ランニング中にすぐ息が上がったり、ペースを維持できなかったりすると、「心肺機能が弱いのでは?」と感じるかもしれません。
一般に心肺機能とは、肺から取り込んだ酸素を心臓や血管によって全身へ運び、筋肉で利用する能力を指します。単純な「肺活量」だけで決まるものではありません。
ランニングで心肺機能を高めるには、高強度のインターバル走だけでなく、低強度のジョギング、LT付近のトレーニング、適切な回復を組み合わせることが重要です。
この記事では、ランニングと心肺機能の関係、VO₂maxや心拍数の見方、記録向上につなげるトレーニング方法を研究に基づいて解説します。
ランニングにおける心肺機能とは?

ランニングにおける心肺機能は、次の一連の働きをまとめたものです。
- 肺で酸素を取り込む
- 心臓が酸素を含んだ血液を送り出す
- 血管を通して活動している筋肉へ酸素を届ける
- 筋肉内のミトコンドリアで酸素を利用してエネルギーを作る
健康なランナーの場合、「肺だけ」が持久力を制限しているとは限りません。心臓から送り出せる血液量、血液の酸素運搬能力、筋肉の毛細血管やミトコンドリアなども関係します。
心肺機能を代表する指標が、最大酸素摂取量である「VO₂max」です。
VO₂maxとは?

VO₂maxは、運動中に身体が1分間で取り込み、利用できる酸素量の最大値です。一般的には、体重1kg当たりの値である「mL/kg/分」で表されます。
VO₂maxは、次の関係で説明できます。
VO₂=心拍出量×動静脈酸素較差
心拍出量は「心拍数×1回拍出量」です。

つまりVO₂maxを高めるには、心臓から多くの血液を送り出す能力と、筋肉が血液中の酸素を取り出して利用する能力の両方が関係します。
ただし、VO₂maxが高ければ必ずマラソンが速いわけではありません。長距離走のパフォーマンスには、主に次の3つが関係します。
| 要素 | 意味 |
|---|---|
| VO₂max | 有酸素能力の上限 |
| LT・持続可能率 | VO₂maxの何%を長く使えるか |
| ランニングエコノミー | 同じペースを少ない酸素消費で走れるか |
似たVO₂maxを持つランナーでも、LTやランニングエコノミーが違えば、実際のレースタイムは異なります。長距離ランナーの生理学的要因として、この3要素が重視されています。
- 心臓から送り出せる血液量が増える
- 筋肉へ酸素を届けやすくなる
- 筋肉が酸素を利用しやすくなる
ランニングで心肺機能が高まる仕組み

継続的にランニングをすると、身体には複数の適応が起こります。
持久的トレーニングによって血液量や心臓の1回拍出量が増えると、1回の拍動でより多くの血液を送り出せるようになります。

同じペースで走ったときの心拍数が以前より低くなることがあるのは、この適応が関係している可能性があります。
持久的トレーニングでは、筋肉内の毛細血管や酸素利用に関係する機能が発達します。これにより、運ばれてきた酸素を活動筋へ届けやすくなります。
ミトコンドリア量や酸化系酵素の働きが高まり、脂質や糖質を使って有酸素的にエネルギーを作る能力が改善します。
同じペースの相対的な負担が小さくなるため、「以前より呼吸が楽になった」と感じやすくなります。
心肺機能が高いランナーの特徴

次のような変化は、心肺機能や持久力が向上している可能性を示します。
- 同じペースでの心拍数が低くなった
- 同じ心拍数で以前より速く走れる
- インターバル間の心拍数が下がりやすくなった
- 呼吸が乱れにくくなった
- LT付近のペースを長く維持できる
- 5kmや10kmのタイムが向上した
ただし、心拍数は気温、湿度、睡眠、脱水、カフェイン、疲労、心理状態などでも変化します。1回の数値ではなく、同じような条件で数週間の傾向を確認しましょう。
安静時心拍数が低いことだけで、ランニング能力の高さを判断することもできません。
ランナーが心肺機能を確認する方法

1.呼気ガス分析によるVO₂max測定
最も直接的な方法は、医療機関やスポーツ施設で行われる心肺運動負荷試験です。
マスクを装着して速度や傾斜を段階的に上げ、酸素摂取量や二酸化炭素排出量を測定します。VO₂maxだけでなく、換気性作業閾値なども評価できます。
一方、費用や設備が必要になるため、日常的な測定には向きません。
2.ランニングウォッチのVO₂max推定値
ランニングウォッチは、走行速度と心拍数などからVO₂maxを推定します。
手軽に経過を確認できる一方、実際の酸素摂取量を測定しているわけではありません。ウェアラブル端末によるVO₂max推定には一定の妥当性があるものの、個人単位では誤差が生じます。
数値そのものより、同じ機器・同じ条件での変化を見る用途に適しています。
3.12分間走
12分間で走れた距離からVO₂maxを推定する方法です。代表的な推定式は次のとおりです。
推定VO₂max=(12分間の走行距離m-504.9)÷44.73
ただし、推定値の精度は対象者や実施条件によって変わります。
フィールドテストは再現性が比較的高い一方、検査室で測定したVO₂maxとの間に個人差があるため、絶対値として扱いすぎないことが大切です。
4.一定ペースでの心拍数と主観的運動強度
より実用的なのは、同じコースを同じペースで走り、次の項目を記録する方法です。
- 平均心拍数
- 呼吸の苦しさ
- 主観的運動強度
- ペースの維持しやすさ
- 終了後の疲労感

気象条件や疲労状態をそろえながら定期的に確認すると、トレーニングへの適応を把握しやすくなります。
ランニングで心肺機能を高めるトレーニング

心肺機能を高める方法は、インターバル走だけではありません。低強度から高強度まで、それぞれ異なる役割があります。
1.低強度のジョギング
低強度のジョギングは、心肺機能を高める土台になります。
目安は、会話を続けられる程度の強度です。主観的運動強度では10段階中2~4程度が目安になります。
低強度走には、次の役割があります。
- 総走行時間を確保する
- 毛細血管やミトコンドリアの適応を促す
- 高強度練習の間に疲労を回復させる
- LT走やインターバル走に耐えられる基礎を作る

初心者や走行距離が少ないランナーでは、無理に高強度練習を増やすより、まず低強度のランニングを継続するだけでも心肺機能の改善が期待できます。
2.LT走・テンポ走
LT走は、乳酸の産生と処理のバランスが大きく崩れ始める付近で行うトレーニングです。
VO₂maxそのものだけでなく、VO₂maxの高い割合を持続する能力を高める目的で行います。
目安は次のとおりです。
- 20~30分程度継続できる強度
- 短い言葉なら話せる
- 主観的運動強度6~7/10
- 10kmからハーフマラソンのレースペース付近を個人に合わせて調整

連続して走れない場合は、「10分×2~3本、間に2~3分のジョギング」のように分割しても構いません。
3.VO₂maxインターバル走
VO₂maxを高める代表的な方法が、高強度インターバル走です。
具体例としては、次のようなメニューがあります。
3~4分の速いランニング×3~5本
本数間は2~3分の軽いジョギング
速い区間は主観的運動強度8~9/10程度で、最後までほぼ同じペースを維持できる強度に設定します。1本目から全力疾走するトレーニングではありません。
健康な成人男性を対象とした研究では、90~95%最大心拍数を目標にした4分×4本のインターバルを8週間行った群で、低強度走やLT付近の走行よりVO₂maxの改善が大きくなりました。
ただし、この結果は「すべてのランナーが週3回行うべき」という意味ではありません。

記録向上を目指す市民ランナーでは、まず週1回から始める方が疲労やケガを管理しやすいでしょう。
4.坂道インターバル
緩やかな上り坂を使うと、平地より速度を抑えながら心肺系へ高い負荷をかけられます。
例えば、60~90秒の上りを4~8本行い、下りはゆっくり戻って回復します。
ただし、ふくらはぎ、アキレス腱、ハムストリングへの負担は増えます。

坂道に慣れていない場合は、短い時間と少ない本数から始めましょう。
5.ロング走
低強度で長く走るロング走は、VO₂maxへの直接的な刺激より、末梢の有酸素適応や長時間走る能力を高める目的で行います。
ハーフマラソンやフルマラソンでは、心肺機能の上限だけでなく、疲労した状態でも一定の酸素利用とフォームを維持する能力が重要です。

インターバル走だけに偏らず、低強度走やロング走を組み合わせる必要があります。
トレーニング強度の使い分け

| トレーニング | 強度の目安 | 主な目的 |
|---|---|---|
| イージーラン | 会話できる・RPE2~4 | 有酸素の土台、回復 |
| ロング走 | 会話できる範囲 | 長時間の持久力 |
| LT走 | 短い言葉なら話せる・RPE6~7 | 高い強度を持続する能力 |
| VO₂maxインターバル | 会話困難・RPE8~9 | 有酸素能力の上限 |
| 流し | 速いが余裕を残す | 動き、神経筋への刺激 |

心拍数の割合は個人差が大きいため、最大心拍数から一律に決めるだけでなく、呼吸、主観的運動強度、レース記録を組み合わせて調整してください。
心肺機能を高める1週間のメニュー例
週5回走る記録向上ランナーを想定した例です。
| 曜日 | メニュー |
|---|---|
| 月 | 休養 |
| 火 | VO₂maxインターバル:4分×3~4本、間は3分ジョグ |
| 水 | イージーラン40~60分 |
| 木 | イージーラン40分+流し80~100m×4本 |
| 金 | 休養または軽いジョギング |
| 土 | LT走20分、または10分×2~3本 |
| 日 | イージー~ロング走90~120分 |

週3~4回しか走れない場合は、高強度練習を無理に2回入れる必要はありません。週1回のポイント練習としてLT走とインターバル走を交互に行い、残りを低強度走にする方法があります。
2025年のネットワークメタ解析では、持久系競技者のトレーニング強度配分について、ポラライズド型が常に他の方法より優れているとは確認されませんでした。
競技レベルによって反応が異なり、レクリエーショナル選手ではピラミダル型、競技レベルの高い選手ではポラライズド型が適する可能性が示されています。

「低強度80%・高強度20%」などの割合を厳密に守るより、自分の走力、練習歴、回復状態に合わせることが重要です。
心肺機能を効率よく高めるポイント
高強度練習は週1回から始める
心肺機能を早く高めようとして、毎回苦しいペースで走ると疲労が蓄積します。まずは週1回から始め、数週間問題なく継続できてから本数や頻度を検討します。
一度に複数の項目を増やさない
次の項目を同時に増やさないようにします。
- 走行距離
- 走行時間
- インターバルの本数
- 速い区間のペース
- 高強度練習の頻度
例えば「4分×3本」を「4分×4本」に増やす週は、ペースまで上げない方が負荷を管理しやすくなります。
低強度走を本当に低強度で行う
イージーランのペースが速すぎると、ポイント練習の質が低下します。低強度走は「遅すぎる」と感じる程度でも、目的に合っていれば問題ありません。
持久系選手の多くは、トレーニング時間の大部分を低強度で行う傾向があります。
4~8週間単位で変化を見る
心拍数やVO₂max推定値は日々変動します。数日で判断せず、同じトレーニングを一定期間継続し、次の変化を確認します。
- 5kmや10kmのタイム
- 一定ペースでの平均心拍数
- LT走の維持時間
- インターバル後半のペース低下
- ランニングウォッチの推定VO₂max

数値が変わらなくても、同じ練習を楽にこなせるようになっていれば、適応が進んでいる可能性があります。
心肺機能がなかなか向上しない原因
身体が現在の負荷に慣れると、適応を起こす刺激が不足します。走行時間、本数、速度などのうち、どれか1つを段階的に調整します。
高強度練習を増やしすぎると、疲労によって各セッションの質が下がります。「頑張っているのに記録が伸びない」場合は、強度不足ではなく回復不足の可能性も考えましょう。
睡眠不足、糖質・エネルギー不足、脱水などは、トレーニングの質と回復を低下させます。
特にエネルギー不足が続くと、持久力だけでなく、免疫機能、骨の健康、ホルモン機能にも影響する可能性があります。
暑い環境では、体温調節のため皮膚への血流が増え、同じペースでも心拍数が高くなります。夏場に心拍数が上がることを、すぐに心肺機能の低下と判断しないようにしましょう。
鉄欠乏や貧血があると、血液による酸素運搬能力が低下し、息切れやパフォーマンス低下につながることがあります。
十分に休んでも息切れや強い疲労感が続く場合は、トレーニングだけで解決しようとせず、医療機関へ相談してください。
心肺機能に関するよくある誤解
息を止める練習は、通常のランニングで必要な酸素運搬能力を高める標準的な方法ではありません。めまいや失神の危険もあるため、ランニング中に行うべきではありません。
一般的なマスクは、標高の高い場所のように吸気中の酸素分圧を下げるものではありません。呼吸の不快感や抵抗が増えても、高地トレーニングと同じ適応が起こるとは限りません。
心肺機能を刺激するために高強度練習は役立ちますが、毎回限界まで追い込む必要はありません。トレーニング効果は、負荷と回復を繰り返すことで生じます。
VO₂maxが変わらなくても、LTやランニングエコノミーが改善すればレースペースは速くなる可能性があります。反対に、VO₂maxが上がっても、持続能力やフォームが改善しなければレースタイムに反映されないことがあります。
ランニングを中止して医療機関へ相談したい症状
次の症状がある場合は、心肺機能を鍛えようとして運動を続けず、医療機関へ相談してください。
- 胸の痛みや圧迫感
- 失神または失神しそうな感覚
- 安静時にも続く息苦しさ
- 突然起こる強い動悸
- 普段とは明らかに異なる呼吸困難
- 運動強度に見合わない極端な疲労
- 呼吸器症状や発熱がある状態
- 心疾患や呼吸器疾患を指摘されている
心臓・呼吸器疾患の既往がある人や、長期間運動していなかった人は、高強度トレーニングを始める前に医師へ相談しましょう。
まとめ
ランニングにおける心肺機能は、肺活量だけではなく、酸素を取り込み、心臓から送り出し、筋肉で利用するまでの総合的な能力です。
VO₂maxは重要な指標ですが、ランニング記録はLTやランニングエコノミーにも左右されます。
心肺機能を高める基本は、次のとおりです。
- トレーニングの大部分を低強度で行う
- 週1回程度からLT走やインターバル走を取り入れる
- 一度に複数の負荷を増やさない
- 心拍数は単発の数値ではなく傾向を見る
- VO₂maxだけでなく実際の走行ペースも確認する
- 睡眠・栄養・休養を確保する

高強度練習だけに頼らず、低強度走で土台を作りながら段階的に刺激を加えることが、心肺機能とランニング記録の向上につながります。
参考文献
- Midgley AW, et al. Training to enhance the physiological determinants of long-distance running performance. Sports Med. 2007;37(10):857-880.
- Helgerud J, et al. Aerobic high-intensity intervals improve VO₂max more than moderate training. Med Sci Sports Exerc. 2007;39(4):665-671.
- Rosenblat MA, et al. Which training intensity distribution intervention will produce the greatest improvements in maximal oxygen uptake and time-trial performance in endurance athletes? Sports Med. 2025;55(3):655-673.
- Stöggl TL, Sperlich B. The training intensity distribution among well-trained and elite endurance athletes. Front Physiol. 2015;6:295.
- Penry JT, et al. Validity and reliability analysis of Cooper’s 12-minute run and the multistage shuttle run in healthy adults. J Strength Cond Res. 2011;25(3):597-605.
- Molina-Garcia P, et al. Validity of estimating the maximal oxygen consumption by consumer wearables: a systematic review with meta-analysis. Sports Med. 2022.
風を切るランニング 