ランニングでエネルギー切れが起こる原因は?症状・ハンガーノック対策と補給方法

 長い距離を走っている途中で、急に脚が動かなくなったり、頭がぼんやりしたりした経験はないでしょうか。ランナーが「エネルギー切れ」「ガス欠」「ハンガーノック」と呼ぶ状態かもしれません。

 ランニング中のエネルギー切れには、体内に蓄えた糖質の減少が深く関係します。ただし、後半の失速をすべて糖質不足だけで説明することはできません。前半のオーバーペース、暑さ、脱水、筋疲労、胃腸トラブルなどが重なっていることもあります。

 結論からいえば、エネルギー切れを防ぐ基本は次の4点です。

  • レース前までに必要な糖質を取る
  • 空腹を感じる前から計画的に補給する
  • 走行時間に合った糖質量を目指す
  • 前半に飛ばしすぎない

 この記事では、ランニングでエネルギー切れが起こる仕組みと症状、ハンガーノックや30kmの壁との関係、食事・補給による予防方法を研究やスポーツ栄養の指針に基づいて解説します。

目次

ランニング中のエネルギー切れとは?

 ランニングでは、主に糖質と脂質を使ってATPと呼ばれる運動のためのエネルギーを作ります。身体に蓄えられた糖質は、筋肉や肝臓のグリコーゲン、血液中のグルコースとして利用されます。

研究

 脂質の貯蔵量は多い一方、糖質として蓄えられる量には限りがあります。また、走るペースが速くなるほど、一般に糖質への依存度が高まります

 そのため、長時間のランニングを補給なしで続けたり、序盤から速すぎるペースで走ったりすると、利用できる糖質が少なくなり、同じペースを維持しにくくなります。

 ただし、「エネルギー切れ」は医学的に統一された診断名ではありません。

走(かける)
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実際には、筋グリコーゲンの低下、血糖維持の難しさ、中枢性の疲労、筋損傷、体温上昇、脱水などが複合して起こる状態をランナーが広く表現した言葉です。

エネルギー切れで現れやすい症状

 次のような変化が複数重なる場合は、エネルギー切れが疑われます。

  • 急にペースを保てなくなる
  • 脚が重く、力が入らない
  • 強い空腹感がある
  • 集中しにくく、判断が遅くなる
  • ぼんやりする、ふらつく
  • 冷や汗、手の震え、動悸が出る
  • 強い疲労感や気力の低下を感じる

 空腹感が出ないまま失速する人もいるため、「お腹が空いたら補給する」では遅れる可能性があります。時間や距離を決め、症状が出る前から補給することが大切です。

 一方、めまい、吐き気、頭痛、悪寒、ふらつきは、低血糖だけでなく脱水や熱中症でも起こります。症状だけで原因を断定せず、安全を優先してください。

エネルギー切れとハンガーノックの違い

 ハンガーノックは、サイクリングやランニングなどの持久系スポーツで、糖質を利用しにくくなり、急激な疲労やペース低下、集中力低下などが現れた状態を指す俗称です。「ボンク」「ガス欠」と呼ばれることもあります。

 実際の使われ方では、エネルギー切れとハンガーノックに明確な境界はありません。ただし、言葉のニュアンスは次のように整理できます。

言葉一般的な使われ方ポイント
エネルギー切れ後半に動けなくなる状態の総称糖質不足以外の原因も含みやすい
ハンガーノック糖質不足や血糖低下が強く疑われる急激な不調空腹、冷や汗、震え、集中力低下を伴うことがある
30kmの壁フルマラソン後半で起こる大幅な失速30km地点に限定されず、原因も糖質不足だけではない
低血糖血糖値が低い状態を示す医学用語測定しなければ症状だけで確定できない
走(かける)
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つまり、「脚が重い=必ずハンガーノック」「30kmで落ちた=グリコーゲンが完全に空になった」とは限りません。

 

ランニングでエネルギー切れが起こる6つの原因

1.長時間の運動でグリコーゲンが減少する

 筋グリコーゲンは運動している筋肉の燃料として使われ、肝グリコーゲンは血糖の維持に役立ちます。運動が長くなるほど貯蔵量は減り、糖質の利用可能性が低くなると、高い強度を維持しにくくなります。

 筋グリコーゲンが完全にゼロにならなくても、使いやすい場所のグリコーゲンが減ることで筋収縮が制限される可能性があります。そのため、「体内の糖質をすべて使い切った」と単純に考えるより、必要な速度で糖質を供給できなくなった状態と捉える方が適切です。

2.前半のペースが速すぎる

 運動強度が上がると糖質の利用割合も増えやすくなります。フルマラソンの序盤で目標ペースを大きく上回ると、後半に残したい糖質を早い段階で多く使うことになります。

 さらに、オーバーペースは筋疲労や体温上昇も進めます。エネルギー切れを防ぐには補給だけでなく、序盤を抑えたペース配分も重要です。

研究

 マラソンのペーシングに関するシステマティックレビューでも、一定に近いペースを保つことの重要性が示されています。

3.走る前の糖質摂取が少ない

 前日の食事量が少ない、朝食を抜く、減量中で糖質を強く制限するといった状況では、スタート時点のグリコーゲン量が不十分になる可能性があります。

 特に早朝は、睡眠中にも肝グリコーゲンが使われています。長時間走る日に何も食べずにスタートすると、血糖を維持する余裕が小さくなります。

4.ランニング中の補給が遅い・少ない

研究

 2〜4時間以上走るフルマラソンでは、体内の貯蔵糖質だけですべてを賄うことは難しくなります。糖質補給には、血糖と糖質酸化を維持し、持久性パフォーマンスを支える効果があります。

 「空腹になったら取る」「30kmを過ぎてから取る」では、吸収されて利用できるまでの時間を考えると遅すぎる場合があります。

5.暑さ・脱水・胃腸トラブルが重なる

 暑い環境では体温調節の負担が増え、脱水も進みやすくなります。吐き気や腹痛でジェルやドリンクを取れなくなると、予定した糖質量を下回り、エネルギー切れにつながります。

 糖質濃度の高いジェルを水なしでまとめて取ることも、胃腸症状を起こす一因です。補給量だけでなく、水分との組み合わせや胃腸の耐性も確認する必要があります。

6.距離に対する持久力が不足している

 ロング走が不足していると、長時間走行に必要な筋持久力や補給への慣れが十分でない可能性があります。糖質を取れば必ず後半まで走れるわけではありません。

 エネルギー切れ対策は、食事やジェルだけでなく、適切な走行距離、ロング走、ペース練習、回復を含めて考えます。

エネルギー切れとフルマラソンの「30kmの壁」の関係

 30kmの壁とは、フルマラソン後半にペースが大きく落ちる現象です。必ず30km地点で起こるわけではなく、25km付近から始まる人もいれば、35km以降に現れる人もいます。

研究

 約400万件のレース記録を分析した研究では、レース後半の著しい失速を「壁」の代理指標として調べています。

 その結果、市民ランナーに後半の大きなペース低下が珍しくないこと、失速が完走タイムへ大きく影響することが示されました。

 30km前後は、走行時間が長くなってグリコーゲンが減少し、筋疲労や体温上昇も蓄積する時期です。そのためエネルギー切れは30kmの壁の重要な要因ですが、次の要素も関係します。

  • 前半のオーバーペース
  • 大腿四頭筋やふくらはぎなどの筋疲労・筋損傷
  • 暑さと体温上昇
  • 脱水
  • 胃腸症状による補給不足
  • 心理的疲労や集中力の低下

 

走(かける)
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したがって、30kmの壁を防ぐには「ジェルを増やす」だけでなく、ペース配分とトレーニングも調整する必要があります。

走る前・レース前の食事でエネルギー切れを防ぐ

普段の食事で糖質を不足させない

 糖質の必要量は、走行時間や強度によって変わります。毎日同じ量に固定するのではなく、ロング走や高強度練習の前後は増やし、休養日は活動量に合わせて調整します。

 持久系トレーニングの負荷が高い日に糖質を極端に減らすと、練習の質や回復を損なう可能性があります。ご飯、パン、麺、いも類、果物などを組み合わせましょう。

90分を超えるレースではカーボローディングを検討する

 スポーツ栄養の指針では、90分を超える持久系競技に向けて、レース前36〜48時間に体重1kg当たり1日10〜12gの糖質を取る方法が示されています。

 体重60kgなら1日600〜720gとなり、かなり多い量です。普段の食事のまま主食だけを大量に増やすと、脂質や食物繊維まで増えて胃腸に負担をかけることがあります。低脂質・低食物繊維の食品や糖質飲料も使い、練習段階から試してください。

 

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すべての市民ランナーが上限量まで取る必要があるわけではありません。必要量、体格、食欲、胃腸の耐性に応じ、スポーツ栄養士へ相談する方法もあります。

スタート1〜4時間前に糖質を取る

 レースや長時間の練習前は、開始1〜4時間前に体重1kg当たり1〜4gの糖質を取ることが推奨されています。開始までの時間が短いほど少量にし、脂質や食物繊維、たんぱく質は胃腸の耐性に合わせて控えます。

 目安は次のとおりです。

スタートまで食事例ポイント
3〜4時間ご飯・食パン・うどん+少量のおかず+バナナ普段から食べ慣れた内容にする
1〜2時間おにぎり、カステラ、バナナ、エネルギーゼリー脂質と食物繊維を控えめにする
30分以内少量のスポーツドリンク、ジェルなど胃腸が弱い人は無理に取らない
走(かける)
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大会当日に初めての食品を試さず、ロング走で食事の時間と量を確認しておきましょう。

 

ランニング中に必要な糖質補給量

 糖質補給は走行距離よりも、主に運動時間と強度を基準に考えます。World Athleticsでは、1〜2.5時間の運動で1時間当たり30〜60g2.5時間を超える運動では最大90gを目安としています。

走行時間糖質補給の目安実践例
60分未満多くの場合は必須ではない普段の食事と水分を整える
60〜90分少量〜30g/時を状況に応じてスポーツドリンク、ジェル半量など
1〜2.5時間30〜60g/時25gのジェル1個+糖質飲料など
2.5時間超60〜90g/時まで複数の糖質を含むジェル・飲料を組み合わせる

 90g/時は、すべてのランナーが最初から目指す量ではありません。多量摂取では胃の張り、吐き気、腹痛、下痢が起こることがあります。まず30〜45g/時程度から試し、ロング走で段階的に増やします。

 60g/時を超える量を目指す場合は、ブドウ糖系と果糖を組み合わせた製品が候補です。異なる輸送経路を使うことで、単一の糖質より多くの外因性糖質を利用しやすくなります。

補給は早めに開始し、小分けにする

 補給はエネルギー切れを感じてからではなく、スタート後30分前後を目安に開始し、その後は20〜30分ごとなど、自分の目標量に合う間隔へ分けます。

 例えば、糖質25gのジェルを2個使えば50g/時です。ただし、スポーツドリンクに含まれる糖質も合計します。ジェルだけで目標量を計算すると、予定以上に摂取して胃腸トラブルを起こす可能性があります。

エネルギー切れ対策に使う補給商品の選び方

 商品名ではなく、1個当たりの糖質量、携帯性、水の必要性、食べやすさ、胃腸との相性で選びます。

種類特徴選ぶときのポイント
エネルギージェル小さく、20〜30g前後の糖質を取りやすい糖質量、水が必要か、カフェインの有無を確認
エネルギーゼリー水分が多く飲み込みやすい容量と重さ、1個当たりの糖質量を確認
スポーツドリンク水分・糖質・電解質を同時に取れるエイドの濃度と摂取量から糖質量を見積もる
グミ・チュー少量ずつ分けやすい走りながら安全にかめるか確認
バナナようかんカステラなど食べ慣れた味を選びやすい咀嚼しやすさ、包装、食物繊維や脂質に注意
エネルギーバー高エネルギーで長時間競技に向くランニング中は固さや脂質で食べにくい場合がある

 塩タブレットや電解質は、発汗で失うナトリウムを補う目的の商品であり、糖質をほとんど含まないものはエネルギー補給になりません。「塩分を取ったからジェルは不要」と考えないようにしましょう。

 カフェイン入りジェルは、疲労感の軽減に役立つ可能性がありますが、糖質不足そのものを解消する成分ではありません。1日の総カフェイン量を確認し、動悸、胃腸症状、睡眠への影響が出る人は避けます。

ランニング中にエネルギー切れを感じたときの対処法

1.ペースを落とし、安全な場所で止まる

 まずペースを落とし、必要なら歩くか停止します。ふらつきや判断力低下がある状態で走り続けると、転倒や事故につながります。

2.意識が清明で飲み込める場合は、吸収の速い糖質を取る

 ジェル、ブドウ糖、糖質を含む飲料など、15〜30g程度の吸収しやすい糖質を取り、水分も少量ずつ補給します。低血糖への一般的な対処では、意識があり飲み込める人に15〜20gの速効性糖質を使い、10〜15分後に再確認する方法が示されています。

 ただし、ランニング中の不調が低血糖とは限りません。糖質を取っても回復しない場合は、無理に再開しないでください。

3.涼しい場所へ移動し、状態を確認する

 暑い日は日陰や救護所へ移動します。体温上昇、脱水、低ナトリウム血症などはエネルギー切れに似た症状を起こすため、自己判断で糖質だけを取り続けないことが大切です。

4.回復しなければリタイアする

 補給と休憩で少し楽になっても、再び走り始めると症状が戻ることがあります。記録や完走より安全を優先し、改善しない場合は大会スタッフや救護所へ相談してください。

すぐに走るのを中止して救護を求めたい症状

 次の症状があるときは、単なるエネルギー切れと決めつけず、走行を中止して救護を求めます。

  • 意識がもうろうとしている、会話がおかしい
  • まっすぐ歩けない、けいれん、失神
  • 胸の痛み、強い息苦しさ
  • 繰り返す嘔吐で水分を取れない
  • 強い頭痛、異常な高体温、重い脱力
  • 休んでも症状が改善しない、または悪化する

 意識が低下している人へ無理に飲食物を与えると、誤嚥の危険があります。すぐに周囲へ助けを求めてください。混乱、ろれつ困難、けいれん、意識消失は熱中症でもみられる緊急症状です。

 糖尿病がありインスリンや血糖降下薬を使用している人は、運動による低血糖リスクが異なります。主治医と補給・薬・血糖測定の計画を立ててください。

エネルギー切れを防ぐ実践手順

 大会やロング走では、次の順番で準備すると補給計画を立てやすくなります。

  1. 目標タイムから必要な糖質量を計算する
  2. ジェルとドリンクに含まれる糖質を合計する
  3. 20〜30分ごとの補給スケジュールを作る
  4. ロング走で同じ商品とタイミングを試す
  5. 胃腸症状がなければ少しずつ量を増やす
  6. 当日の気温とエイド内容に合わせて水分計画を調整する
  7. 前半は目標ペースを超えすぎない

 たとえば、4時間で完走を目指し、50g/時を取る計画なら、総糖質量は約200gです。糖質25gのジェルだけなら8個分ですが、スポーツドリンクから取る分を差し引けます。

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持ち運べる量と胃腸の耐性を考え、現実的な計画に調整しましょう。

 

ランニングのエネルギー切れに関するよくある質問

10kmでもエネルギー切れは起こる?

 通常の食事が取れている人が60分前後で走る場合、グリコーゲン不足による典型的なエネルギー切れは起こりにくいと考えられます。ただし、朝食抜き、強い食事制限、前日の長時間運動、暑さ、体調不良などが重なると、不調が出ることはあります。

 短い距離や軽いジョギングでも繰り返し強い脱力や冷や汗、ふらつきが出る場合は、補給不足だけと考えず医療機関へ相談してください。

ジェルを取れば30kmの壁を防げる?

 ジェルは糖質補給に役立ちますが、30kmの壁を必ず防げるわけではありません。前半のオーバーペース、走り込み不足、筋疲労、暑熱、脱水なども見直す必要があります。

脂肪を使えるようになれば補給は不要?

 持久性トレーニングによって脂質を利用する能力は高まります。しかし、マラソンペースを維持するには糖質も重要です。脂質代謝が高いランナーでも、長時間・高強度の競技で糖質が不要になるとはいえません。

練習でも毎回ジェルを取るべき?

 短く楽なジョギングでは、毎回取る必要はありません。一方、ロング走、レースペース走、補給練習では、本番と同じ商品・量・タイミングを試す価値があります。練習の目的に応じて使い分けましょう。

まとめ

 ランニング中のエネルギー切れには、筋グリコーゲンの低下や血糖維持の難しさが関係します。しかし、すべての失速を糖質不足だけで説明することはできず、前半のオーバーペース、筋疲労、暑さ、脱水、胃腸トラブルも影響します。

 エネルギー切れを防ぐポイントは、レース前に糖質を確保し、空腹を感じる前から走行時間に応じて補給することです。1〜2.5時間なら30〜60g/時、2.5時間を超える場合は胃腸の耐性に合わせて最大90g/時が目安になります。

 補給商品は、宣伝文句より1個当たりの糖質量と食べやすさで選びます。大会当日に初めて試さず、ロング走でペース・水分・補給をセットで練習しておきましょう。

参考文献

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本記事は一般的なスポーツ栄養情報です。症状が強い場合、繰り返す場合、基礎疾患や服薬がある場合は、医師や管理栄養士などの専門家へ相談してください。