
走る時の体幹はどのように意識したらいいの?
「走るときは体幹を固めた方がいい」
「お腹に力を入れて、骨盤を動かさないようにする」
ランニングフォームについて、このようなアドバイスを聞くことがあります。
しかし、ランニング中の体幹は、完全に固定されているわけではありません。胸郭・背骨・骨盤は走る動きに合わせて回旋し、体幹の筋肉も必要なタイミングで活動しています。
体幹を強く固め続けると、呼吸や骨盤の動きを妨げ、かえって走りにくくなる可能性があります。
ランニング中に大切なのは、体幹を固めることではなく、余計な力を使わずに姿勢をコントロールすることです。
本記事では、ランニングにおける体幹の役割、姿勢・骨盤・呼吸のポイント、疲労したときの意識方法について、研究をもとに解説します。
ランニング中に体幹を意識する必要はある?

結論からいえば、体幹を意識すること自体は有用ですが、走っている間ずっと意識し続ける必要はありません。
おすすめなのは、フォームが崩れていないかを短時間確認し、必要であれば修正した後、再び自然な走りへ戻す方法です。
具体的には、
- 姿勢や力みを短時間確認する
- 一つだけ修正する
- 修正後は意識を周囲や進行方向へ戻す
という流れです。
体幹を常に強く緊張させたり、腹部の筋肉を一歩ごとに意識したりする方法ではありません。
体幹はもともと、走行中の姿勢や衝撃に合わせて自動的に活動します。トライアスリートと活動的な非ランナーを比較した研究でも、ランニング中には腹斜筋、下腹部、脊柱起立筋などの活動が確認されています。

つまり、ランニングそのものにも体幹を働かせる要素があります。ただし、筋肉が活動していることと、意識的に強く力を入れることは同じではありません。
ランニングにおける体幹とは?

体幹という言葉に明確で統一された範囲はありませんが、一般的には、胸郭・背骨・腹部・骨盤と、その周囲にある筋肉を含む領域を指します。
主に関係する筋肉には、
- 腹直筋
- 腹横筋
- 内腹斜筋・外腹斜筋
- 多裂筋
- 脊柱起立筋
- 横隔膜
- 骨盤底筋群
- 臀筋群
などがあります。

スポーツにおける体幹の安定性は、単純な腹筋力ではなく、骨盤に対する体幹の位置と動きをコントロールし、全身の力を伝える能力として説明されています。
そのため、腹筋運動がたくさんできるからといって、必ずしもランニング中の体幹制御が優れているとは限りません。
ランニング中に体幹が果たす役割

上半身の姿勢を保つ
ランニングでは、一歩ごとに身体へ衝撃が加わります。
体幹の筋肉は、この衝撃によって上半身が前後・左右へ大きく崩れないように働きます。
ただし、姿勢を保つことは、上半身を完全に動かさないことではありません。必要な動きを残しながら、過剰な揺れを抑えることが重要です。
上半身と下半身の力をつなぐ
走行中は、右脚が前へ出ると左腕が前へ出ます。
腕振り、胸郭の回旋、骨盤の回旋が協調することで、脚の動きによって発生する回転を打ち消し、全身のバランスを保っています。
腕を固定した状態で走ると代謝コストが増加した研究もあり、腕振りには体幹の過剰な回旋を抑える役割があると考えられています。
片脚支持で身体をコントロールする
ランニングは、左右の脚による片脚支持を繰り返す動作です。
接地中には、体幹や骨盤が左右へ過剰に傾かないように、腹部・背部・臀部などが協調して働きます。
ここでも必要なのは、骨盤を完全に水平へ固定することではありません。走行中には自然な骨盤傾斜が生じるため、動きの有無ではなく、動く量やタイミング、左右差を確認します。
呼吸と姿勢制御を両立する
横隔膜や腹部の筋肉には、呼吸だけでなく体幹を支える役割もあります。
そのため、お腹を強く固め続けると、腹部や胸郭の動きが小さくなり、深い呼吸を行いにくくなる可能性があります。
高強度になるほど換気量を増やす必要があるため、息を止めず、呼吸できる余裕を残しておくことが重要です。
体幹を意識すると速く走れる?

現時点では、体幹を意識して走るだけでランニングエコノミーや記録が改善するとは断定できません。
むしろ、走り慣れた動きを細かく意識し続けると、自動化された運動を妨げる可能性があります。
訓練されたランナー24人を対象にした研究では、
- 走る動きを意識する
- 呼吸を意識する
- 周囲の映像へ注意を向ける
という条件が比較されました。
その結果、走る動きや呼吸へ注意を向けた条件より、周囲へ注意を向けた条件の方が、同じ速度で走ったときの酸素消費量が少なくなりました。
別の研究でも、動作や呼吸への内的な注意は、外部へ注意を向けた条件よりランニングエコノミーが悪化しています。
ただし、これは「フォームを一切確認してはいけない」という意味ではありません。

フォーム修正の練習では身体へ注意を向ける必要があります。しかし、普段のランニングやレース中に、腹部・骨盤・脚などを常に監視し続ける必要はないと考えられます。
体幹トレーニングには効果がある?

体幹トレーニングとランニングパフォーマンスの研究では、一部で改善が報告されています。
6週間の体幹トレーニングを行った研究では、地面反力や下肢の安定性に明確な変化はみられなかったものの、5,000m走の記録が改善しました。
また、トレーニング経験のあるランナー32人を対象にした研究では、12週間のピラティスによって5km走の記録と走行時の代謝コストが改善しています。
ただし、どちらも参加者数が少ない研究です。体幹トレーニングだけでフォームや記録が必ず改善するとはいえません。
2024年の研究では、初心者ランナー325人を対象に、股関節・体幹エクササイズ、足関節・足部エクササイズ、静的ストレッチが比較されました。24週間の結果、股関節・体幹エクササイズ群では、静的ストレッチ群より下肢障害の発生率が低くなりました。
ただし、これは股関節と体幹を組み合わせたプログラムです。体幹トレーニング単独の効果とは判断できない点に注意が必要です。
ランニング中の姿勢で意識したいポイント

胸郭を骨盤の上に乗せる
基本となるのは、胸郭が骨盤に対して前後へ大きくずれていない姿勢です。
「胸を張る」と意識しすぎると、腰が反って肋骨が前へ突き出ることがあります。反対に、お腹を丸めすぎると胸郭が潰れ、腕振りや呼吸が行いにくくなります。
理想的な姿勢を一つの角度で決めることはできませんが、
- 頭だけが前へ出ていない
- 肋骨が大きく前へ突き出ていない
- 腰を強く反らしていない
- 肩や首へ余計な力が入っていない
ことを確認するとよいでしょう。
前傾姿勢を強くしすぎない
ランニングでは自然に軽い前傾が生じますが、前傾を大きくすれば速く走れるわけではありません。
16人の健康なランナーを対象にした2024年の研究では、前傾角度を最大約8度まで意図的に増やすと、直立または中等度の前傾と比べて代謝コストが最大8%増加しました。
大きく前傾した条件では、股関節屈曲と大殿筋・ハムストリングスの活動も増えています。また、足関節から前傾した場合と、体幹から前傾した場合で、ランニングエコノミーへの影響に明確な差はありませんでした。
そのため、
- 足首から必ず前傾する
- 身体を前へ倒すほど推進力が増える
- 腰からの前傾はすべて悪い
と単純化することはできません。
自然な直立姿勢から、速度に応じて軽く前傾する程度を基本にしましょう。
骨盤は固定しない
走行中の骨盤には、
- 前後への傾き
- 左右への傾き
- 水平方向の回旋
が生じます。
背骨と骨盤は別々に動くのではなく、互いに協調して上半身の姿勢を調節しています。
そのため、「骨盤を正面に固定する」「骨盤を一切回旋させない」という意識は、自然なランニング動作を妨げる可能性があります。
一方、左右への大きな傾きや過剰な回旋があり、痛みや明確な左右差を伴う場合は、筋力、可動性、疲労、走行速度などを含めて評価する必要があります。
骨盤の動きを見ただけで「体幹が弱い」と判断することはできません。
ランニング中の呼吸はどう意識する?
呼吸を止めない
最も大切なのは、腹部を固めすぎて呼吸を止めないことです。
ランニングでは、強度が上がるにつれて呼吸数と換気量が増えます。楽なジョギングでは鼻呼吸を使用できる人もいますが、強度が上がれば口呼吸が加わるのは自然な反応です。
「必ず鼻だけで呼吸する」と決める必要はありません。
歩数と呼吸のリズムは固定しなくてよい
走行中には、呼吸と足取りが自然に同期する「運動―呼吸カップリング」がみられることがあります。
例えば、
- 3歩で吸って3歩で吐く
- 2歩で吸って2歩で吐く
- 3歩で吸って2歩で吐く
といったパターンです。
ただし、適した比率には個人差があり、ペースや地形によっても変化します。特定のリズムを守ること自体が、すべてのランナーの効率を高めるとは証明されていません。
呼吸リズムは、楽に走るための選択肢として試すことはできますが、苦しくても守り続けるルールではありません。
呼吸を意識し続けない
呼吸が乱れたときに、一度ゆっくり息を吐いて力みを取る方法は実践しやすいでしょう。
一方、走行中に吸う量や吐く量を常に管理すると、自然な呼吸調節を妨げる可能性があります。
呼吸を整えた後は、視線や進行方向など、身体の外へ意識を戻します。
ランニング中におすすめの体幹の意識方法

体幹を意識するときは、複数のポイントを同時に修正しないことが重要です。
次のような短い言葉から、一つだけ選びます。
- 頭から骨盤までを長く保つ
- 肩と首の力を抜く
- 肋骨を前へ突き出さない
- 腰を反りすぎない
- 正面へ滑らかに進む
- 息を止めない
確認する時間は数秒から十数秒程度で構いません。

修正できたら、路面、進行方向、周囲のランナーなどへ注意を戻します。 「確認する→一つ修正する→手放す」という流れにすると、体幹へ過剰な力が入りにくくなります。
疲労すると体幹の動きはどう変わる?
ランニングによる疲労は、脚だけでなく体幹や骨盤の動きにも影響します。
2024年にレクリエーショナルランナー11人を調べた研究では、疲労後に体幹の側方傾斜が増加しました。また、足関節周囲の筋活動や体幹制御の変化が、脛骨への負荷と関連する指標に影響していました。
ただし、参加者数が少なく、疲労による体幹の変化が実際の障害を引き起こすと証明した研究ではありません。
疲労時の変化には個人差があり、
- 前傾が強くなる
- 腰が反る
- 左右へ揺れる
- 肩が上がる
- 腕振りが小さくなる
- 骨盤と胸郭の連動が乱れる
など、さまざまなパターンが考えられます。

「疲れたら腹筋を固める」と一律に対応するのではなく、自分に起こりやすい変化を確認することが大切です。
疲労時にフォームを立て直す方法

姿勢が大きく崩れている場合、体幹の意識より先にペースを落とす必要があります。
疲労に対して速度が高すぎる状態では、姿勢だけを修正しても長く維持できません。
呼吸を止めていたり、肩へ力が入っていたりする場合は、一度長めに息を吐きます。
息を吐いた後、腹部を固め直すのではなく、自然な呼吸へ戻します。
疲れると、視線が足元へ下がり、頭が前へ出やすくなります。
安全を確認したうえで視線を少し前へ移し、頭・胸郭・骨盤の位置関係を整えます。
肩を一度すくめてから落とす、手を軽く開くなどの方法で、上半身の力みを確認します。
腕振りを大きくしようとするより、まず余計な緊張を減らしましょう。
疲労時に、
- 腹筋
- 骨盤
- 胸
- 腕
- 接地
- ピッチ
をすべて同時に意識すると、動きがさらに不自然になる可能性があります。
最も崩れている一つを短時間修正し、その後は自然に走ります。
体幹を意識するときのよくある誤解

腹部を強くへこませ続ける必要はありません。
呼吸を止めず、胸郭と腹部が動ける余裕を残します。
骨盤の回旋や傾斜は、正常なランニング動作の一部です。
必要なのは完全な固定ではなく、過剰な動きや左右差をコントロールすることです。
胸を張りすぎると、肋骨が前へ開き、腰椎の伸展が大きくなる場合があります。
胸を持ち上げるより、頭・胸郭・骨盤が無理なく積み重なる姿勢を意識します。
大きな前傾は、股関節周囲の筋活動と代謝コストを増やす可能性があります。
意図的に身体を大きく倒す必要はありません。
走行動作を意識し続けると、ランニングエコノミーが悪化する可能性があります。
フォームの確認は短時間にとどめ、修正後は周囲へ意識を戻しましょう。
自分の体幹の使い方を確認する方法
スマートフォンで正面と側面から撮影すると、主観だけでは分からない動きを確認できます。
側面からは、
- 頭だけが前へ出ていないか
- 腰が反りすぎていないか
- 前傾が大きすぎないか
- 疲労後に姿勢が変化していないか
を確認します。
正面または後方からは、
- 体幹が左右へ大きく傾いていないか
- 肩の高さに大きな左右差がないか
- 骨盤の傾きが疲労によって増えていないか
- 腕が身体の前を大きく横切っていないか
を確認できます。

自然な動きや小さな左右差まで、すべて修正する必要はありません。痛み、走りにくさ、疲労後の明確な変化と合わせて判断してください。
まとめ
ランニング中の体幹は、強く固め続けるものではありません。
胸郭・背骨・骨盤が必要な範囲で動き、腹部・背部・臀部などの筋肉が協調することで、姿勢と全身の動きがコントロールされています。
体幹を意識するときは、
- 胸郭を骨盤の上に無理なく乗せる
- 腰を反りすぎない
- 前傾を大きくしすぎない
- 骨盤を完全に固定しない
- 肩と首の力を抜く
- 呼吸を止めない
- 一つだけ短時間修正する
ことがポイントです。
走っている間ずっと腹部や姿勢へ注意を向けると、余計な筋活動が増え、ランニングエコノミーが悪化する可能性があります。

体幹は「固め続ける」のではなく、「必要なときに整え、自然な動きへ戻す」ことを意識しましょう。
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