ランニング経験者がトレランを始めるには?ロードとの違い・走り方・装備を解説

 ロードランニングを続けていると、「山も走ってみたい」「トレランを練習に取り入れたい」と考える人もいるでしょう。

 トレラン(トレイルランニング)は、林道や登山道などの自然の中を走るスポーツです。ロードで培った心肺機能や持久力は生かせますが、同じ距離でも負担や所要時間は大きく異なります。舗装路と同じペースで走ろうとすると、早い段階で疲れたり、下りで転倒したりする可能性があります。

 初めてのトレランで大切なのは、速く走ることではありません。

歩きを交えながら安全に行動し、余力を残して戻ることが最優先です。

 この記事では、トレラン未経験の市民ランナーに向けて、ロードランニングとの違い、期待できる効果、登り・下りの走り方、装備、練習メニュー、大会までの準備を解説します。

目次

トレラン(トレイルランニング)とは?

 トレランとは、山道、森林、丘陵、林道など、主に未舗装の自然環境を走るランニングです。

 すべての区間を走り続ける必要はありません。急な登り、滑りやすい下り、狭い場所では歩くのが一般的です。コースによって路面、傾斜、標高、気象条件が変わるため、ロードランニングよりも状況判断が求められます。

 

走(かける)
走(かける)

「山を走る」というより、初心者は走れる場所をゆっくり走り、危険な場所や急坂は歩くと考えるとよいでしょう。

ロードランニングとトレランの違い

 ロードランニングとトレランの主な違いは、路面と傾斜、ペースの考え方、安全管理です。

項目ロードランニングトレラン
主な路面アスファルト、陸上競技場土、砂利、岩、木の根、階段
傾斜比較的少ない登りと下りが連続する
ペース1kmあたりの時間で管理しやすい地形で大きく変わる
動作一定の動きを反復しやすい歩幅、接地位置、方向を頻繁に変える
主な負担同じ動作の反復登りの心肺負荷、下りの筋負荷
シューズ軽さ、反発性、クッション性などグリップ、安定性、保護性など
給水・補給店舗や給水場所を利用しやすい自分で携行する場面が多い
主なリスク交通事故、暑熱、使いすぎなど転倒、道迷い、天候急変、低体温など

同じ10kmでも負荷と時間は同じではない

 トレランでは、距離だけで難易度を判断できません。累積標高、路面の荒れ方、標高、気温、給水場所の有無によって、所要時間が大幅に変わります。

 

走(かける)
走(かける)

そのため、ロードの10km走とトレイルの10kmを同じ練習量として扱うのは避けましょう。初心者は距離やペースよりも、運動時間と主観的運動強度で管理する方が実践的です。

トレランに期待できる効果・メリット

1.心肺機能と持久力へ刺激を加えられる

 登りでは、平地より速度が遅くても酸素摂取量や心血管系への負担が高くなります。一定ペースのロードランニングとは異なり、傾斜に応じて運動強度が自然に変化するのが特徴です。

 ただし、トレランだけに特別な心肺機能向上効果があると断定はできません。効果は運動強度、時間、頻度、トレーニング歴に左右されます。

2.登りで臀部やふくらはぎを使いやすい

 登りでは推進力を生み出すため、股関節、膝関節、足関節まわりの筋活動が変化します。急坂を歩くパワーハイクでも、臀部や大腿部、ふくらはぎへ十分な負荷を加えられます。

3.下りに必要なブレーキ能力を鍛えられる

 下りでは、大腿四頭筋などが伸ばされながら力を出す「伸張性収縮」が増えます。この刺激へ段階的に慣れることは、下りを含むコースへの適応につながります。

 一方、慣れない下りを長時間走ると筋損傷や筋力低下が生じやすいため、初回から下りを攻めるのはおすすめできません。

研究

 2024年の実験研究でも、レクリエーショナルランナーが30分間の下り走を行った後に、筋損傷指標の上昇と最大随意筋力の低下が報告されています。ただし、対象者は10人であり、結果の一般化には注意が必要です。

4.路面に合わせて動きを調整する練習になる

 不整地では、足を置く位置、歩幅、方向、姿勢を一歩ごとに調整します。ロードとは異なる身体操作を経験できる点は、トレランの特徴です。

 ただし、「トレランをすればロードで必ず速くなる」「不整地を走ればケガを予防できる」とまではいえません。ロードの記録向上を目指す場合は、ロードでのペース走やインターバル走など、競技特異的な練習も必要です。

5.景色やコースの変化を楽しめる

 自然の中を移動する楽しさや、季節・景色の変化はトレランの大きな魅力です。タイムだけに意識が向きやすいランナーにとって、走る目的を広げる機会にもなります。

ロード経験者がトレランを始める5つの手順

1.最初は低山の短いコースを選ぶ

 初回は、次の条件を満たすコースが適しています。

  • 距離5〜8km程度
  • 行動時間60〜90分程度
  • 累積標高300m前後まで
  • エスケープルートがある
  • 携帯電話の電波が入りやすい
  • 人気があり、道標が整備されている
  • 日没より十分早く戻れる

 

走(かける)
走(かける)

数字は絶対基準ではありません。暑さ、路面、体力、登山経験によって難易度は変わります。初めての場所では、経験者やガイドと一緒に行く方法もあります。

2.事前にコースと天候を確認する

 距離だけでなく、累積標高、分岐、給水場所、トイレ、通行止め、日没時刻を確認します。山の天候は変わりやすいため、出発時に晴れていてもレインウェアや防寒着が必要な場合があります。

 ルートはスマートフォンへ保存し、電波がない場所でも見られるようにしておきましょう。スマートフォンだけに依存せず、予備バッテリーや紙地図を準備すると安心です。

3.家族や知人へ計画を伝える

 行き先、コース、入山時刻、下山予定時刻、同行者を共有します。必要な山域では登山届を提出してください。文部科学省や政府広報も、体力と経験に合う計画、登山計画書の作成・提出、地図や通信手段などの装備を勧めています。

4.登りは早めに歩く

 「ロードランナーだから走り切れる」と考えず、呼吸が乱れる前に歩きへ切り替えます。序盤の急坂で頑張りすぎると、その後の判断力や下りの脚力まで失いやすくなります。

5.余力を残して終了する

 初回の目的は、疲れ切ることではなく、路面と装備に慣れることです。「もう少し動ける」と感じる段階で終え、翌日以降の筋肉痛や痛みを確認しましょう。

初心者向け|トレランの走り方

平坦・緩い起伏の走り方

  • ロードより歩幅を小さくする
  • 数歩先の路面を見て、足を置く場所を選ぶ
  • 岩や木の根を無理に飛び越えない
  • 腕を少し広げ、バランスを調整する
  • 狭い場所や見通しの悪い場所では減速する

 

走(かける)
走(かける)

足元だけを見続けると、前方の枝や人、次の地形変化を見落とします。視線は進行方向と足元を行き来させましょう。

登りの走り方・歩き方

 緩い登りは、小さな歩幅と短い接地で進みます。急になるほど無理に走らず、パワーハイクへ切り替えます。

  • 上体は腰から折らず、傾斜に合わせて全身をわずかに前へ
  • 歩幅を小さくし、一定のリズムを保つ
  • 急坂では手を太ももへ当てて押す
  • 呼吸が整う強度までペースを落とす

走(かける)
走(かける)

走るか歩くかは速度だけで決めません。走っても歩いても速度差が小さく、心拍数だけが上がるなら、歩いた方が体力を温存できます。

下りの走り方

 下りではスピードよりも制御を優先します。

  • 歩幅を広げすぎない
  • 重心から遠い位置へ足を突っ込まない
  • 足を置ける路面を早めに探す
  • 急斜面や濡れた岩では歩く
  • 前の人との間隔を十分に空ける

 

走(かける)
走(かける)

初心者は「速く下る技術」より、いつ減速し、いつ歩くかを判断する技術を先に身につけましょう。

 特定の足部接地へ無理に統一する必要はありません。傾斜、速度、路面に合わせて接地は変化します。「必ず前足部で着地する」と決めるより、身体の近くへ足を置き、制御できる速度を保つことが重要です。

トレラン初心者に必要な装備

 必要な装備は、距離、標高、季節、天候、コース、大会規則で変わります。

最低限準備したい装備

装備選ぶポイント
トレランシューズ路面に合うグリップ、足の保護性、安定性、適切なサイズ
ランニングベスト・ザック荷物が揺れにくく、走りながら給水しやすい
水分行動時間、気温、給水場所を考えて量を決める
補給食食べ慣れた物を複数に分けて携行する
レインウェア・防寒着山域、季節、天候に合う物を選ぶ
スマートフォンルートをオフライン保存し、防水対策を行う
予備バッテリー低温や長時間行動による電池消耗へ備える
ヘッドライト遅延や日没へ備え、短い予定でも検討する
救急用品絆創膏、ガーゼ、テーピング、常用薬など
エマージェンシーシート・笛動けなくなった場合の保温と救助要請に使う

トレランシューズの選び方

 ロード用シューズでも走れる整備路はありますが、ぬかるみ、砂利、岩、木の根が多いコースではトレランシューズが適しています。

 初心者は、軽さだけでなく次の項目を確認しましょう。

  • 濡れた路面や土で滑りにくいか
  • 横方向へぐらつきにくいか
  • つま先を岩から守れるか
  • 下りでも指先が当たりにくいか
  • 厚手のソックスを履いても窮屈でないか

 

走(かける)
走(かける)

シューズの適性は路面によって異なります。深いラグはぬかるみで有利な一方、硬い舗装路では走りにくい場合があります。店頭で用途と予定コースを伝え、試着するのがおすすめです。

ロード用品をそのまま使える?

 ウェア、帽子、時計などは流用できます。ただし、ロードでは携行しない水分、防寒着、地図、ライト、救急用品が必要になる場合があります。

 「短距離だから装備は少なくてよい」とは限りません。山では、ケガや道迷いによって行動時間が延びる可能性も考えて準備します。

初心者向け|6週間のトレラン練習メニュー例

 週3〜4回走っているロードランナーが、初めて60〜90分のトレランへ挑戦する例です。現在の走行量を大きく増やさず、ロード練習の一部を置き換えます。

トレランに向けた主な練習ポイント
1イージーラン40分+緩い坂を歩く5分×2坂で無理に走らない
2起伏のあるロード50分ペースではなく会話できる強度
3階段または坂30〜40分+筋トレ下りはゆっくり
4整備された未舗装路60分シューズとザックを試す
5低山または丘陵60〜75分登りを歩き、補給を試す
6易しいトレイル60〜90分余力を残して終了する

1週間の組み込み例

曜日内容
休養
イージーラン40分
筋力トレーニング20〜30分
イージーラン40〜50分+流し
休養
起伏走または初心者向けトレラン60〜90分
ウォーキングまたは回復ジョグ30分

走(かける)
走(かける)

普段のポイント練習とトレランを同じ週に詰め込みすぎないようにします。特に下りを多く走った後は、大腿部の筋肉痛や筋力低下が残ることがあります。翌日にインターバル走やロング走を入れるのは避けましょう。

補助的に行いたい筋力トレーニング

  • スクワット
  • スプリットスクワット
  • ステップアップ
  • カーフレイズ
  • シングルレッグ・ルーマニアンデッドリフト

走(かける)
走(かける)

週1〜2回、フォームを保てる回数から始めます。下り対策としては、スクワットやステップダウンの「下ろす局面」をゆっくり行う方法があります。ただし、筋肉痛が強く残るほど急に増やす必要はありません。

初めてトレラン大会へ出るまでの準備

1.距離だけで大会を選ばない

 大会選びでは、次を確認します。

  • 距離と累積標高
  • 制限時間と関門
  • 路面や技術的難易度
  • スタート地点までの交通
  • エイドの場所と内容
  • 必携品
  • 悪天候時の対応
  • 過去の完走率

走(かける)
走(かける)

初大会は、10〜20km程度のショートレースや初心者向けイベントが候補になります。ただし、同じ10kmでも累積標高や路面で難易度は異なるため、大会公式情報を優先してください。

2.本番装備を練習で試す

 シューズ、ソックス、ザック、水分、補給食、レインウェアを本番前に試します。ザックの擦れ、シューズ内の指当たり、ボトルの出し入れなどは、実際に動かなければ分かりません。

3.登りと下りを経験しておく

 ロードだけで心肺機能を高めても、長い登りの歩き方や下りの筋負荷には十分慣れられません。大会前に、似た傾斜や路面を安全な範囲で経験しておきましょう。

4.大会規則と必携品を確認する

 必携品は大会ごとに異なります。レインウェア、ライト、水分、携帯電話、エマージェンシーシートなどが指定される場合があります。一般的な装備リストではなく、参加する大会の最新版を確認してください。

トレランでケガ・遭難を防ぐための注意点

ペースより安全を優先する

 人とすれ違う場所、狭い道、見通しの悪い場所、滑りやすい場所では歩きます。登山者へ接近するときは早めに減速し、声をかけてから安全に通過しましょう。

 日本トレイルランナーズ協会の安全・マナーガイドでも、自然への敬意、安全第一、トレイルの譲り合い、すれ違いや追い越し時の歩行が示されています。

コース外へ入らない

 植生を傷つけたり、道迷いを招いたりするため、ショートカットやコース外走行は避けます。ゴミはすべて持ち帰り、地域や施設のルールに従いましょう。

痛みや体調不良を軽視しない

研究

 トレイルランナーの傷害・疾病に関する2021年のシステマティックレビューでは、足部が最も多い傷害部位で、膝、下腿、大腿、足関節が続きました。

 ただし、研究間の定義や調査方法の差が大きく、正確な発生率には幅があります。

 次の状態では、走るのを中止して安全な場所へ移動します。

  • 体重をかけられない痛み
  • 関節の明らかな腫れや変形
  • 胸痛、強い息苦しさ、意識が遠のく感覚
  • ふらつき、混乱、まっすぐ歩けない状態
  • 強い寒気、震えが止まる、動作が遅くなる
  • 暑い環境での頭痛、吐き気、判断力低下

 緊急性がある場合は救助を要請します。電波が入らない可能性もあるため、「何か起きてから調べる」のではなく、事前の計画と装備が重要です。

ランニング経験者がトレランでやりやすい失敗

ロードと同じペースを維持する

 登りで心拍数が上がりすぎ、下りで脚が残らなくなります。1kmペースは気にせず、会話できる程度の強度を基本にしましょう。

登りをすべて走ろうとする

 急坂では、走るより歩く方が効率よく進める場合があります。歩きは失敗ではなく、トレランの重要な技術です。

下りでスピードを出しすぎる

 心肺的に楽でも、脚には大きなブレーキ負荷がかかります。初心者は短い区間から慣らし、翌日の反応を確認します。

距離だけでコースを選ぶ

 累積標高、路面、気象、エスケープルートを含めて判断します。初めてのコースで距離を伸ばしすぎないようにしましょう。

装備を本番で初めて使う

 ザックの揺れや擦れ、シューズの指当たり、補給食の食べやすさは練習で確認してください。

よくある質問

ロード用ランニングシューズでトレランを始めてもよい?

乾いた整備路や公園の未舗装路であれば使える場合があります。ただし、ぬかるみ、岩、急坂ではグリップや保護性が不足する可能性があります。予定コースの路面に合わせて判断しましょう。

トレランは全部走らないといけない?

いいえ。急な登りや危険な下りを歩くのは一般的です。初心者ほど、早めに歩きを取り入れた方が安全に長く行動できます。

トレランをすればロードのタイムも伸びる?

登りによる心肺刺激や異なる筋負荷は得られますが、ロードの記録向上を保証するものではありません。ロードの目標レースがある場合は、ペース走やインターバル走なども組み合わせます。

初心者は何kmから始めればよい?

ロード経験者でも、最初は5〜8km、60〜90分程度の易しいコースが一つの目安です。ただし、距離より累積標高、路面、天候、エスケープルートを重視してください。

1人でトレランを始めてもよい?

道標が整備され、利用者が多く、短時間で戻れる低難度コースなら可能な場合があります。それでも、ルート確認、計画共有、必要装備は欠かせません。不安があれば、経験者同行のイベントや講習会から始める方が安全です。

まとめ|ロードの速さより山で安全に動く力を身につけよう

 トレランでは、ロードランニングで培った持久力を生かせます。しかし、傾斜、不整地、天候、携行装備など、ロードとは異なる要素が加わります。

 初めてのトレランでは、次の5点を意識してください。

  1. 短く、道標が整った易しいコースを選ぶ
  2. ペースではなく運動時間と主観的強度で管理する
  3. 登りは早めに歩き、下りは制御できる速度を守る
  4. 水分、防寒着、地図、通信手段などを携行する
  5. 余力を残して戻り、翌日以降の身体反応を確認する

走(かける)
走(かける)

トレランは、ロードより速く走る場所ではなく、自然と地形に合わせて動くランニングです。最初から距離やスピードを求めず、安全に終えられる経験を積み重ねていきましょう。

参考文献・参考資料

  1. Vernillo G, et al. Biomechanics and Physiology of Uphill and Downhill Running. Sports Medicine. 2017;47:615–629.
  2. Lu Z, et al. A review of uphill and downhill running: biomechanics, physiology and modulating factors. Frontiers in Physiology. 2025.
  3. Coratella G, et al. Downhill running increases markers of muscle damage and impairs the maximal voluntary force production as well as the late phase of the rate of voluntary force development. European Journal of Applied Physiology. 2024;124:1875–1883.
  4. Viljoen CT, et al. Epidemiology of Injury and Illness Among Trail Runners: A Systematic Review. Sports Medicine. 2021;51:917–943.
  5. Giandolini M, et al. Biomechanical adaptations and performance indicators in short trail running. Frontiers in Physiology. 2019;10:506.
  6. 日本トレイルランナーズ協会. トレイルランニング 安全・マナーガイド.
  7. 文部科学省. 登山計画書の作成と提出は山頂への第一歩目です.
  8. 政府広報オンライン. 山の事故を防ごう!登山を楽しむために知っておきたい安全対策.
  9. RUNNET. 準備編2~トレラングッズをそろえよう.

※本記事の数値は初心者が計画を立てるための目安です。コース難易度、天候、標高、体力、登山経験によって適切な距離・装備は変わります。大会へ参加する場合は、必ず主催者が公開する最新の大会要項と必携品を確認してください。