ランニングのパフォーマンスを高めるサプリメントとしては、カフェインや糖質、硝酸塩などがよく知られています。
一方、筋力トレーニングのイメージが強いのが「クレアチン」です。
クレアチンには、短時間で大きな力を発揮するときのエネルギー供給を助ける働きがあります。そのため、ダッシュや筋力トレーニングには有効ですが、一定ペースで走り続けるマラソンのタイムを直接縮める効果は、現時点では明確ではありません。
2023年のシステマティックレビュー・メタ解析でも、トレーニング経験者の持久系パフォーマンスに対する全体的な効果は認められませんでした。
ただし、次のようなランナーには役立つ可能性があります。
- 中距離走や終盤のスパートを重視する
- 坂道ダッシュやインターバル走を行う
- 筋力トレーニングの質を高めたい
- 短期間に複数回の高強度運動を繰り返す
- 加齢に伴う筋力低下も予防したい
この記事では、ランニングに対するクレアチンの効果と、摂取量・タイミング、安全性について研究をもとに解説します。
クレアチンとは?

クレアチンは、筋肉や脳などに存在する物質です。
体内では主にアルギニン、グリシン、メチオニンというアミノ酸から合成されます。肉や魚にも含まれており、サプリメントだけに存在する特殊な成分ではありません。
筋肉内のクレアチンの一部は、リン酸と結合した「ホスホクレアチン」として蓄えられています。
運動時に筋肉が収縮するためには、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーが必要です。しかし、筋肉内に保存できるATPの量は限られています。
ホスホクレアチンは、使用されたATPを素早く再合成する役割を持っています。

この仕組みが特に重要になるのは、ダッシュ、ジャンプ、ウエイトトレーニングなど、短時間に大きな力を発揮する運動です。
ランニングにクレアチンは効果的?

結論として、クレアチンを飲むだけで長距離走のタイムが速くなるとは限りません。
期待できる効果は、ランニングの距離や練習内容によって異なります。
| 目的・運動内容 | 期待度 | 考え方 |
|---|---|---|
| 一定ペースの長距離走 | 低い | 持久系パフォーマンスへの直接効果は明確ではない |
| マラソンの記録 | 低い~不明 | 体重増加が不利になる可能性もある |
| ラストスパート | 可能性あり | 短時間の高強度運動を支えられる可能性がある |
| インターバル走 | 可能性あり | 高強度運動を繰り返す能力に役立つ可能性がある |
| 坂道ダッシュ | 可能性あり | 筋パワーを発揮する練習と相性がよい |
| 筋力トレーニング | 高い | 筋力やトレーニング量の向上を支持する研究が多い |
| 疲労回復 | 可能性あり | 筋損傷やグリコーゲン回復への効果が検討されている |
クレアチンは長距離走の持久力を高める?

クレアチンは、一般的な持久力を大幅に高めるサプリメントではありません。
2023年に発表された13研究のメタ解析では、トレーニング経験者の持久系パフォーマンスに有意な改善は認められませんでした。効果量もほぼゼロでした。
クレアチンを摂取しても、次の能力が必ず高まるわけではありません。
- 最大酸素摂取量(VO₂max)
- 一定ペースを長時間維持する能力
- ハーフマラソンやフルマラソンのタイム
- ゆっくりしたジョギングの持続時間
クレアチンは、主にホスファゲン系と呼ばれる短時間のエネルギー供給を助けます。一方、長距離走では有酸素性エネルギー供給の割合が大きくなります。

そのため、クレアチンの得意な運動と、マラソンで中心となる運動の性質は異なります。
ラストスパートやペース変化には役立つ可能性がある

持久系競技であっても、走行中のすべてが一定強度とは限りません。
レースでは、次のような場面があります。
- スタート直後の位置取り
- 上り坂でのペースアップ
- 前方集団への追いつき
- コーナー後の加速
- 終盤のラストスパート
クレアチンは筋肉内のホスホクレアチン量を増加させ、ATPを素早く再合成する能力を支えます。そのため、短時間のペースアップを繰り返す競技では効果が現れる可能性があります。
持久系競技を扱ったレビューでも、一定ペースのタイムトライアルより、複数回の加速や終盤のスパートを伴う競技の方が、クレアチンの利点を得やすい可能性が指摘されています。
特に相性がよいと考えられるのは、次のような種目です。
- 800~1500mなどの中距離走
- クロスカントリー
- 起伏の大きいトレイルランニング
- ペース変化の多いロードレース
- ランニングを含む複合競技
ただし、「ラストスパートが必ず速くなる」と断定できるほど、ランナーを対象にした研究がそろっているわけではありません。
インターバル走や坂道ダッシュの質を高められる?

クレアチンは、短時間の高強度運動を繰り返す能力に効果が期待できます。
例えば、次のような練習です。
- 200~400mのショートインターバル
- レペティション
- 坂道ダッシュ
- ウィンドスプリント
- サーキットトレーニング
- 高重量の筋力トレーニング
クレアチンによって1本ごとの走力が劇的に変わるというより、後半の反復でパワーの低下を抑えたり、トレーニング全体の仕事量を増やしたりできる可能性があります。

長期的には、質の高いトレーニングを積み重ねられることが、筋力やスプリント能力の向上につながると考えられます。
筋力トレーニングの効果を高める可能性がある

ランナーにとって、クレアチンを取り入れる大きな目的は筋力トレーニングです。
筋力トレーニングは、適切に行えばランニングエコノミーや筋力、スプリント能力の改善に役立ちます。
クレアチンは、レジスタンストレーニングと併用することで、筋力や除脂肪量の増加を助ける可能性があります。
レビューでは、クレアチンを併用した群の方が、トレーニングのみの場合より筋力向上が大きい傾向が示されています。
ランナーでは、次のような目的で検討できます。
- 下半身の最大筋力を高める
- 坂道での推進力を高める
- スプリント能力を維持する
- 加齢に伴う筋量・筋力低下を予防する
- ケガからの復帰期に筋力トレーニングを行う
ただし、クレアチンを飲むだけで筋肉が十分に増えるわけではありません。筋力トレーニングと適切なエネルギー・たんぱく質摂取が前提です。
クレアチンはランニング後の回復に効果的?

クレアチンには、運動後の回復を助ける可能性があります。
研究では、次の作用が検討されています。
- 高強度運動後の筋力回復
- 筋損傷や炎症反応の軽減
- 筋グリコーゲンの回復
- 高負荷トレーニングへの適応
特に、長時間運動後に糖質とクレアチンを一緒に摂取すると、最初の24時間における筋グリコーゲンの再合成が高まった研究があります。

そのため、1日に2回練習する場合や、連日レースを行う場面では役立つ可能性があります。
ただし、回復効果については研究結果が一貫しているわけではありません。クレアチンは、次の基本的な回復方法の代わりにはなりません。
- 十分な糖質を取る
- たんぱく質を確保する
- 水分と電解質を補給する
- 睡眠時間を確保する
- 練習負荷を調整する
ランナーがクレアチンを摂取するデメリット

ランナーが最も注意したいのは体重増加です。
クレアチンを摂取すると、クレアチンとともに筋細胞内へ水分が保持されやすくなります。そのため、摂取開始後に体重や除脂肪量が増えることがあります。
1週間のローディングを行った研究では、体水分量と除脂肪量の増加が確認されています。
増え方には個人差がありますが、特に高用量のローディングでは体重変化が起こりやすくなります。
体重を運びながら走るランニングでは、この増加が次のような不利益につながる可能性があります。
- 同じペースでもエネルギー消費が増える
- 上り坂で身体が重く感じる
- 体重当たりのVO₂maxが低下して見える
- シューズや脚への負担感が変わる

フルマラソンを一定ペースで走ることだけが目的なら、短時間運動への利点より体重増加の影響が上回る可能性があります。
一度に多量のクレアチンを摂取すると、次の症状が出ることがあります。
- 腹部膨満感
- 胃の不快感
- 軟便
- 下痢
- 吐き気
特に、ローディング分をまとめて飲む方法は避けた方がよいでしょう。
胃腸症状がある場合は、1回量を減らす、食後に摂取する、ローディングを行わないといった調整をします。
ランナー向けクレアチンの飲み方

一般的に使用されているのは、1日3~5gのクレアチンモノハイドレートです。
毎日継続すると、約3~4週間かけて筋肉内のクレアチン量が徐々に増加します。
ランナーの場合は、体重増加や胃腸症状を確認しやすいように、まずは次の方法が取り入れやすいでしょう。
- 1日3g程度から開始する
- ローディングは行わない
- 毎日ほぼ同じ時間に摂取する
- 体重と走ったときの感覚を記録する
- 3~4週間かけて評価する
クレアチンには、最初に多量摂取する「ローディング」という方法があります。
一般的な方法は、1日約0.3g/kgを5~7日間摂取し、その後1日3~5gへ減らすものです。体重60kgなら約18gを、1日4回程度に分けます。
ローディングを行うと、短期間で筋肉内のクレアチン量を増やせます。
一方で、次のデメリットもあります。
- 急な体重増加が起こりやすい
- 胃腸症状が出やすい
- 摂取回数が多くなる

時間をかけて1日3~5gを継続しても、最終的には筋肉内のクレアチン量を増やせます。そのため、一般的な市民ランナーにローディングは必須ではありません。
クレアチンはカフェインのように、摂取直後のランニング能力を高めるサプリメントではありません。
毎日の摂取によって筋肉内のクレアチン量を増やすため、細かなタイミングより継続性が重要です。
運動後の摂取が有利である可能性も研究されていますが、現時点では運動前と運動後のどちらが優れているか、確かな結論は出ていません。
飲み忘れにくさや胃腸への負担を考えて、次のタイミングから選ぶとよいでしょう。
- 朝食後
- トレーニング後の食事と一緒
- プロテインや糖質補給と一緒
- 夕食後
レース直前に初めて飲んでも、即効性は期待できません。
実践上は、大切なレースの直前にクレアチンを始めることはおすすめしません。
体重や胃腸の状態が変化する可能性があるためです。
試す場合は、基礎トレーニング期や筋力強化期に始め、次の項目を記録しましょう。
- 朝の体重
- ジョギング時の身体の重さ
- インターバル後半のタイム
- 筋力トレーニングの重量・回数
- 胃腸症状
- 筋肉痛や疲労感
マラソン前に中止するか継続するかは、これらの変化を見て個別に判断します。
クレアチンは毎日飲む必要がある?

筋肉内のクレアチン量を維持する目的なら、基本的には休養日も含めて毎日摂取します。
クレアチンは、飲んだ日だけ一時的に効かせるものではありません。トレーニング日だけの摂取では、摂取量が安定しにくくなります。
一方、飲み忘れたからといって、翌日に2日分をまとめて飲む必要はありません。通常量で再開すれば十分です。
定期的に摂取を中断する「サイクル」も、健康な成人が一般的な量を使用する場合には必須とされていません。
ランナーにはどの種類のクレアチンがよい?

研究で最も多く使用されているのは、クレアチンモノハイドレートです。
クレアチンには複数の種類がありますが、ほかの形態がモノハイドレートより優れていることを示す根拠は十分ではありません。
商品名を挙げずに選ぶなら、次の条件を確認します。
- 「クレアチンモノハイドレート」と明記されている
- 1回当たりの含有量が分かる
- 成分数が少ない
- 過剰な効果をうたっていない
- 製造や品質管理に関する情報が公開されている
- 競技者は第三者機関による検査情報を確認する
クレアチン自体は禁止薬物ではありませんが、サプリメントには表示されていない禁止物質が混入する可能性があります。
Global DROも、サプリメントは製品ごとの安全性を保証できず、使用は自己責任になると注意喚起しています。
クレアチンは腎臓に悪い?

健康な成人が推奨範囲で使用する場合、クレアチンが腎機能を低下させるという明確な証拠はありません。
2025年のシステマティックレビュー・メタ解析では、クレアチン摂取によって血清クレアチニンがわずかに上昇する場合があるものの、GFRには有意な変化が認められませんでした。
クレアチンの一部はクレアチニンへ変化します。そのため、サプリメントを摂取すると、腎臓が傷害されていなくても血液検査のクレアチニン値が高くなる可能性があります。
健康診断や医療機関で検査を受ける場合は、クレアチンを摂取していることを医師へ伝えてください。
ただし、次に該当する人は自己判断で使用せず、事前に医師や管理栄養士へ相談しましょう。
- 腎臓病がある
- 腎機能検査で異常を指摘されている
- 肝臓病などの持病がある
- 継続的に薬を服用している
- 妊娠中・授乳中
- 未成年
- 原因不明のむくみや尿量減少がある
クレアチンは脱水や筋けいれんを起こす?

「クレアチンは筋肉へ水分を引き込むため、脱水や足のつりを起こす」という説明があります。
しかし、現在の研究では、適切な量のクレアチン摂取が脱水、筋けいれん、体温調節障害を増加させるという根拠は支持されていません。
ただし、クレアチンを飲んでいれば水分補給が不要になるわけではありません。

発汗量の多いランニングでは、気温、湿度、走行時間、発汗量に合わせて水分と電解質を補給する必要があります。
クレアチンで薄毛になる?

クレアチンと薄毛の関係が話題になるきっかけは、2009年に行われた小規模研究です。この研究ではDHTの上昇が報告されましたが、実際の脱毛は測定されていませんでした。
2025年の12週間ランダム化比較試験では、クレアチン群とプラセボ群の間でDHTや毛髪の成長指標に有意差は認められませんでした。
したがって、現時点で「クレアチンを飲むと薄毛になる」と結論づける根拠はありません。
クレアチンが向いているランナー

クレアチンを検討しやすいのは、次のようなランナーです。
- 800~5000mの記録を狙っている
- レース終盤のスピードを高めたい
- インターバル走や坂道ダッシュを定期的に行う
- 筋力トレーニングの質を高めたい
- トレイルランニングや起伏走を行う
- 加齢に伴う筋力低下を予防したい
- 菜食中心で、食事からのクレアチン摂取量が少ない
一方、次の場合は優先度が低くなります。
- 健康目的の軽いジョギングが中心
- フルマラソンを一定ペースで走ることだけが目的
- 少しの体重増加も避けたい
- 食事、睡眠、糖質補給が整っていない
- クレアチンに即効性を期待している
ランナーがクレアチンを試す手順

初めて使用するときは、次のように進めると変化を判断しやすくなります。
「何となく疲れにくくなりたい」ではなく、評価できる目的を設定します。
例としては、インターバル後半の失速を抑える、スクワットの重量を伸ばす、坂道ダッシュの質を維持するなどです。
ローディングは行わず、毎日同じ量を3~4週間継続します。
胃腸症状がある場合は、1回量を分けるか、食後に変更します。
少なくとも次の項目を確認します。
- 朝の体重
- 練習タイム
- 主観的運動強度
- 筋力トレーニングの重量
- 胃腸症状
- 疲労感
筋力や高強度練習の質が向上していても、体重増加によってジョギングやレースペースが走りにくくなる場合があります。
4~8週間程度試し、目的に合っているかを判断しましょう。
よくある質問
一定ペースの長距離走を直接速くする効果は明確ではありません。短時間の加速、ラストスパート、高強度練習、筋力トレーニングには役立つ可能性があります。
明確な結論はありません。摂取直後の即効性を狙うものではないため、毎日継続できるタイミングを優先します。
基本的には一緒に摂取できます。ただし、それぞれ役割が異なります。プロテインはたんぱく質の補給、クレアチンは筋肉内のクレアチン量を増やすことが主な目的です。
当日だけ摂取しても、大きな効果は期待できません。レース前に初めて使用すると胃腸症状が出る可能性もあるため避けましょう。
筋肉内のクレアチン量と保持されていた水分が徐々に減るため、体重や除脂肪量が少し低下する可能性があります。ただし、トレーニングで獲得した筋肉が直ちに失われるわけではありません。
まとめ
クレアチンは、長距離ランニングの持久力を直接高めるサプリメントとはいえません。
トレーニング経験者を対象としたメタ解析では、持久系パフォーマンス全体への有意な効果は確認されていません。
一方で、次の目的には役立つ可能性があります。
- ラストスパートや短時間のペースアップ
- インターバル走や坂道ダッシュ
- 筋力トレーニング
- 高強度運動を繰り返す能力
- 運動後の回復やグリコーゲン補充
摂取する場合は、クレアチンモノハイドレートを1日3~5g継続する方法が基本です。タイミングにこだわる必要はなく、ランナーではローディングも必須ではありません。
ただし、筋細胞内の水分増加によって体重が増える可能性があります。特にマラソンランナーは、高強度練習や筋力向上による利益と、体重増加による不利益の両方を確認することが重要です。

クレアチンを「飲めば長距離が速くなるサプリメント」と考えるのではなく、特定のトレーニングを支える補助的な選択肢として考えましょう。
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