ランニング中、急に右または左の脇腹が痛くなり、ペースを落とした経験はないでしょうか。
運動中に一時的に生じる脇腹の痛みは、医学・スポーツ科学の分野で**運動関連一過性腹痛(Exercise-Related Transient Abdominal Pain:ETAP)**と呼ばれます。一般には「差し込み」「サイドステッチ」と呼ばれる症状です。
ETAPはランナーに多く、過去1年間に経験した人が約69%だった調査もあります。ただし、原因は現在も完全には解明されておらず、「横隔膜のけいれん」と断定することはできません。
この記事では、ランニングで脇腹が痛くなる原因、痛みが出たときの対処法、予防方法、補給食・飲み物の選び方を研究に基づいて解説します。
この記事の結論
ランニング中の典型的な脇腹痛は、速度を落とすか止まると軽くなる一過性の症状です。痛みが出たら無理に走り続けず、ペースを落とし、痛む場所を手で圧迫しながらゆっくり息を吐いてください。予防では、走る直前の多量の飲食を避け、自分が消化しやすい補給方法を練習中に確認することが大切です。
ランニング中に起こる脇腹の痛みとは?

ETAPは、運動中に腹部の限局した場所へ生じる一時的な痛みです。
軽い場合は、
- 引っ張られる感じ
- 鈍い痛み
- 締め付けられる感じ
- けいれんのような痛み
として現れます。強くなると、針で刺されるような鋭い痛みとして感じられます。
痛みは左右どちらにも起こりますが、右側で多く報告されています。965人を対象にした調査では、経験者の79%が痛みを「限局している」と回答し、78%は腹部の右または左の側面に痛みを感じていました。
また、同じ側の肩先へ痛みを感じることもあります。これは横隔膜周辺への刺激に伴う関連痛の可能性があります。
6種目の運動参加者965人を調べた研究では、過去1年間にETAPを経験した割合は、ランニング69%、水泳75%、自転車32%でした。上下動や体幹の回旋を繰り返す種目で起こりやすい傾向があります。
14kmの市民レース参加者848人を対象にした別の調査では、当日にETAPを経験した割合は全体で27%、ランナーでは30%、ウォーカーでは16%でした。痛みを経験した人の42%は、走行パフォーマンスへ悪影響があったと回答しています。
ランニングで脇腹が痛くなる原因
原因は一つに確定していない
ETAPの原因として、これまでに次のような説が提案されてきました。
- 横隔膜への血流が不足する
- 横隔膜または腹筋がけいれんする
- 内臓を支える組織が引っ張られる
- 腹膜が摩擦や伸張によって刺激される
- 胸椎周辺の姿勢や神経が影響する
このうち、現在は腹壁の内側を覆う壁側腹膜への刺激が、多くの特徴を説明できる有力な仮説とされています。ただし、直接証明されたわけではなく、ETAPの原因は確定していません。

したがって、「呼吸が浅いから」「酸素不足だから」「横隔膜がけいれんしたから」と一つの原因だけで説明するのは適切ではありません。
ランニングの上下動と体幹の反復運動
ETAPは、ランニングや乗馬のように、伸びた姿勢で体幹の上下動を繰り返す運動に多くみられます。
走るたびに腹部が揺れ、腹膜や周辺組織へ機械的な刺激が加わることが、痛みに関係している可能性があります。ウォーキングよりランニングで発生率が高かった調査結果も、この考え方と一致します。
走る前に食べ過ぎている
14kmレースの調査では、スタート1〜2時間前に体重当たりで多量の食事を取ったランナーほど、ETAPが起こりやすい結果でした。一方、食事の栄養素の構成そのものとは関連が認められませんでした。

消化しきれていない食べ物や飲み物が胃に多く残った状態で走ると、腹部の重さや膨満感が増し、痛みを誘発する可能性があります。
短時間に大量の水分を飲んでいる
水分補給は必要ですが、走る直前や走行中に一度に大量の飲み物を取ると、胃が膨らみ、ETAPが起こりやすくなる人がいます。
「脇腹痛を避けるために水分を我慢する」のではなく、日常から水分を確保し、走る直前の一気飲みを避けることが大切です。
糖質濃度と浸透圧の高い飲み物
ETAPが起こりやすい40人を対象に、飲料の違いを比較した研究があります。
糖質10.4%、浸透圧489mOsm/Lの還元果汁飲料は、水、糖質6%のスポーツドリンク、無飲水よりもETAPと腹部膨満感を強く引き起こしました。
この結果から、脇腹痛が出やすい人は、走る直前や走行中の濃い果汁飲料、炭酸飲料、高濃度の糖質飲料に注意が必要です。ただし、対象者40人の小規模研究であり、「スポーツドリンクなら必ず痛まない」という意味ではありません。
年齢・経験・姿勢・体幹機能
ETAPは若い人ほど起こりやすく、年齢とともに発生が減る傾向があります。一方、性別やBMIとの明確な関連は確認されていません。
胸椎後弯が強い人ほどETAPを経験しやすかった観察研究や、体幹機能が高いランナーほど症状が少なかった観察研究もあります。
ただし、これらは関連を調べた研究です。姿勢矯正や体幹トレーニングによって、すべてのランナーの脇腹痛を予防できると証明したものではありません。
走りながら脇腹の痛みを和らげる方法
ETAPが起きたときの対処法には、質の高い比較試験が少なく、確実な方法は確立していません。 実際には、次の順番で対応すると安全です。
1.ペースを落とす
まず、ランニングの速度を落としてジョギングまたはウォーキングへ切り替えます。強度を下げることで体幹の上下動が小さくなり、呼吸にも余裕が生まれます。
痛みでフォームや呼吸が大きく乱れている場合は、立ち止まってください。記録や予定距離よりも、症状を落ち着かせることを優先します。
2.痛む場所を手で圧迫する
痛む部分を指や手のひらで軽く圧迫すると、楽になる人がいます。上体を少し前へ倒す方法と組み合わせても構いません。
ただし、強く押し込む必要はありません。触れただけで激痛がある、腹部が硬い、押して手を離したときに強く痛む場合は、典型的なETAPではない可能性があります。
3.息をゆっくり長く吐く
呼吸を止めず、吸うことよりも、まずゆっくり吐くことを意識します。呼吸と足運びを無理に特定のリズムへ合わせる必要はありません。
深呼吸で改善したという経験的な報告はありますが、呼吸法の効果を裏付ける十分な比較試験はありません。「この呼吸法なら必ず治る」とは考えず、ペースダウンと組み合わせます。
4.改善しなければ走るのをやめる
速度を落としても痛みが強くなる場合や、歩いても改善しない場合はランニングを中止します。
典型的なETAPは、運動強度を下げるか運動を止めると軽快します。休んでも痛みが続く場合は、消化器、泌尿器、呼吸器、循環器など、別の原因も考える必要があります。
ランニング中の脇腹痛を予防する方法
脇腹痛が起こりやすい人は、多量の食事や飲み物とランニングの間を少なくとも2時間程度空ける方法を試します。
ただし、必要な消化時間には個人差があります。量の多い食事や脂質・食物繊維の多い食事では、さらに時間が必要な場合があります。空腹で走る必要はなく、少量の補給なら1〜2時間前でも問題がない人もいます。
大切なのは、食事内容、量、摂取時刻、痛みの有無を記録し、自分の許容量を確認することです。
走る直前の一気飲みを避け、日常からこまめに水分を取ります。走行中も、一度にボトルを飲み切らず、のどの渇き、発汗量、気温、走行時間に応じて少量ずつ補給します。
脇腹痛を恐れて脱水になることも、過剰に飲むことも避けなければなりません。必要量は発汗量によって異なるため、「全員が同じ量を飲む」という基準にはできません。
症状が出やすい人は、次の飲み物を走る直前や走行中に大量摂取しないようにします。
- 果汁100%ジュース
- 濃く作ったスポーツドリンク
- 炭酸入りの糖質飲料
- 高糖質のエネルギー飲料
長時間のランニングで糖質補給が必要な場合は、糖質濃度4〜8%程度のスポーツドリンク、またはエネルギージェルと水を組み合わせる方法があります。
ただし、糖質補給を一律に減らす必要はありません。補給不足はロング走やレースの失速につながるため、症状が出ない濃度・量・頻度を練習で探します。
走り始めから急にペースを上げると、呼吸と体幹の動きが急激に大きくなります。
5〜10分程度のウォーキングまたはゆっくりしたジョギングから始め、体調を確認しながら目的のペースへ上げましょう。ウォームアップがETAPを直接予防するという強い根拠はありませんが、急激な負荷の上昇を避ける実践的な方法です。
姿勢や体幹機能とETAPの関連を示した観察研究があります。[5][6] 脇腹痛を繰り返す場合は、次のような運動を無理のない範囲で取り入れます。
- 胸椎伸展・回旋のモビリティ運動
- デッドバグ
- バードドッグ
- サイドプランク
- 呼吸を止めずに行う体幹持久力トレーニング

週2〜3回、各種目を短時間から始めます。体幹を常に強く固めて走る必要はありません。ランニング中は自然に呼吸できる程度の安定性を目指します。
脇腹が痛くなった日は、次の項目を記録しておくと原因を絞り込みやすくなります。
- 食事から走り始めまでの時間
- 食事と飲み物の種類・量
- 痛みが出るまでの時間と距離
- ランニングのペース
- 痛む場所と強さ
- 気温・湿度
- 便通や吐き気など、ほかの消化器症状
複数の条件を一度に変えず、食事量、飲料濃度、摂取時刻などを一つずつ調整します。
脇腹が痛くなりやすいランナーの補給食・飲み物
ETAPを治療する特定の補給食や飲み物はありません。選ぶ目的は、胃へ一度に大きな負担をかけず、必要な水分と糖質を確保することです。
| 場面 | 選びやすいもの | 注意点 |
|---|---|---|
| 60分未満の軽いラン | 水、必要なら少量の麦茶 | 直前の一気飲みを避ける |
| 1〜2時間前の軽食 | バナナ、小さめのおにぎり、食パン、エネルギーゼリー | 食べ過ぎず、普段から消化できる食品を選ぶ |
| 60分を超えるラン | 糖質濃度4〜8%程度のスポーツドリンク | 濃く作らない。少量ずつ飲む |
| ロング走・レース | エネルギージェル+水、スポーツドリンク | ジェルを水なしで連続摂取しない。練習で試す |
| 暑い日の長時間走 | 水分と電解質を含む飲料 | 塩分だけでETAPを防げる根拠はない。飲み過ぎにも注意 |
水
短時間のランニングでは、水で十分な場合があります。糖質や浸透圧の影響を切り分けたい人にも試しやすい選択です。
ただし、長時間走で水だけに固定すると、必要な糖質や電解質が不足する場合があります。運動時間、気温、発汗量に合わせて選びます。
スポーツドリンク
長時間走では、水分、糖質、電解質を同時に補える点が利点です。脇腹痛が出やすい人は、製品表示どおりに作り、濃縮しないでください。
市販品でも濃度や飲みやすさは異なります。レース本番で初めて使わず、ロング走で量と摂取間隔を確認します。
エネルギージェル・エネルギーゼリー
携帯しやすく、ロング走の糖質補給に向いています。一方、少量に糖質が集中しているため、ジェルを水なしで一度に飲むと、胃腸の不快感が出る人もいます。
ジェルは少量の水と一緒に取り、スポーツドリンクと同時に摂取する場合は糖質が過度に集中しないようにします。
補給の目安は運動時間や強度で変わりますが、長時間運動では一般に1時間当たり30〜60gの糖質が用いられます。
最初から上限量を目指さず、少量から胃腸を慣らしてください。
塩タブレット・サプリメント
ETAPは一般的な筋けいれんと同じとは限らず、塩分やマグネシウムを取れば改善するという根拠はありません。
発汗量の多い長時間運動で電解質補給が必要な場合はありますが、脇腹痛だけを理由に塩タブレットやサプリメントを増やす必要はありません。
脇腹が痛くても走り続けてよい?
痛みが軽く、速度を落とすと改善し、ほかの症状がない場合は、歩行またはゆっくりしたジョギングで経過をみても構いません。
次の場合は走るのを中止してください。
- 痛みが徐々に強くなる
- 歩いても改善しない
- フォームや呼吸を保てない
- めまい、冷や汗、強い息苦しさがある
- 吐き気、嘔吐、下痢、血便などを伴う
- いつもの脇腹痛とは場所や性質が異なる
「脇腹痛は harmless だから必ず走り続けてよい」と考えるのは危険です。腹痛にはETAP以外にも多くの原因があります。
医療機関へ相談した方がよい症状
典型的なETAPは運動中に現れ、運動を止めると軽快します。次のような場合は、自己判断でETAPと決めつけず、医療機関へ相談してください。
- 毎回同じ場所が痛み、対策をしても繰り返す
- 運動を止めた後も痛みが続く
- 運動していないときにも痛む
- 痛みが以前より強くなっている
- 発熱、下痢、便秘、排尿時痛などを伴う
- 原因不明の体重減少がある
- 腹部の腫れやしこりを感じる
繰り返す運動時腹痛には、消化器疾患、尿路結石、筋骨格系の問題などが隠れている場合があります。
- 突然の激しい腹痛
- 休んでも悪化する、または数時間続く痛み
- 胸、首、肩へ広がる痛み
- 強い息苦しさ、胸部圧迫感、冷や汗、意識が遠のく感じ
- 繰り返す嘔吐
- 血便、黒い便、吐血、血尿
- 38℃以上の発熱を伴う腹痛
- 腹部が大きく張る、または硬くなる
特に、運動で悪化する上腹部痛が胸部症状や息苦しさを伴う場合は、心臓など腹部以外の病気も考えられます。緊急性が高いと感じたら、日本では119番へ連絡してください。
ランニング中の脇腹痛に関するよくある質問
ETAPは左右どちらにも起こり、右側で多く報告されています。しかし、痛む側だけで原因を特定することはできません。
右下腹部の痛みが持続・悪化する、発熱や吐き気を伴う場合などは、典型的なETAPと決めつけず受診してください。
「痛む側と反対の足が着地するときに息を吐く」といった方法が紹介されることがありますが、効果を示す十分な比較試験はありません。
試して楽になるなら利用して構いませんが、複雑な呼吸リズムへ無理に固定せず、まず速度を落として自然に長く吐ける状態を作ります。
トレーニング経験が増えると症状が減る人はいますが、鍛えたランナーにもETAPは起こります。脇腹痛だけを体力不足の証拠と考える必要はありません。
走る直前の多量摂取を避けることは有用ですが、水分を取らない方法は推奨できません。脱水や暑熱障害の危険があるため、普段から水分を確保し、走行中は必要量を少量ずつ摂取します。
原因が分からない腹痛を痛み止めで隠して走り続けることは勧められません。特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は胃腸や腎臓へ負担をかける可能性があります。痛みを繰り返す場合は、薬で抑える前に医療機関へ相談してください。
まとめ
ランニング中に脇腹が痛くなる症状の多くは、運動関連一過性腹痛(ETAP)と考えられます。ランナーには珍しくありませんが、原因は完全には解明されていません。
痛みが出たときは、
- ペースを落として歩く
- 痛む場所を軽く圧迫する
- 息を止めず、ゆっくり長く吐く
- 改善しなければランニングを中止する
の順に対応します。

予防では、走る直前の大量の飲食を避け、水分や糖質を少量ずつ補給することが基本です。濃い果汁飲料や高濃度の糖質飲料で痛みが出る人は、水や通常濃度のスポーツドリンク、ジェルと水の組み合わせを練習で試してください。
休んでも痛みが続く、運動していないときも痛む、発熱・嘔吐・出血・胸部症状などを伴う場合は、ETAPと自己判断せず医療機関へ相談しましょう。
参考文献
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- Healthdirect Australia. Abdominal pain — causes, self-care and treatments. Reviewed February 2024.
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。症状が強い、長引く、繰り返す、または不安がある場合は医療機関へ相談してください。
風を切るランニング 