酸素能力を簡便に確認する方法ですが、誰に対しても正確なVO₂maxを算出できるわけではありません。

推定VO₂maxの小さな変化だけでなく、12分間の走行距離そのものも記録しておきましょう。
1.5マイル走は、1.5マイルを走り切るまでの時間からVO₂maxを推定する方法です。
1.5マイルは約2.414kmです。400mトラックでは、6周と約14mになります。
- 平坦で距離が正確なコースを用意する
- 10~20分程度ウォームアップする
- 1.5マイルをできるだけ速く走る
- 完走タイムを分単位で記録する
- 計算式へタイムを入力する
秒は小数の分へ換算します。
例えば、10分30秒の場合は、10+30÷60=10.5分として計算します。
一般的な簡易式には、次の式があります。
推定VO₂max=483÷完走時間[分]+3.5
例えば、1.5マイルを10分で走った場合は、483÷10+3.5=51.8mL/kg/分となります。
| 1.5マイルのタイム | 推定VO₂max |
|---|---|
| 14分00秒 | 約38.0mL/kg/分 |
| 13分00秒 | 約40.7mL/kg/分 |
| 12分00秒 | 約43.8mL/kg/分 |
| 11分00秒 | 約47.4mL/kg/分 |
| 10分00秒 | 約51.8mL/kg/分 |
| 9分00秒 | 約57.2mL/kg/分 |
ただし、この式も年齢、性別、体重、トレーニングレベルなどを考慮していません。
研究では、タイムだけでなく性別や体重を加えた推定式も作られています。使用する計算式によって結果が変わるため、異なる計算式から得られた数値を直接比較しないようにしましょう。
20mシャトルランは、20m離れた2本のライン間を、音源の合図に合わせて往復するテストです。
一般的なプロトコルでは、走行速度が8.5km/時程度から始まり、約1分ごとに0.5km/時ずつ上昇します。
- 20m間隔で2本のラインを引く
- 指定された音源を準備する
- 合図が鳴るまでに反対側のラインへ到達する
- 合図に合わせて方向転換する
- 速度の上昇に合わせて往復走を続ける
- 合図へ繰り返し間に合わなくなった時点で終了する
- 最終ステージ、最終速度、往復回数を記録する
20mシャトルランでは、最終到達速度や年齢などからVO₂maxを推定します。
ただし、開始速度、速度の上げ方、終了基準、推定式には複数の種類があります。実施するときは、使用する音源と計算式が同じプロトコルに対応しているか確認してください。
シャトルランでは、20mごとに減速と方向転換を繰り返します。
そのため、結果には有酸素能力だけではなく、次の能力も影響します。
- 加速と減速
- 方向転換技術
- 下半身の筋力
- 身体の大きさ
- シューズと床面
- 合図に合わせる経験
直線を一定速度で走るランニングとは運動様式が異なります。
2009年のシステマティックレビューでは、20mシャトルランは集団レベルでの心肺体力評価には利用できるものの、個人のVO₂maxを正確に推定する方法としては誤差が問題になると報告されています。
市民ランナーが一人で定期的に測定する場合は、12分間走や一定距離のタイムトライアルの方が実施しやすいでしょう。

走行テストを比較するときは、できるだけ条件を統一します。
- 同じテストを使用する
- 同じコースで実施する
- 同じシューズを使用する
- 似た時間帯に実施する
- 前日に高強度練習を行わない
- 強い筋肉痛や疲労がある日は避ける
- 極端に暑い日や風が強い日は避ける
- ウォームアップ方法をそろえる
- テスト前の食事や水分摂取を大きく変えない
- GPSだけではなく、可能なら距離が正確なトラックを利用する
数週間後に再測定するときも、同じ条件に近づけることが重要です。
暑さ、向かい風、坂道、疲労などで走行距離やタイムが悪化しても、VO₂maxそのものが低下したとは限りません。
走行テストを行う頻度

12分間走や1.5マイル走は、短時間でも最大努力に近い運動になります。
頻繁に実施する必要はありません。
トレーニング効果を確認する場合は、4~8週間程度の間隔を空ける方法が考えられます。
ただし、定期的なレースやタイムトライアルに参加しているランナーは、その記録を活用すれば、別に最大走行テストを追加する必要はありません。
テスト前後には通常のポイント練習と同様に回復期間を設けてください。
走行テストを避けた方がよい場合

次に当てはまる場合は、最大努力を伴う走行テストを控えるか、事前に医師などへ相談してください。
- 発熱や体調不良がある
- 胸痛や動悸がある
- 運動中に失神した経験がある
- 普段と異なる強い息苦しさがある
- 心血管疾患や呼吸器疾患を指摘されている
- 関節、筋肉、腱に痛みがある
- 長期間運動していなかった
- 暑さ指数が高い
- 睡眠不足や強い疲労がある
VO₂maxを正確に知りたい場合や、運動中の心電図、血圧、呼吸反応も確認したい場合は、医療機関や測定施設で心肺運動負荷試験を受ける方法があります。
※走行テストは、心肺運動負荷試験の代わりになる精密検査ではありません。

市民ランナーが屋外で簡単に実施する場合は、12分間走が取り入れやすいでしょう。
| 目的・環境 | 適したテスト |
|---|---|
| 1人で簡単に測定したい | 12分間走 |
| 一定距離のタイムを管理したい | 1.5マイル走 |
| 狭い場所や集団で測定したい | 20mシャトルラン |
| VO₂maxを正確に測定したい | 呼気ガス分析を伴う心肺運動負荷試験 |
ただし、記録向上を目指すランナーにとっては、推定VO₂maxだけが重要なのではありません。

12分間の走行距離や1.5マイルのタイムが改善していれば、VO₂max、ランニングエコノミー、乳酸閾値、ペース配分などを含めた総合的な走力が向上している可能性があります。
推定VO₂maxの数値だけではなく、実際の走行記録も残しておきましょう。

スマートウォッチは、酸素摂取量を直接測定していません。
一般的には、次のような情報を独自のアルゴリズムへ入力してVO₂maxを推定します。
- ランニング速度
- GPSで測定した距離
- 心拍数
- 年齢
- 性別
- 身長
- 体重
- 過去の運動データ
2022年のシステマティックレビュー・メタ解析では、運動データを利用するウェアラブル機器の平均的な誤差は小さかったものの、個人単位の一致限界は広い結果でした。
つまり、集団全体の平均では実測値に近くても、一人ひとりの数値は大きく外れる可能性があります。
2025年のシステマティックレビューでも、採用された13研究のうち7研究で、VO₂maxの推定精度が有効または許容できると評価されました。
一方、精度は次の条件によって変わります。
- 機種とアルゴリズム
- 手首で測定した心拍数の精度
- GPSの精度
- ランナーのトレーニングレベル
- 走行速度
- 坂道や路面
- 暑さや寒さ
- 疲労や睡眠不足
- 服薬
- 体重などの登録情報
スマートウォッチのVO₂maxは、実測値ではなく参考値として扱いましょう。
VO₂maxを確認するときは、異なる機種や他人の数値と比較するより、次の条件をそろえる方が実用的です。
- 同じ機器を使う
- 体重などの登録情報を更新する
- 似たコースで走る
- 極端に暑い日を避ける
- 数日間の変化で判断しない
- 数週間から数か月の推移を見る
ただし、「同じ機器なら変化量は必ず正確」と保証されているわけではありません。

レース記録、一定心拍数でのペース、主観的なきつさなども一緒に確認してください。
VO₂maxを高めるトレーニング

VO₂maxを高める方法として、高強度インターバルトレーニングがよく紹介されます。
しかし、VO₂maxを高めるために毎回限界まで走る必要はありません。
トレーニング経験が少ない人では、低~中強度の継続的なランニングでもVO₂maxが向上します。
2015年のシステマティックレビュー・メタ解析では、持久性トレーニングと高強度インターバルトレーニングの両方でVO₂maxが改善しました。平均的には高強度インターバルトレーニングの方が大きな改善を示しましたが、効果は対象者やトレーニング歴によって異なります。
市民ランナーは、次の要素を組み合わせて考えましょう。
- 継続できる低強度ランニング
- VO₂max付近へ刺激を加えるインターバル走
- 乳酸閾値付近を高めるテンポ走
- 長時間走る能力を高めるロング走
- ランニングエコノミーを支える筋力トレーニング
まずは低強度ランニングを継続する
初心者や走行習慣が少ない人は、最初から高強度インターバル走を行う必要はありません。
会話できる程度のランニングでも、これまでのトレーニング量が少ない人では有酸素能力の向上が期待できます。
低強度ランニングには、次の役割があります。
- トレーニング量を確保する
- ミトコンドリアに関係する適応を促す
- 毛細血管に関係する適応を促す
- 高強度練習から回復する
- 筋・腱・骨を走行負荷へ慣らす
- ランニングを習慣化する

VO₂maxを上げたいからといって、すべてのランニングを速くすると、疲労によって継続できなくなる可能性があります。
インターバル走を取り入れる
インターバル走は、速いランニングと軽いジョギングを繰り返すトレーニングです。
回復区間を挟むことで、連続走では維持できない高い強度での走行時間を確保できます。
ただし、「全力疾走」と「高強度インターバルトレーニング」は同じではありません。
VO₂maxへの刺激を目的とする場合は、最初から全力で走るのではなく、最後の疾走区間まで大きく失速しない強度に調整します。
市民ランナー向けのインターバル走の例
- 疾走:3~4分
- 回復:2~3分の軽いジョギング
- 本数:3~5本
- 主観的運動強度:10段階で8~9程度
VO₂max付近で走る時間を確保しやすい代表的な方法です。
1本目から限界まで追い込まず、最後の1本までフォームと速度を大きく崩さないようにします。
- 疾走:2~3分
- 回復:疾走時間と同程度か、やや短いジョギング
- 本数:4~6本
- 主観的運動強度:10段階で8~9程度
3~4分間の疾走が難しい場合に取り入れやすい方法です。
- 疾走:1分
- 回復:1分の軽いジョギング
- 本数:6~10本
- 必要に応じて1~2セット
長い疾走区間より心理的に取り組みやすい一方、1本ごとに完全に休みすぎると、高い酸素摂取量へ到達する前に疾走が終わる場合があります。
速く走ることだけではなく、複数本を通して運動負荷を維持することがポイントです。
インターバル走のペースはどう決める?
VO₂maxを目的としたインターバル走では、研究上はVO₂maxや最大有酸素速度などを基準にする方法があります。
しかし、これらを正確に測定していない市民ランナーも多いでしょう。
その場合は、次の方法を組み合わせて調整します。
- 現在の3~5kmレースペースを大まかな参考にする
- 主観的運動強度を10段階で8~9程度にする
- 1本目から全力で走らない
- 最後まで同程度のペースを保つ
- フォームが大きく崩れる前に終了する

気温、坂道、風、疲労状態によって適切なペースは変わります。設定ペースを守るために無理をするのではなく、その日の状態に合わせて調整してください。
最大心拍数まで上げる必要はない
インターバル走では、最大心拍数に到達すること自体が目的ではありません。
心拍数は、走り始めてから遅れて上昇します。
特に短いインターバルでは、十分に高い運動強度で走っていても、疾走区間が終わるまでに心拍数が最大付近まで上がらないことがあります。
また、手首式心拍計には測定誤差が生じる場合があります。

心拍数だけで強度を判断せず、ペース、主観的運動強度、呼吸、フォーム、疾走区間全体の維持状態も確認しましょう。
速い30秒走ほどVO₂maxへ効果的とは限らない
「速く走るほどVO₂maxへの刺激も大きい」とは限りません。
2025年に発表された研究では、強度を高めた30秒間のインターバルより、従来型の3分間インターバルの方が、VO₂maxの90%を超えた時間が長くなりました。
短時間の疾走では速く走れる一方、酸素摂取量が十分に上昇する前に疾走区間が終わることがあります。
ただし、この研究は1回のトレーニング中の反応を比較したものであり、長期的なVO₂max向上効果を直接比較したものではありません。
短いインターバルにも、スピード、フォーム、無酸素性能力などを鍛える目的があります。目的に応じて使い分けましょう。
坂道インターバルも活用できる
坂道では、平地より遅い速度でも心肺機能や脚へ高い負荷を加えられます。
一方、勾配が急すぎると、心肺機能より先にふくらはぎ、臀部、大腿部などの筋疲労が限界になる場合があります。
坂道トレーニングは、目的に応じて分けて考えましょう。
- 疾走時間:10~20秒
- 回復:歩いて戻り、十分に休む
- 本数:4~8本
- 目的:パワー、フォーム、神経筋への刺激
- 疾走時間:1~3分
- 回復:ゆっくり下るか、十分なジョギング
- 本数:3~6本
- 目的:心肺機能と持続的な筋力発揮への刺激
短い坂道走と、VO₂maxへの刺激を狙う坂道インターバルは目的が異なります。
元気な状態で安全に走れる坂道を選び、下りでスピードを出しすぎないようにしてください。
鍛えたランナーほどVO₂maxは伸びにくい

トレーニング経験が少ない人は、通常のランニングを始めるだけでもVO₂maxが向上する可能性があります。
一方、すでに高いVO₂maxを持つランナーでは、数値の変化が小さくなる傾向があります。
鍛えた長距離ランナーを対象としたシステマティックレビューでは、採用された7研究のうち、インターバルトレーニング後に統計的に有意なVO₂max向上を示したのは1研究でした。
そのため、VO₂maxが変わらなかったからといって、トレーニング効果がなかったとは判断できません。
次の項目が改善している可能性があります。
- 同じVO₂maxでも走れる速度が上がった
- 乳酸閾値付近の速度が上がった
- 一定心拍数でのペースが上がった
- ランニングエコノミーが改善した
- タイムトライアル記録が短縮した
- レース後半の失速が小さくなった

トレーニング効果は、VO₂max以外の変化も含めて評価しましょう。
ポラライズドトレーニングが全員に最適とは限らない

持久系スポーツでは、低強度と高強度を組み合わせるポラライズドトレーニングが紹介されることがあります。
「低強度80%・高強度20%」という配分も有名です。
ただし、この割合がすべての市民ランナーに最適とは限りません。
2025年の個人データを用いたネットワークメタ解析では、ポラライズド型とピラミダル型の間で、VO₂maxとタイムトライアル成績に全体として明確な差はありませんでした。
サブグループ解析では、
- 競技レベルが高い選手はポラライズド型
- レクリエーショナル選手はピラミダル型
が有利な可能性も示されました。
ただし、対象者は男性296人、女性52人であり、性別にも偏りがあります。

市民ランナーは特定の割合へ無理に合わせるより、トレーニングの大部分を楽な強度で行い、回復できる範囲で高強度練習を加えるという考え方が実践しやすいでしょう。
VO₂maxを高めたい市民ランナーの1週間例
週4回走る場合は、次のような組み合わせが考えられます。
| 曜日 | トレーニング例 |
|---|---|
| 月 | 休養 |
| 火 | 30~50分のイージーラン |
| 水 | 休養または軽い筋力トレーニング |
| 木 | 3分×4~5本のインターバル走 |
| 金 | 休養 |
| 土 | 30~50分のイージーラン |
| 日 | 60~100分のロング走 |
これは一例であり、全員に必要なメニューではありません。

初心者、故障明け、睡眠不足が続いている人は、インターバル走を軽いファルトレクや短いペースアップへ変更してください。
最初は週1回以下から試しましょう。
例えば、通常のランニング中に、
- 1分間だけペースを上げる
- 2分間ゆっくり走る
- 3~5回繰り返す
という方法から始められます。

慣れてきたら、疾走時間や本数を少しずつ増やします。一度にペース、本数、疾走時間をすべて増やさないことがポイントです。
VO₂maxの数値が下がる原因

スマートウォッチのVO₂maxが一時的に低下しても、心肺機能が急に衰えたとは限りません。
推定値には、次のような条件が影響します。
- 暑さと湿度
- 脱水
- 睡眠不足
- 疲労の蓄積
- 坂道や向かい風
- 手首で測定した心拍数の誤差
- GPSの誤差
- 体調不良
- 長期間のトレーニング中断
- 体重設定の変化

特に暑い日は、同じペースでも心拍数が上がりやすくなります。
スマートウォッチは「心拍数が高いのにペースが遅い」と判断し、VO₂maxを低く推定する可能性があります。
1回の測定値でトレーニング内容を大きく変更せず、数週間の傾向を確認しましょう。
VO₂maxが上がらなくてもランニング能力は向上する

VO₂maxは、ランニング能力を評価する一つの指標です。
しかし、VO₂maxの数値が変わらなくても、
- 同じ心拍数で速く走れる
- 同じペースが楽に感じる
- テンポ走を長く維持できる
- ロング走の後半まで余裕がある
- レースで失速しにくくなる
- ランニングエコノミーが改善する
といった変化があれば、トレーニングは前進しています。

特に経験を積んだランナーほど、VO₂maxの大幅な上昇よりも、現在の有酸素能力を効率よく使う能力が記録向上につながる場合があります。
まとめ
VO₂maxは、身体が運動中に取り込み、運搬し、利用できる酸素量の最大値です。
中長距離走のパフォーマンスを左右する重要な指標ですが、VO₂maxだけでランニング能力が決まるわけではありません。
記録向上には、
- VO₂max
- 乳酸閾値などの持続可能な強度
- ランニングエコノミー
- 長時間走る能力
- 補給やペース配分
- 疲労管理
を総合的に高める必要があります。
VO₂maxを高めるには、高強度インターバルトレーニングが有効な方法の一つです。
一方、初心者やトレーニング量が少ない人では、低~中強度のランニングを継続するだけでも向上が期待できます。
スマートウォッチに表示されるVO₂maxは実測値ではありません。数値を絶対視せず、同じ機器での長期的な変化と、レース記録、走行ペース、心拍数、主観的なきつさを合わせて活用しましょう。
VO₂maxは「高ければ高いほどよい数字」として追い続けるのではなく、自分のトレーニングがどのように変化しているかを確認する一つの材料として使うことが大切です。
参考文献
- Bassett DR Jr, Howley ET. Limiting factors for maximum oxygen uptake and determinants of endurance performance. Med Sci Sports Exerc. 2000;32(1):70-84.
- Joyner MJ, Coyle EF. Endurance exercise performance: the physiology of champions. J Physiol. 2008;586(1):35-44.
- Montero D, Díaz-Cañestro C, Lundby C. Endurance training and V̇O₂max: role of maximal cardiac output and oxygen extraction. Med Sci Sports Exerc. 2015;47(10):2024-2033.
- Amann M. Pulmonary system limitations to endurance exercise performance in humans. Exp Physiol. 2012;97(3):311-318.
- Cairns SP. Lactic acid and exercise performance: culprit or friend? Sports Med. 2006;36(4):279-291.
- Akiyama H, Watanabe D, Miyachi M. Estimated standard values of aerobic capacity according to sex and age in a Japanese population: a scoping review. PLoS One. 2023;18(9):e0286936.
- 厚生労働省. 「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:全身持久力(最高酸素摂取量)について.
- Milanović Z, Sporiš G, Weston M. Effectiveness of high-intensity interval training and continuous endurance training for VO₂max improvements: a systematic review and meta-analysis of controlled trials. Sports Med. 2015;45(10):1469-1481.
- Coates AM, Joyner MJ, Little JP, Jones AM, Gibala MJ. A perspective on high-intensity interval training for performance and health. Sports Med. 2023;53(Suppl 1):85-96.
- Parmar A, Jones TW, Hayes PR. The dose-response relationship between interval-training and VO₂max in well-trained endurance runners: a systematic review. J Sports Sci. 2021;39(12):1410-1427.
- Fleckenstein D, et al. Intensified short VO₂max running intervals are inferior to traditional intervals in time spent above 90% VO₂max. Front Sports Act Living. 2025.
- Rosenblat MA, et al. Which training intensity distribution intervention will produce the greatest improvements in maximal oxygen uptake and time-trial performance in endurance athletes? A systematic review and network meta-analysis of individual participant data. Sports Med. 2025.
- Molina-Garcia P, et al. Validity of estimating the maximal oxygen consumption by consumer wearables: a systematic review with meta-analysis and expert statement. Sports Med. 2022;52:1577-1597.
- Železnik Mežan L. Accuracy of wearables for determining the maximal oxygen uptake and lactate threshold: a qualitative systematic review. Front Sports Act Living. 2025;7:1707991.
- Cooper KH. A means of assessing maximal oxygen intake: correlation between field and treadmill testing. JAMA. 1968;203(3):201-204.
- Bandyopadhyay A. Validity of Cooper’s 12-minute run test for estimation of maximum oxygen uptake in male university students. Biol Sport. 2015;32(1):59-63.
- Soares EM, et al. Cooper’s 12-minute run systematically underestimates laboratory-measured VO₂max in collegiate team-sport athletes. 2026.
- George JD, Vehrs PR, Allsen PE, Fellingham GW, Fisher AG. VO₂max estimation from a submaximal 1-mile track jog for fit college-age individuals. Med Sci Sports Exerc. 1993;25(3):401-406.
- Mayorga-Vega D, Aguilar-Soto P, Viciana J. Criterion-related validity of the 20-m shuttle run test for estimating cardiorespiratory fitness: a meta-analysis. J Sports Sci Med. 2015.
風を切るランニング 

[…] 「VO2max」は”体重1kgあたりに1分間で取り込める酸素の量”のことを言います。インターバル走は息が激しく乱れるくらい速いペースで走り、心拍数はほぼ最大値まで上がります。その結 […]
[…] しかし、完全に軽い練習だけになると、「VO2max」「LT」「ランニングエコノミー」などへの刺激が不足し、ランナーとしての戦闘力が低下してしまいます。 […]
[…] VO2Maxを鍛えるために必要なものを全て鍛えることが出来ます。 […]
[…] ランニング能力を説明するときは、VO₂maxが注目されがちです。しかし、VO₂maxが同程度のランナーでも、同じペースを楽に維持できる人と、早く疲れる人がいます。 […]