
「ランニングを始めたけど、思うようにスピードが出ない……」
「走るとすぐに疲れるし、膝への負担も気になる……」
そんなとき、ランニングフォームを見直す指標のひとつになるのが「ランニングピッチ」です。
ランニングにおけるピッチとは、1分間あたりの歩数のこと。ランニングのスピードは、主に「ピッチ」と「1歩の長さ」の組み合わせによって変わります。
そのため、速く走ろうとして無理に歩幅を広げるだけでなく、「どのくらいのテンポで足を動かしているか」を確認することも大切です。
研究では、普段のピッチから5〜10%程度増やすことで、歩幅が短くなり、膝や股関節などのバイオメカニクスが変化することが報告されています。
一方でよく言われている
「180歩/分がすべてのランナーにとって理想」
「ピッチを上げればケガを予防できる」
「ピッチを上げれば必ず速くなる」
というわけではありません。
この記事では、ランニングピッチの基本から、ピッチを調整するメリット、最適なピッチの考え方、ピッチを高めるコツやトレーニング方法まで研究をもとに解説します。
【結論】

- 1.ランニングピッチとは「1分間あたりの歩数」
- 2.すべてのランナーに共通する理想のピッチ数は決まっていない
- 3.一定速度でピッチを5〜10%程度増やすと、歩幅や膝・股関節の力学的負荷が変化する可能性がある
- 4.ピッチを高めれば必ずケガを予防できる、速くなるとは限らない
- 5.まず現在のピッチを確認し、必要に応じて少しずつ調整する
- 6.ピッチを高める練習にはメトロノームやランニングウォッチを活用できる
ランニングピッチとは?

ランニングピッチとは、ランニング中に1分間で何歩進むかを表す数値です。
例えば、左右の足を合わせて1分間に170歩進んだ場合は、「170spm(steps per minute)」と表します。
ランニングウォッチでは「ケイデンス」と表示されることもあります。
ピッチは、足をどのくらいのテンポで動かしているかを確認するための指標です。
※ピッチと「接地時間」は別の指標です。ピッチが高くなることで接地時間が変化する場合はありますが、「ピッチ=接地時間」ではありません。

ランニングスピードは「ピッチ×1歩の長さ」で変わる

ランニングのスピードは、基本的に「1歩あたりの距離」×「1分間あたりの歩数」によって決まります。
つまり、スピードを上げるには、
・ピッチを増やす
・1歩の距離を長くする
・ピッチと歩幅の両方を変える
という方法があります。
実際のランニングでは、スピードが上がるにつれてピッチと歩幅の両方が変化します。そのため、「ピッチ走法」と「ストライド走法」を完全に別の走法として考える必要はありません。
むしろ、「自分はピッチと歩幅をどのように使ってスピードを作っているのか」を見るための指標として考えると分かりやすいでしょう。
研究分野でも、「ピッチ走法」という独立した走法よりも、ステップレートやケイデンスを変化させたときに、ランニング動作や関節への負荷がどう変化するかが主に研究されています。
最適なランニングピッチは180spm?

ランニングでは、「理想のピッチは180spm」と言われることがあります。しかし、すべてのランナーが180spmを目指す必要はありません。
エリートランナーでもピッチには個人差があります。
100km世界選手権に出場したエリートウルトラランナーを調査した研究では、平均ピッチは約182spmでしたが、個人別では約155〜203spmと大きな幅がみられています。
また、同じランナーでも走るスピードによってピッチは変化します。
ピッチには、
・ランニングスピード
・身長や脚の長さ
・ランニングフォーム
・ランニング経験
・路面
・勾配
・疲労状態
など、さまざまな要因が関係します。

そのため、「160spmだから低すぎる」・「180spmにしなければならない」と数字だけで判断することはおすすめできません。
まずは、自分が普段どのくらいのピッチで走っているのかを確認することが大切です。
ピッチを高めるとランニングフォームはどう変わる?

ピッチについて研究で比較的明らかになっているのは、「ピッチを上げればケガが減る」・「ピッチを上げれば速くなる」ということではありません。
一定速度でピッチを増やしたときに、ランニング中のバイオメカニクスが変化することです。
システマティックレビュー・メタ解析では、ピッチを増加させることで、
- 歩幅の減少
- 最大膝屈曲角度の減少
- 最大股関節内転角度の減少
- 最大膝伸展モーメントの減少
などが報告されています。
さらに、一部の研究ではブレーキインパルスや膝蓋大腿関節への負荷が減少する可能性も示されています。
一方で、実際のケガ発生率やランニングパフォーマンスへの長期的な影響については、まだ十分な研究がありません。
ピッチを高めるメリット

歩幅をコンパクトにしやすい
同じスピードを維持したままピッチを高めると、1歩あたりの距離は短くなります。
Heiderscheitらの研究では、普段のピッチから5〜10%増加させることで、
・歩幅
・身体重心の上下動
・ブレーキインパルス
・最大膝屈曲角度
などが減少しました。
そのため、足を身体より大きく前方へ伸ばして着地する傾向があるランナーでは、ピッチを少し高めることが走り方を調整する方法のひとつになります。
膝への負荷を減らせる可能性がある
ピッチ調整で特に研究されているのが、膝関節への影響です。
Lenhartらの研究では、普段より10%ステップレートを増加させることで、推定された最大膝蓋大腿関節力が14%減少しました。
※ただし、「膝蓋大腿関節力が14%減った=膝のケガが14%減る」という意味ではありません。
あくまで、ランニング中に膝へ加わる力の一部が減少したという結果です。

そのため、「ピッチを高めれば膝のケガを予防できる」ではなく、「ピッチを調整することで、膝への力学的負荷の一部を変えられる可能性がある」と考えるのが適切です。
オーバーストライドを調整しやすい
ピッチを高めると、一定速度では自然と歩幅が短くなります。
そのため、身体より大きく前方へ足を伸ばして着地する「オーバーストライド」を調整する方法のひとつになります。
※ただし、「必ず身体の真下に着地する」と意識する必要はありません。
着地位置は走行速度や身体の動きによって変化します。

無理に「真下」を狙うより、「足を必要以上に前へ伸ばさない」・「歩幅を無理に広げない」と考えるほうが実践しやすいでしょう。
ランニングのリズムを作りやすい
ピッチはランニングのリズムを作る要素のひとつです。
一定のテンポを意識すると、リズムの乱れやペースの変化に気づきやすくなる場合があります。
ランニングウォッチやメトロノームを活用すれば、自分のピッチを数値や音で確認することもできます。
ピッチを高めるとランニングエコノミーは良くなる?

「ピッチが高い=省エネ」とは限りません。
一定速度で走る場合、人はエネルギー消費を比較的抑えやすいピッチに近いステップレートを自然に選択している可能性があります。
研究でも、経験のあるランナーが自然に選択するステップレートと、エネルギー効率が良いステップレートが比較的近いことが報告されています。
そのため、「160spmだから180spmにすればランニングエコノミーが良くなる」とは限りません。
自然なピッチから大きく外れることで、かえって走りにくくなったり、エネルギー消費が増えたりする可能性もあります。

ピッチは「高いほど良い」のではなく、自分の走りや目的に合わせて調整することが重要です。
ピッチを高めればケガを予防できる?

現時点では、「ピッチを高めることでランニング障害を予防できる」と断定できるだけの研究はありません。
ピッチ調整によるバイオメカニクスの変化を調べた研究は多くありますが、実際のケガ発生率を長期間追跡した研究は限られています。

そのため、「ピッチを高める=ケガ予防」ではなく、「ケガに関連する可能性のある一部の力学的負荷を変化させる方法のひとつ」と理解しましょう。
膝が痛いランナーにはピッチ調整が有効?
膝蓋大腿痛があるランナーに対しては、ピッチを調整する「ランニングフォーム再学習」の研究も行われています。
2024年のランダム化比較試験では、膝蓋大腿痛があるランナーを対象に、ピッチを7.5〜10%増加させるトレーニングが検討されました。
その結果、ピッチを調整したグループでは、介入なしのグループと比較して6か月後のランニング時の痛みに改善が認められました。
※ただし、小規模な研究であり、すべての膝痛ランナーに同じ効果があるとは限りません。
また、ランニング中の膝痛には、
・トレーニング量
・走行距離の急激な増加
・筋力
・ランニングフォーム
・過去のケガ
など、さまざまな要因が関係します。

痛みがある場合は、ピッチだけで解決しようとせず、原因を総合的に確認することが大切です。
坂道ではピッチを意識したほうがいい?

上り坂では、平地と同じ歩幅を維持することが難しくなります。
そのため、歩幅を無理に広げず、一定のリズムを保ちながら走ることが大切です。
ただし、
「ピッチを上げれば坂道でも疲れない」
「ピッチを増やして平地と同じペースを維持する」
と考える必要はありません。
上り坂ではエネルギー消費そのものが増加します。
長距離レースでは、
- 歩幅を無理に広げない
- リズムを大きく崩さない
- 必要に応じてペースを落とす
ことを意識しましょう。
ピッチは「ペースを維持するための絶対的な数字」ではなく、「リズムを保つための指標」として活用するのがおすすめです。
ランニングピッチを高めるコツ

現在のピッチを確認する
まずは、自分が普段どのくらいのピッチで走っているか確認しましょう。
ランニングウォッチを使用している場合は、ケイデンスやピッチの項目を確認できます。
可能であれば、
・イージーラン
・ペース走
・スピード練習
など、異なる速度でも確認してみてください。
※走るスピードによってピッチは変化するため、1回測定した数字だけで判断しないことが大切です。
いきなり180spmを目指さない
研究では、自然なピッチから5〜10%増加させる条件が多く用いられています。
例えば、普段160spmで走っている場合は、
5%増加:約168spm
10%増加:約176spm
となります。
ただし!!すべてのランナーが10%上げる必要はありません。まずは数%程度の小さな変化から試し、違和感なく走れるか確認しましょう。
歩幅を無理に広げない
ピッチを高めるときは、「足をとにかく速く動かそう」と力む必要はありません。
- 足を必要以上に前へ伸ばさない
- 歩幅を少しコンパクトにする
- 軽いテンポで足を入れ替える
というイメージで走ると調整しやすくなります。

腕振りでリズムを作る
腕振りと脚の動きは連動しています。
そのため、腕振りのリズムを意識することで、ピッチを調整しやすくなる場合があります。
ポイントは、
・肩の力を抜く
・肘は自然に曲げる
・腕を大きく振りすぎない
・一定のリズムを意識する
ことです。

腕振りの肘は「必ず90度にする」必要はありません。自分がリラックスして走れる腕振りを基本にしましょう。
ピッチを高めるランニングトレーニング・ドリル

①メトロノームを使ったピッチ走
ピッチを高める方法として、研究で多く使われているのがメトロノームです。
まず現在のピッチを確認し、それより少し高いテンポに設定します。
例えば普段160spmなら、165〜168spm程度から試します。メトロノームの音に足の着地を合わせながら走りましょう。
ポイントは、「スピードを上げる」のではなく、「同じようなスピードで、足の入れ替えを少し速くする」ことです。
最初からランニング全体を変える必要はありません。短時間から練習しましょう!!
②ピッチ変化走
「通常のピッチ」
↓
「少し高いピッチ」
↓
「通常のピッチ」
ランニング中にピッチを変化させながら走る方法です。
例えば、
通常のランニング2〜3分
↓
ピッチを意識して1分
↓
通常のランニング2〜3分
という流れを繰り返します。
普段のピッチとの違いを感じながら練習できるため、初心者でも取り入れやすい方法です。
③ランニングウォッチでピッチを確認する
ランニングウォッチでリアルタイムのピッチを確認しながら走る方法もあります。目標ピッチを設定し、「現在のピッチとの差」を確認しながら走ります。
※ただし、数字ばかり気にするとフォームが不自然になることもあります。
短時間だけ確認し、徐々に自分の感覚でリズムを作れるようにしましょう。
④メトロノームを外してリズムを維持する
メトロノームを使った練習では、最終的に音がなくても同じリズムを再現できることが理想です。
例えば、
①メトロノームに合わせて走る
②音を止める
③同じリズムを意識して走る
④ランニングウォッチでピッチを確認する
という方法があります。
「音に合わせる」
↓
「音を外す」
↓
「自分の感覚で再現する」
という流れで、新しいリズムを身につけていきます。
⑤音楽のBPMを活用する
メトロノームが苦手な人は、音楽のBPMを利用する方法もあります。
例えば165spmを目標にする場合は、165BPM前後の音楽に合わせて走ります。
※ただし、音楽によるピッチ調整については研究結果が一致していません。
正確にピッチを調整したい場合はメトロノームを使用し、音楽は「リズムを作りやすい人の選択肢」と考えるとよいでしょう。
ピッチトレーニングの注意点

ピッチを高めるトレーニングでは、「とにかく180spmを目指す」必要はありません。
注意したいポイントは、
- いきなり大きくピッチを変えない
- スピードまで一緒に上げすぎない
- 歩幅を極端に小さくしない
- 足だけを忙しく動かさない
- 身体全体に力を入れすぎない
- 違和感や痛みが出たら無理に続けない
ことです。
ピッチを高める目的は「数字を大きくすること」ではありません。ランニングフォームや身体への負担を調整するための方法のひとつです。

現在のフォームに問題がなく、痛みもなく、快適に走れている場合は、無理にピッチを変更する必要はありません。
「かかとをお尻に引き付ける」必要はある?
ピッチを高める方法として、「かかとをお尻へ引き付ける」と説明されることがあります。
しかし、ピッチを高めるために意識的にかかとをお尻へ近づける必要はありません。走るスピードが上がれば、脚の回収動作や膝の曲がり方は自然に変化します。
意識的にかかとを高く引き上げると、余計な動きになる可能性もあります。
ピッチを調整するときは、「かかとをお尻へ引き付ける」よりも、
- 歩幅を無理に広げない
- 足を必要以上に前へ伸ばさない
- 軽いテンポで足を入れ替える
と考えるほうが実践しやすいでしょう。
ランニングピッチ:まとめ
ランニングピッチとは、1分間あたりの歩数を表す指標です。
ピッチはランニングフォームを考えるうえで役立ちますが、
「180spmが正解」
「ピッチが高いほどランニングエコノミーが良い」
「ピッチを高めればケガを予防できる」
という単純なものではありません。
現在の研究から比較的明らかになっているのは、一定速度でピッチを少し増加させることで、
・歩幅が短くなる
・身体重心の上下動が小さくなる可能性がある
・ブレーキ動作が小さくなる可能性がある
・膝や股関節の一部の力学的負荷が減少する
といったランニングバイオメカニクスの変化が起こることです。
一方で、実際のケガ予防やランニングパフォーマンス向上については、まだ十分な研究がありません。
そのため、初心者ランナーが全員180spmを目指す必要はありません。
まずは自分の普段のピッチを確認しましょう。
そのうえで、
・オーバーストライドが気になる
・膝への負担を調整したい
・ランニングフォームを見直したい
・リズムよく走れるようになりたい
といった目的がある場合に、現在のピッチから少しずつ調整します。
メトロノームやランニングウォッチを利用すれば、ピッチを意識したトレーニングも行えます。

ピッチは「高ければ高いほど良い数字」ではありません。
自分に合った走り方を探すためのひとつの指標として、上手に活用していきましょう。
参考文献
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