
「ランニングを始めたら脚が細くなった気がする」
「長距離を走ると筋肉が落ちるって聞いた」
このような不安を感じたことがあるランナーもいるのではないでしょうか。
確かにランニングはエネルギー消費量の多い運動です。走行距離が増える一方で食事量が不足したり、タンパク質や糖質が十分に摂れていなかったりすると、筋肉量の維持が難しくなる可能性があります。
しかし、「ランニングをすると筋肉が分解されて、どんどん筋肉が減っていく」という理解は正確ではありません。
私たちの筋肉では普段から、
- 筋タンパク質をつくる「筋タンパク質合成」
- 筋タンパク質を分解する「筋タンパク質分解」
が繰り返されています。
筋肉量が維持されるか減少するかは、長期的に見た合成と分解のバランスによって決まります。
そのため、ランナーが筋肉を守るうえで重要なのは「走らないこと」ではありません。
十分なエネルギーを摂ること、タンパク質と糖質を補給すること、筋トレを取り入れること、そして適切に回復することが重要です。
【本記事内容】
1.ランニングで本当に筋肉は減るのか
2.ランナーの筋肉量が減少する原因
3.持久力トレーニングと筋肥大の関係
4.ランナーが筋肉を守る5つの対策
5.ランナーに必要なタンパク質量
6.タンパク質を摂るタイミング
7.プロテインは必要なのか

「走力を伸ばしたいけれど筋肉も維持したい」というランナーは、ぜひ参考にしてください。
そもそもランニングで筋肉は減るのか?

まず覚えておきたいのが、筋タンパク質が分解されることと、実際に筋肉量が減少することは別という点です。
運動をすると筋タンパク質の代謝は変化しますが、運動後に十分な栄養を摂取することで筋タンパク質合成も促されます。
一回のランニングで筋タンパク質分解が増加したとしても、それだけで長期的に筋肉量が減少するとは限りません。

問題になりやすいのは、「走る量に対して食事・筋トレ・回復が追いついていない状態」が長期間続くことです。
特に注意したいのは、
- 走行距離が急激に増えている
- 食事量が少ない
- 減量を行っている
- タンパク質摂取量が少ない
- 糖質を極端に制限している
- 筋トレをまったく行っていない
- 疲労が抜けていない
といったケースです。

「長距離を走る=筋肉が減る」と考える必要はありません。
走った分だけ身体に必要な栄養と回復を確保できているかが重要です。
「脚が細くなった=筋肉が落ちた」とは限らない

ランニングを始めて体重や体脂肪が減ると、脚が細く見えることがあります。
さらに、筋肉にはグリコーゲンと水分が蓄えられているため、長時間走った後や糖質摂取量が少ない状態では、一時的に筋肉の張りが少なく見えることもあります。
そのため、見た目だけで「筋肉が減った」と判断することはできません。
筋肉量の変化を確認したい場合は、
- 体重の長期的な変化
- 体組成
- 筋力
- トレーニングパフォーマンス
などを総合的に確認しましょう。
なお、家庭用の体組成計は水分量などによって測定値が変動します。できるだけ同じ時間帯・同じ条件で測定することが大切です。
なぜランナーの筋肉量が減ることがある?

① エネルギー摂取量が不足している
ランナーにとって最も注意したいのがエネルギー不足です。
走行距離が増えると当然ながら消費エネルギーも増えます。
しかし、「走る距離は増えたのに食事量は以前と同じ」という状態になると、身体が必要とするエネルギーを十分に確保できなくなります。
エネルギー不足では筋タンパク質合成が低下することが報告されています。
また、スポーツに必要なエネルギーを十分確保できていない状態が続くことは、IOCが提唱する**REDs(Relative Energy Deficiency in Sport:スポーツにおける相対的エネルギー不足)**にも関係します。
慢性的なエネルギー不足は、
- トレーニングへの適応
- 回復
- 骨の健康
- ホルモン機能
- 免疫機能
- パフォーマンス
などさまざまな部分へ影響する可能性があります。

つまり、筋肉を守りたいランナーは、タンパク質だけでなく「そもそも食事量が足りているか」を考える必要があります。
② タンパク質が不足している
筋肉を構成する主な材料がタンパク質です。
持久系トレーニングを行っている人では、運動をしていない人よりタンパク質必要量が増加します。
ランニング後は筋肉だけでなく、
- ミトコンドリア
- 酵素
- 毛細血管に関係する組織
- 筋タンパク質
など身体のさまざまな組織で適応と修復が行われます。

走行距離が増えているのにタンパク質摂取量が少ない状態では、こうした回復に必要な材料が不足しやすくなります。
③ 糖質不足の状態で長時間走っている
ランニングでは糖質と脂質が主なエネルギー源として利用されます。
特にペースが上がるほど糖質への依存度が高くなります。
そのため、
- ポイント練習
- ロングラン
- マラソン練習
- 高走行距離
では、筋グリコーゲンをはじめとした糖質エネルギーの管理が重要です。
糖質が不足した状態では十分なトレーニング強度を維持しにくくなり、長時間運動ではアミノ酸の酸化利用も増加します。
だからといって、「糖質がなくなると、すぐ筋肉を壊して走り始める」という単純な仕組みではありません。

重要なのは、エネルギー不足や糖質不足が何度も繰り返される状態を避けることです。
④ 筋肉を維持する刺激が不足している
ランニングでも下肢筋群は使用します。
しかし、ランニングと筋力トレーニングでは筋肉へ加わる刺激が異なります。
筋肉量や筋力を維持したい場合には、ランニングだけでなく**レジスタンストレーニング(筋トレ)**を組み合わせることが有効です。
特に、
- スクワット
- ランジ
- デッドリフト
- カーフレイズ
- ヒップスラスト
など、大きな筋力を発揮するトレーニングを取り入れることで、ランニングでは得にくい高い力学的刺激を筋肉へ与えることができます。
「持久力をつけると筋肉がつかない」は本当?

以前は、持久力トレーニングと筋力トレーニングは相反するという説明がよくされていました。
その根拠として、
- 持久系運動 → AMPK
- 筋力トレーニング → mTORC1
という細胞内シグナルの違いが紹介されることがあります。
確かにAMPKとmTORC1の間には相互作用があります。
しかし、「ランニングでAMPKが活性化する → mTORが止まる → 筋肉が減る」と説明するのは単純化しすぎです。
実際の筋肥大は、
- トレーニング内容
- 摂取エネルギー
- タンパク質量
- トレーニング頻度
- 回復
- トレーニング歴
など多くの要因によって決まります。
2022年のシステマティックレビュー・メタ解析では、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせても、筋肥大や最大筋力が必ずしも損なわれるわけではないことが報告されています。
一方で、瞬発的な筋力など一部の能力については、同時に大量の持久系トレーニングを行うことで適応が小さくなる可能性があります。
したがって、「持久力と筋肉は完全なトレードオフ」ではありません。
市民ランナーであれば、十分な食事と筋トレを組み合わせることで、筋肉を維持しながらランニング能力を高めることは十分可能です。

「月間○kmを超えたら筋肉が落ちる」という明確な境界もありません。
走行距離だけを見るのではなく、食事・筋トレ・回復とのバランスで考えましょう。
ランナーでも筋肉を減らさないための5つの対策
① 消費量に見合ったエネルギーを摂る
まず最優先したいのが食事量です。
タンパク質を十分摂っていても、全体の摂取エネルギーが不足していれば筋肉を維持しにくくなります。
特に、
- マラソン練習中
- 月間走行距離を増やした時期
- 2部練習を行う日
- ロングランが増えた時期
などは、以前より食事量が必要になる可能性があります。

「体重を減らしたい」というランナーも、極端な食事制限は避けましょう。
② タンパク質を十分に摂る
ランナーでは、1日を通して十分なタンパク質を確保することが重要です。
代表的な食品には、
- 肉
- 魚
- 卵
- 牛乳・ヨーグルト
- 大豆・豆腐・納豆
などがあります。

動物性か植物性かにこだわりすぎるよりも、さまざまな食品を組み合わせて必要量を確保することが大切です。
③ 糖質を極端に減らさない
筋肉を守るためにはタンパク質だけでなく、走るためのエネルギーを確保することも重要です。
特に、
- インターバル走
- 閾値走
- ペース走
- ロングラン
などでは糖質の利用量が増えます。

普段から糖質摂取量を極端に制限しているランナーでは、トレーニングの質や回復に影響する可能性があります。
長時間走では必要に応じてランニング中の糖質補給も行います。
スポーツ栄養のガイドラインでは、運動時間や強度によっておおむね30〜60g/時、さらに長時間の競技では最大90g/時程度までの糖質摂取が用いられることがあります。
ただし、必要量は運動時間・強度・胃腸の耐性によって異なります。
④ 筋トレを取り入れる
筋肉量を維持したいランナーには筋トレがおすすめです。
ポイントは、「ゆっくり動けば筋肉、速く動けば神経」ということではありません。
筋肉への刺激は、
- 負荷
- 回数
- セット数
- 可動域
- 力を発揮する速度
- 疲労度
など複数の要素で決まります。
市民ランナーであれば、週2回程度を一つの目安として下半身と体幹を中心に筋トレを行うと取り入れやすいでしょう。
ランニングパフォーマンスを考えても、筋力トレーニングはランニングエコノミーや走能力の改善に役立つ可能性があります。
⑤ トレーニング量と回復のバランスをとる
「筋肉を守るためにはロングランをしない方がよい」ということではありません。 マラソンを目指すランナーにとってロングランは重要なトレーニングです。
問題は、長時間走そのものではなく、負荷に対して回復が追いついていない状態が続くことです。
そのため、
- 走行距離を急激に増やさない
- ハードな練習を連続させない
- 睡眠時間を確保する
- トレーニング後に食事を摂る
- 疲労が強ければ練習量を調整する
といった管理が大切です。
ランニングでは運動後にコルチゾールが一時的に上昇することがあります。しかし、コルチゾールが上がること自体を「筋肉が減る原因」と考える必要はありません。
運動によるホルモン変化は正常な生理反応でもあります。

重要なのは、慢性的なエネルギー不足や回復不足、過度なトレーニング負荷を避けることです。
ランナーに必要なタンパク質量はどれくらい?
スポーツ栄養に関する代表的なガイドラインでは、運動を行う人ではおおむね1.2〜2.0g/kg/日程度のタンパク質摂取が推奨されています。
市民ランナーでは、まず1.2〜1.6g/kg/日程度を一つの目安として考えやすいでしょう。
さらに、
- 高走行距離
- ハードなトレーニング期間
- 筋トレ併用
- 減量中
- エネルギー摂取量が少なくなりやすい時期
などでは、1.6〜2.0g/kg/日程度の範囲を検討することがあります。
| 体重 | 1.2g/kg | 1.6g/kg | 2.0g/kg |
|---|---|---|---|
| 50kg | 60g | 80g | 100g |
| 60kg | 72g | 96g | 120g |
| 70kg | 84g | 112g | 140g |
| 80kg | 96g | 128g | 160g |
例えば体重60kgのランナーなら、約72〜96g/日程度が一つの目安になります。
トレーニング量が非常に多い時期や減量中などでは、100g以上必要になるケースもあります。

タンパク質は「多ければ多いほど良い」わけではありません。
まず必要量を確保し、そのうえで糖質・脂質を含めた総エネルギー摂取を整えることが大切です。
タンパク質はいつ摂る?
1回で吸収できるタンパク質量に明確な上限があるわけではない
よく、「タンパク質は1回20gまでしか吸収できない」と言われますが、これは正確ではありません。
摂取したタンパク質は20〜30gを超えたら吸収されなくなるわけではありません。
一方、筋タンパク質合成を効率よく刺激するという観点では、一度に極端な量を摂るより、1日を通して分散して摂取することが推奨されています。
一つの目安は、1回あたり約0.25〜0.4g/kgです。体重60kgなら、約15〜24g程度になります。

実際の食事では20〜30g程度を目安にすると取り入れやすいでしょう。
朝・昼・夜に分けて摂る
例えば、
朝食:20〜25g
昼食:20〜30g
間食:10〜20g
夕食:25〜30g
というように分散します。
タンパク質摂取を数時間おきに分散させることで、筋タンパク質合成を繰り返し刺激しやすくなります。
運動後の「ゴールデンタイム」は気にしすぎなくていい
以前は、「運動後30分以内にプロテインを飲まないと筋肉がつかない」と言われることがありました。
しかし、現在はそこまで狭い時間帯だけを意識する必要はないと考えられています。
最も重要なのは、1日全体で必要なタンパク質量を確保することです。
そのうえで運動後は筋タンパク質合成が高まりやすい状態になるため、食事まで時間が空く場合にはタンパク質を補給するとよいでしょう。
例えば、
ランニング終了
↓
プロテイン・牛乳・ヨーグルトなど
↓
その後しっかり食事
という流れでも構いません。
※運動後すぐ食事ができるのであれば、必ずしもプロテインを飲む必要はありません。
プロテインは飲んだ方がいい?
プロテインは筋肉を増やす特別な薬ではありません。基本的にはタンパク質を手軽に摂取するための食品です。
そのため、
肉・魚・卵・乳製品・大豆食品などから必要なタンパク質量を確保できているのであれば、プロテインは必須ではありません。
- 朝ラン後すぐ仕事へ行く
- 食欲がなく固形物を食べにくい
- 食事だけでは必要量に届かない
- 練習後から食事まで時間が空く
- 高走行距離で必要タンパク質量が増えている
といった場合には便利です。
プロテインを選ぶ際は、まず1食あたりのタンパク質量を確認しましょう。
糖質・脂質・ビタミンなどは商品によって異なるため、自分の食生活や目的に合わせて選びます。
ランニングで筋肉を守るために最も大切なこと
筋肉を守るために、「走りすぎないようにしよう」と考える必要はありません。
むしろ重要なのは、走る量に合わせて身体へ必要なものを与えることです。
走行距離が増えれば、
食事量も増える。
糖質も必要になる。
タンパク質も必要になる。
回復時間も必要になる。
このバランスが崩れた状態が続くと、筋肉量だけでなくランニングパフォーマンスにも影響する可能性があります。

特に、「走行距離だけ増えて、食事量は以前のまま」というランナーは注意しましょう。
まとめ
ランニングをしているからといって、必ず筋肉が減るわけではありません。
筋肉量が減少するかどうかは、筋タンパク質の合成と分解の長期的なバランスによって決まります。
ランナーで特に注意したいのは、
- エネルギー不足
- タンパク質不足
- 糖質不足
- 筋トレ不足
- 回復不足
です。
そして、筋肉を維持するためには、
①十分なエネルギーを摂る
②タンパク質を1.2〜1.6g/kg/日程度確保する
③糖質を極端に減らさない
④筋トレを取り入れる
⑤睡眠と回復を確保する
ことが重要です。
高走行距離・減量中・筋トレ併用などでは、タンパク質摂取量を1.6〜2.0g/kg/日程度まで増やすことも検討します。ただし、タンパク質だけを増やしても十分とは限りません。
ランナーにとって重要なのは、「タンパク質+糖質+総エネルギー+筋トレ+回復」をセットで考えることです。

走力を高めるためにも、筋肉を守るためにも、「たくさん走ること」だけがトレーニングではありません。
しっかり食べて、筋肉に刺激を入れて、しっかり休む。
走った分だけ身体を回復させることまで含めてトレーニングです。
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