
「以前よりペースが上がらない」
「長く走ると急に失速する」「練習の疲れが抜けにくい」
こうした変化があると、練習量やフォームを見直したくなります。しかし、走るためのエネルギーや身体を修復する材料が足りていない可能性もあります。
糖質・脂質・タンパク質は、どれもランナーに必要な栄養素です。ただし、不足したときの影響は同じではありません。
糖質不足はペース維持、タンパク質不足は回復や身体の維持、脂質不足は食事全体のエネルギー確保や必須脂肪酸などの摂取に関わります。
そして、どの栄養素を見るときも、まず確認したいのは「食事全体の量が練習に見合っているか」です。
この記事では、3つの栄養素の役割と、不足がランニングに与える影響、食事の見直し方を解説します。
糖質・脂質・タンパク質の不足で何が違う?

| 栄養素 | ランニングを支える主な役割 | 不足したときに問題になりやすいこと |
|---|---|---|
| 糖質 | 筋肉・肝臓のグリコーゲンや血糖として運動を支える | 長時間走のペース維持、高強度練習の質、次の練習までの燃料回復 |
| 脂質 | エネルギー供給、必須脂肪酸の供給、脂溶性ビタミンの吸収を支える | 極端な制限によるエネルギーや栄養の不足。走力への直接的影響の大きさは明確ではない |
| タンパク質 | 筋肉などの組織の修復・維持、練習への適応を支える | 修復や身体の維持に必要な材料を確保しにくくなる |
この表は影響の特徴を整理したものです。「失速したから糖質不足」「筋肉痛があるからタンパク質不足」と、症状だけで原因を決めることはできません。

走るための燃料と、練習後に身体を整える材料の両方が必要です。
糖質不足|長時間走と高強度練習の質に影響しやすい

筋肉に蓄えたグリコーゲンが、走りを支える
食事から摂った糖質は、エネルギーとして使われるほか、筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられます。この蓄えには限りがあるため、日々の食事で補うことが大切です。

糖質と脂質は、走っている間に並行して利用されます。どちらか一方だけを使うわけではありません。特に速いペースを維持する場面では、糖質の利用が重要になります。
不足すると、予定したペースを維持しにくくなる
練習に対して糖質の摂取が少なく、グリコーゲンを十分に回復できないと、長時間走や強度の高い練習を予定どおり行いにくくなります。
例
ロング走の後半でペースを維持できない、閾値走やインターバル走を予定した内容でこなせない、といった問題の一因になり得ます。

ただし、後半の失速には、序盤のオーバーペース、暑さ、脱水、持久力不足なども関わります。失速をすべて「糖質切れ」で説明するのは適切ではありません。
練習後の糖質不足は、次の練習にも関わる
走った後にタンパク質だけを摂っても、糖質の補給が十分になるとは限りません。

毎日走る人や、朝と夕方に練習する人は、次の練習までに燃料を回復させる視点が必要です。プロテインだけで済ませず、おにぎり、パン、麺類、果物なども組み合わせましょう。
「脂肪を使える身体」なら糖質はいらない?
脂肪を多く使えることと、速く走れることは同じではありません。
Burkeらの研究では、低糖質・高脂質食によって脂肪の利用が増えた一方、競技ペースで必要な酸素量が増え、10km競歩の記録改善が認められませんでした。糖質を十分に摂る条件では記録が改善しています。

この結果を市民ランナーのすべての練習に当てはめることはできませんが、「脂肪燃焼が増えれば、持久系の記録も伸びる」とは言えないことを示しています。
脂質不足|極端な制限はエネルギーと栄養の確保を難しくする

食事の脂質と、体内に蓄えた体脂肪は別に考える
脂質もランニング中のエネルギー源です。しかし、「今日の食事の脂質が少なかったから、走っている途中で体脂肪がなくなる」という関係ではありません。

食事の脂質を減らし過ぎたときは、走行中の燃料切れだけでなく、必要なエネルギー、必須脂肪酸、脂溶性ビタミンを確保できているかが問題になります。
「脂質を控える」と「ほぼ摂らない」は違う
脂質は少量でもエネルギーを補いやすい栄養素です。主食も脂質も大きく減らし、運動量だけを増やすと、食事全体のエネルギーが不足しやすくなります。
油を使った料理、魚、卵、大豆製品、ナッツ類などを極端に避けている場合は、食事の幅も含めて見直しましょう。

一方、脂質不足だけでマラソンのタイムが何分落ちるのか、どの程度の制限で走力が下がるのかは、現時点で明確には分かりません。
月経異常や骨の問題も、脂質不足だけに原因を求めず、総エネルギー不足などを含めて評価する必要があります。
脂質を増やせば、長く走れるとは限らない
脂質を多く摂るために主食を減らすと、必要な糖質が不足する可能性があります。
また、レース直前の食事では胃腸への負担も考える必要があります。普段の食事で脂質を確保することと、走る直前に脂っこいものを多く食べることは分けて考えましょう。

脂質は極端に避けず、糖質やタンパク質も確保できる食事に整えましょう。
タンパク質不足|回復・身体の維持・練習への適応に関わる

タンパク質は、筋トレをする人だけに必要な栄養素ではありません。

ランニングでも筋肉をはじめとする組織の修復や作り替えが起こります。持久系の練習に適応していくためにも、必要量を確保することが大切です。

タンパク質の摂取が必要量を下回る状態では、練習後の修復や筋肉の維持に必要な材料を十分に供給しにくくなります。
減量のために食事全体を減らしている場合は、エネルギー不足も重なり得ます。
ただし、筋肉痛が長引くことや、脚が重いことだけでタンパク質不足とは判断できません。練習負荷や睡眠、糖質の摂取なども一緒に確認しましょう。
必要量を満たすことと、際限なく摂ることは違います。

肉やプロテインを増やして主食が減れば、走るための糖質が不足する可能性があります。食事で必要量を満たせる場合、プロテインを必ず追加する必要はありません。
研究を確認|何が分かっていて、何は言い切れない?

低糖質・高脂質食と持久系パフォーマンス
Burkeら(2017)の介入研究をPICOで整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P:対象 | エリート男性競歩選手 |
| I:介入 | 約3週間の強化練習と、糖質を1日50g未満に抑えた低糖質・高脂質食 |
| C:比較 | 糖質を十分に摂る食事、または糖質を摂るタイミングを練習に合わせて調整する食事 |
| O:評価 | 運動中の脂肪利用、一定速度で必要な酸素量、10km競歩の記録 |

低糖質・高脂質食では脂肪利用が増えましたが、運動効率の悪化がみられ、糖質を十分に摂った条件で得られた記録改善は認められませんでした。
ただし、対象は競歩のエリート選手で、期間も約3週間です。食事条件の割り当てには選手の希望も反映されており、完全な無作為化比較試験ではありません。脂質不足を調べた研究でもありません。
長距離を走った日のタンパク質必要量
Katoら(2016)の研究をPICOで整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P:対象 | 持久系トレーニングを行う成人男性6人 |
| I:介入 | 20km走後、タンパク質量を変えた食事を摂取 |
| C:比較 | 同じ参加者における異なるタンパク質摂取量 |
| O:評価 | 指標アミノ酸酸化法によって推定したタンパク質必要量 |
推定平均必要量は1日1.65g/kg、推奨摂取量に相当する推定値は1日1.83g/kgでした。

重要なのは、これは代謝指標から必要量を推定した研究であり、「この量を摂るとタイムが何分縮む」と示したものではない点です。対象者も少なく、すべてのランナーの必要量を一律に決めることはできません。
摂取量の目安|練習量に合わせて考えよう

糖質は、その日の練習に合わせて調整する
糖質の必要量は、走る時間や強度によって変わります。
国際陸上競技連盟の実用ガイドでは、中程度の練習からの日々の回復に、体重1kg当たり1日5〜7gが目安として示されています。体重60kgなら300〜420gです。
これはすべての市民ランナーが毎日目指す固定値ではありません。短時間の軽い運動と、長い距離を走る日では、必要量が異なります。また、「糖質300g」は「ご飯300g」という意味ではありません。
長時間走では、走る前後だけでなく運動中の糖質補給も検討します。AISの指針では、1〜2.5時間の持久運動で1時間当たり30〜60g、2.5〜3時間を超える運動では最大90gが目安です。

高い摂取量は胃腸の慣れや糖質の種類も関わるため、普段の練習で試しましょう。
タンパク質は1日の合計と食事への分散を意識する
2016年の共同声明では、運動する人のタンパク質摂取量として、体重1kg当たり1日1.2〜2.0gが示されています。体重60kgなら72〜120gです。

練習量などで必要量は変わるため、この範囲の下限なら必ず十分という意味ではありません。運動後だけに集中させず、朝・昼・夕の食事で魚、肉、卵、大豆製品、乳製品などを取り入れましょう。
脂質は、食事から極端に排除しない
脂質は、特定の油やサプリメントを追加する前に、普段の食事を確認しましょう。

「肉は脂の少ない部位だけ」「魚も卵も避ける」「調理油やナッツ類もほとんど摂らない」という制限が重なっていないかを見直します。
必要量は食事全体と合わせて調整するため、「油を何杯追加すれば解決する」とは一律に言えません。
最も見落としたくないのは、総エネルギー不足

三大栄養素の不足は、別々に起こるとは限りません。
例えば、減量のために主食と脂質を減らし、食事量を戻さず走行距離を増やせば、複数の不足が重なる可能性があります。
運動で消費した後、身体の正常な機能を支えるエネルギーが十分に残らない状態を「低エネルギー利用可能性」と呼びます。
問題となる状態が続くと、健康や競技能力に幅広い影響を与えるREDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)につながり得ます。

「体重が落ちているから練習がうまくいっている」とは限りません。栄養を減らし続ける前に、練習を継続できる状態かを確認することが大切です。
ランナーの食事|不足を防ぐ組み合わせの例

以下は、栄養素を組み合わせるための例です。これだけで必要量を満たす献立という意味ではなく、量は個別に調整します。
| 場面 | 食事・補食の例 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 朝食 | ご飯+卵・納豆+みそ汁 | 主食とタンパク質源の両方があるか |
| 昼食 | ご飯や麺+肉・魚・豆腐のおかず+野菜 | 麺だけ、サラダだけで済ませていないか |
| ランニング後 | おにぎり+牛乳・豆乳、または通常の食事 | タンパク質だけでなく糖質も補えているか |
| 夕食 | 主食+魚・肉・大豆製品+副菜 | 走った量に対して食事が少な過ぎないか |
| 食事量が足りない日 | パン、果物、乳製品、ナッツ類などを補食に | 3食で足りない分を補えているか |

最初から細かい計算を続けるのが難しい場合は、「主食を抜いていないか」「毎食タンパク質源があるか」「脂質を極端に避けていないか」から確認しましょう。
栄養不足を防ぐときによくある失敗

プロテインはタンパク質を補う手段です。必要なエネルギーや糖質、ほかの栄養素まで十分に摂れるとは限りません。まず普段の食事を整えましょう。
減量と練習量の増加が重なると、エネルギー不足が大きくなる可能性があります。記録を伸ばすための減量で、練習の質や健康を損なわないことが大切です。
走る当日のジェルだけでなく、日々の食事による燃料の回復も重要です。胃腸に合う補給量やタイミングも、事前に練習で確認しましょう。
不調には栄養以外にも、睡眠不足、練習負荷、暑さ、体調不良などが関わります。食事と練習、睡眠の記録を並べて確認すると、見直す点を整理しやすくなります。
食事の見直しだけで済ませず、相談したいサイン

次の変化が続く場合は、医師やスポーツ栄養に詳しい管理栄養士への相談を検討しましょう。
- 休んでも改善しない疲労や、継続的なパフォーマンス低下
- 意図しない体重減少
- 月経の乱れ・停止
- 疲労骨折などの骨のトラブルを繰り返す
- 食べる量を増やすことへの強い不安や、食事制限をやめられない状態

これらは特定の栄養不足を証明する症状ではありません。自己判断でサプリメントを増やすだけでなく、食事・練習・健康状態を一緒に評価することが大切です。
よくある質問

糖質不足なら、走る前に甘いものを食べれば解決しますか?
脂質は少ないほど、ランナーに有利ですか?
タンパク質を増やせば、糖質が少なくても走れますか?
どの栄養素が不足しているか、体感で分かりますか?
まとめ
糖質・脂質・タンパク質は、違う役割を通じてランニングを支えています。
- 糖質不足: 長時間走のペース維持や、高強度練習の質に影響しやすい。
- 脂質不足: 極端な制限で、エネルギーや必須脂肪酸などの確保が難しくなる。
- タンパク質不足: 身体の修復・維持、練習への適応に必要な材料を確保しにくくなる。
ただし、走力への影響を3つの栄養素だけで明確に切り分けられるとは限りません。

まずは食事全体の量を確認し、そのうえで練習に合わせた糖質、毎日のタンパク質、極端に制限しない脂質を整えましょう。
参考文献・資料
- Thomas DT, Erdman KA, Burke LM. American College of Sports Medicine Joint Position Statement. Nutrition and Athletic Performance. Med Sci Sports Exerc. 2016;48(3):543–568.
- Mountjoy M, et al. 2023 International Olympic Committee’s (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs). Br J Sports Med. 2023;57:1073–1098.
- Burke LM, et al. Low carbohydrate, high fat diet impairs exercise economy and negates the performance benefit from intensified training in elite race walkers. J Physiol. 2017;595(9):2785–2807.
- Witard OC, Garthe I, Phillips SM. Dietary Protein for Training Adaptation and Body Composition Manipulation in Track and Field Athletes. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2019;29(2):165–174.
- Kato H, Suzuki K, Bannai M, Moore DR. Protein Requirements Are Elevated in Endurance Athletes after Exercise as Determined by the Indicator Amino Acid Oxidation Method. PLoS One. 2016;11(6):e0157406.
- International Association of Athletics Federations. Nutrition for Athletics: A Practical Guide.
- Australian Institute of Sport. Sports drinks: How and when do I use it?
風を切るランニング 
