
「鼻から吸って口から吐いた方がいいの?」
「スッスッ、ハッハッと2回ずつ呼吸するのが正しい?」
「すぐに息が苦しくなるのは呼吸の仕方が悪いから?」
ランニングを始めると、同じように呼吸について疑問を感じることがありませんか?
特に初心者ランナーの場合、走り始めてすぐに息が上がると、「自分は呼吸が下手なのでは?」と感じることもあるかもしれません。
しかし、ランニング中に呼吸が速くなるのは、身体が運動に対応するための自然な反応です。また、ランニングには「この呼吸法をすれば必ず楽に走れる」という絶対的な正解があるわけではありません。
本記事では、ランニング中に呼吸が苦しくなる理由から、鼻呼吸と口呼吸の違い、呼吸のリズム、楽に走るためのポイント、呼吸筋トレーニングまで、科学的根拠をもとに解説します。
ランニング中はなぜ呼吸が速くなる?

ランニングをすると、脚を中心とした筋肉が多くのエネルギーを必要とします。
運動強度が高くなるにつれて、
- 酸素摂取量
- 二酸化炭素排出量
- 換気量
なども増えていきます。
そのため、走るペースが速くなるほど呼吸が深く、速くなるのは正常な生理反応です。
「息が苦しくなった=呼吸方法を間違えている」とは限りません。
単純に、自分の現在の体力に対してランニング強度が高すぎる可能性もあります。また、高強度の持久運動では、横隔膜などの呼吸筋にも大きな負荷がかかります。
研究では、高強度の持久運動後に横隔膜の疲労が生じることや、呼吸筋の仕事量が運動筋への血流配分に影響する可能性も報告されています。
つまり、激しいランニングでは脚だけでなく、呼吸を行う筋肉も働き続けています。
ただし、初心者ランナーがジョギング中に息苦しくなる原因を、すべて「呼吸筋疲労」で説明することはできません。

初心者の場合は、まずランニングペースが速すぎないかを確認することが重要です。
ランニングに「正しい呼吸法」はある?

ランニングの呼吸について調べると、
「鼻から吸って口から吐く」
「2回吸って2回吐く」
「鼻呼吸だけで走る」
といった方法が紹介されることがあります。

しかし、現在の研究からは、すべてのランナーに共通する絶対的な呼吸方法があるとは言えません。
呼吸は、
- ランニング強度
- 走るスピード
- 個人の体力
- 呼吸のしやすさ
- 普段の呼吸習慣
などによって変化します。

そのため、「特定の呼吸法に合わせること」よりも、「運動強度に応じて無理なく呼吸できているか」を考えることが大切です。
ランニングは鼻呼吸と口呼吸のどちらがいい?

鼻呼吸の特徴
鼻には、吸い込んだ空気を加温・加湿したり、異物をある程度ろ過したりする働きがあります。
低強度のランニングであれば、鼻呼吸だけでも十分に走れる人もいます。
普段から鼻呼吸でトレーニングしているレクリエーショナルランナーを対象とした小規模研究では、鼻呼吸でもVO₂maxや運動継続時間が低下しなかったことが報告されています。
ただし、この研究は対象者数が少なく、普段から鼻呼吸に慣れているランナーが対象です。
そのため、「すべてのランナーが鼻呼吸だけで走った方がよい」と一般化することはできません。
口呼吸や口鼻呼吸は悪い?
ランニング強度が上がると、身体が必要とする換気量も増えます。
そのため、鼻だけでは十分な空気を取り込みにくくなり、自然に口呼吸や鼻と口を併用した呼吸へ移行することがあります。
近年の呼吸経路を比較した研究でも、呼吸方法の違いによってVO₂maxや主要なパフォーマンス指標に明確な差が認められなかった報告があります。
つまり、
「口呼吸は悪い」
「鼻呼吸でなければ効率が悪い」
と単純に考える必要はありません。

ゆっくり走るときに鼻呼吸が楽であれば鼻呼吸を使い、強度が高くなって自然に口呼吸になるのであれば、無理に抑える必要はないでしょう。
「鼻から吸って口から吐く」が正解?

ランニングの呼吸法として、「鼻から吸って口から吐く」という方法もよく紹介されています。
しかし、現時点では、この方法がすべてのランナーにとって最も効率的であると断定できる強い科学的根拠は確認されていません。
重要なのは、呼吸方法そのものよりも、必要な換気量を確保できていることです。特に運動強度が高くなれば、鼻と口の両方を使って呼吸することは自然な反応です。

無理に「鼻から吸わなければならない」と考える必要はありません。
「2回吸って2回吐く」が正しい?

ランニングでは、「スッスッ、ハッハッ」というように、2歩で吸って2歩で吐く方法が紹介されることがあります。
これは一般的に「2:2」の呼吸リズムとして説明されます。
実際、人間のランニングでは、走る動作と呼吸のリズムが同期する現象が確認されています。
これを「Locomotor-Respiratory Coupling(運動・呼吸カップリング)」と呼びます。
ただし、呼吸リズムは2:2だけではありません。
研究では複数の呼吸パターンが確認されており、すべての人が同じ呼吸リズムで走るわけではありません。そのため、「2回吸って2回吐かなければいけない」と考える必要はありません。

一定の呼吸リズムを作ることで走りやすい人は活用してもよいですが、無理に歩数と呼吸を合わせる必要はないでしょう。
自分が自然に走れるリズムを優先することが大切です。
呼吸を意識すればランニングエコノミーは良くなる?

「呼吸を意識して走れば効率が良くなる」と考える人もいるかもしれません。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
ランナーを対象に、走動作や呼吸に注意を向けた場合と、外部の映像などに注意を向けた場合を比較した研究では、呼吸や身体動作に強く注意を向ける条件でランニングエコノミーが悪化したことが報告されています。
もちろん、この研究だけで「呼吸を意識してはいけない」と結論づけることはできません。
ただし、走っている間ずっと、
「今2回吸った」
「次は2回吐く」
「鼻から吸わないといけない」
と呼吸を細かくコントロールすることが、必ずしも効率的な走りにつながるとは限りません。

特に初心者ランナーの場合は、呼吸を無理に操作するよりも、まず走るペースを調整することが重要です。
ランニング中に息苦しくなる主な原因

ペースが速すぎる
初心者ランナーに最も多いのが、走り始めからペースを上げすぎることです。運動強度が高くなるほど酸素摂取量や換気量が増えるため、呼吸も速くなります。
「呼吸が苦しいから呼吸法を変える」のではなく、一度ペースを落としてみましょう。
ペースを落とすだけで呼吸が楽になる場合は、呼吸法よりも運動強度が原因だった可能性があります。
ウォームアップが不足している
走り始めから急にペースを上げると、心拍数や呼吸が急激に増加します。
最初の5〜10分程度をゆっくり走り、徐々に身体をランニングに慣らすことで、呼吸も安定しやすくなります。
ランニング経験が少ない
ランニングを始めたばかりの時期は、有酸素能力が十分に発達していないため、比較的低いペースでも呼吸が乱れることがあります。
継続的にランニングを行うことで、同じペースでも以前より楽に走れるようになる可能性があります。
環境の影響
暑さや湿度が高い環境では体温調節の負担が増え、同じペースでも身体への負荷が高くなります。
また、高地では酸素分圧が低下するため、平地より呼吸が苦しく感じやすくなります。

普段より呼吸が苦しいと感じたときは、ペースだけでなく気温や湿度などの環境条件も確認しましょう。
楽に呼吸しながら走る5つのポイント

走り始めは意識的にゆっくり入ります。
最初からペースを上げすぎると、呼吸が急激に乱れ、その後のランニングも苦しくなりやすくなります。
「鼻呼吸だけ」
「2回吸って2回吐く」
といったルールに無理に合わせる必要はありません。
自然に呼吸できる方法を基本にしましょう。
疲れてくると肩が上がったり、腕や首に力が入ったりすることがあります。
肩周囲に余計な力が入ると、リラックスして走りにくくなります。

肩を下げ、腕や手の力を抜いて走ることを意識しましょう。
ゆっくり走るイージーランでは、「会話できるかどうか」を運動強度の目安にする方法があります。
これを「トークテスト」と呼びます。
トークテストは、換気性閾値などと関連することが報告されており、運動強度を簡単に確認する方法の一つとして利用されています。
ゆっくり走る予定なのに、短い会話も難しいほど息が上がっている場合は、ペースが速すぎる可能性があります。ただし、「会話できる=必ず特定の心拍ゾーン」とは限りません。
あくまで簡易的な目安として活用しましょう。
呼吸を楽にするために最も基本となるのは、特別な呼吸法を覚えることではなく、継続的にトレーニングを行うことです。
低〜中強度のランニングを継続することで有酸素能力が向上すると、同じペースでも相対的な運動強度が低くなり、以前より楽に走れるようになる可能性があります。
初心者ランナーは「呼吸法」よりペースを意識しよう

ランニングを始めたばかりの人ほど、「どうやって呼吸すれば楽に走れるのか?」と考えがちです。
しかし、多くの場合は呼吸方法そのものより、走るペースが重要です。
ゆっくり走るつもりなのに、
- 会話がほとんどできない
- 数分で息が激しく乱れる
- 苦しくて長く続けられない
のであれば、一度ペースを落としてみましょう。

ランニングとウォーキングを組み合わせながら、徐々に走る時間を増やしていく方法も有効です。
初心者のうちは「正しい呼吸」を覚えることより、「苦しくなりすぎない強度」を覚えることが大切です。
速く走るときは呼吸が乱れてもいい?
テンポ走や閾値走、インターバル走など、運動強度の高いトレーニングでは呼吸が大きく乱れます。
これは身体が高い運動強度に対応するための正常な反応です。
高強度トレーニング中に「鼻呼吸を維持しなければならない」「会話できなければならない」と考える必要はありません。
トレーニングの目的によって適切な強度は異なります。

ゆっくり走る日は呼吸に余裕を持ち、高強度トレーニングでは呼吸が大きくなることを許容する。このように、トレーニング目的に合わせて考えることが重要です。
呼吸筋トレーニングはランニングに効果がある?

呼吸には横隔膜や肋間筋など、多くの筋肉が関わっています。
これらの呼吸筋をトレーニングする方法として、吸気筋トレーニング(Inspiratory Muscle Training:IMT)などがあります。
アスリートを対象としたシステマティックレビュー・メタ解析では、呼吸筋トレーニングによって一部の持久系パフォーマンス指標が改善する可能性が報告されています。
また、健康成人を対象としたメタ解析でも、運動パフォーマンス改善の可能性が示されています。
ランナーを対象とした研究では、吸気筋トレーニングによって吸気筋機能や運動継続能力、5000mパフォーマンスが改善した報告もあります。
一方で、すべての研究でパフォーマンス改善が認められているわけではありません。そのため、「呼吸筋トレーニングをすれば必ずマラソンが速くなる」とは言えません。
ランニングそのもののトレーニングを基本としたうえで、必要に応じて補助的に取り入れる方法の一つと考えるのがよいでしょう。
また、呼吸筋トレーニングの効果と、「鼻から吸って口から吐く」「2回吸って2回吐く」といった呼吸方法の効果は別の問題です。
呼吸筋トレーニングに効果が認められたからといって、特定の呼吸パターンが優れていることの証明にはなりません。
ランニングの呼吸に関するよくある質問
鼻呼吸だけで走った方がいい?
低強度では鼻呼吸が可能な人もいますが、運動強度が高くなると必要な換気量が増え、自然に口呼吸や口鼻呼吸になることがあります。
無理に鼻呼吸だけに制限する必要はないでしょう。
口呼吸は悪い?
高強度運動では、口からも空気を取り入れることは自然です。
特定の呼吸経路だけにこだわるより、必要な換気量を確保できていることが重要です。
「2回吸って2回吐く」のが正解?
ランニング中には複数の呼吸リズムが存在します。
自分が走りやすければ利用してもよいですが、無理に固定する必要はありません。
息はしっかり吐いた方がいい?
ただし、「強く吐けば必ず酸素を多く取り込める」と単純に考えることはできません。
自然な呼吸を妨げない範囲で利用しましょう。
呼吸が苦しくなったらどうすればいい?
ゆっくり走るトレーニングでは、会話できる程度の強度も一つの目安になります。
ただし、胸痛、強い動悸、失神しそうな感覚、普段とは異なる強い息苦しさなどがある場合は、単なるランニング強度の問題とは限らないため注意が必要です。まずペースを落としましょう。
まとめ|ランニングは「正しい呼吸法」より適切な強度が大切
ランニングには、すべての人に共通する絶対的な呼吸法があるわけではありません。
「鼻呼吸だけで走る」
「鼻から吸って口から吐く」
「必ず2回吸って2回吐く」
といった方法に無理に合わせる必要はありません。
ランニング中の呼吸は運動強度によって自然に変化します。低強度では呼吸に余裕があり、運動強度が高くなれば呼吸も速くなります。
特に初心者ランナーの場合、息が苦しくなったときに呼吸方法だけを変えようとするのではなく、まず走るペースを見直すことが大切です。
ゆっくり走る日は会話できる程度を一つの目安にし、無理なく続けられるペースで走ってみましょう。
呼吸は「コントロールしなければならないもの」というより、身体の運動強度を教えてくれるサインの一つです。
呼吸の状態を上手に利用しながら、自分に合ったランニング強度を見つけていきましょう。
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