
「水泳でもランニングに必要な心肺機能を高められる?」
「走れない期間は、水泳をすれば走力を維持できる?」
「マラソントレーニングへ水泳を組み込むなら、どのくらい泳げばよい?」
水泳は、脚への着地衝撃を抑えながら心肺機能を刺激できるクロストレーニングです。走行距離を増やしにくいランナーや、ケガで走れないランナーの代替トレーニングとして活用できます。
ただし、水泳で高まった能力が、そのままランニングの記録向上につながるわけではありません。水泳とランニングでは姿勢、使う筋肉、呼吸方法、着地の有無などが異なるためです。
この記事では、水泳がランニングの心肺機能へ与える効果と限界、泳法・強度・時間・頻度、目的別メニュー、週間計画への組み込み方を研究に基づいて解説します。
この記事の結論
- 水泳でも全身の有酸素能力を高められる
- 着地衝撃を抑えながら心肺機能へ刺激を入れられる
- 水泳による適応は、ランニングへ完全には転移しない
- マラソン記録を狙う場合は、走れる時期のランニングが優先
- ケガで走れない時期は、アクアジョギングも有力な選択肢
- 走れるランナーが水泳を行う頻度は、週1~2回が目安

水泳は「走練習の完全な代わり」ではなく、「心肺機能と総トレーニング量を補う方法」と考えるのが適切です。
水泳でも心肺機能は高められる


水泳も、大きな筋群を一定時間動かす有酸素運動です。適切な強度と時間で継続すれば、酸素を取り込み、全身へ運び、活動筋で利用する能力へ刺激を加えられます。
非エリートを対象とした介入研究のシステマティックレビューでは、水泳トレーニングによって最大酸素摂取量が改善したと報告されています。
したがって、「水泳で心肺機能は高まるか」という問いには、基本的に「高まる可能性がある」と答えられます。
ただし、ランナーが確認したいのは、水泳中の能力ではなく「走ったときの心肺機能や記録も向上するか」でしょう。ここでは、トレーニングの特異性を考える必要があります。
水泳は水平姿勢で行い、浮力や水圧を受けます。呼吸のタイミングが制限され、上半身の関与も大きい運動です。一方、ランニングは立位で着地を繰り返します。
姿勢、使用筋、筋収縮、体温調節などが異なるため、水泳の効果がランニングへそのまま移るとは限りません。
ランナーに必要な心肺機能とは

ランニングにおける心肺機能は、肺だけの能力ではありません。主に次の働きで構成されます。
- 呼吸によって酸素を取り込む
- 心臓と血液によって酸素を全身へ運ぶ
- 活動筋が酸素を利用してエネルギーをつくる
代表的な指標はVO₂maxですが、マラソンの走力はVO₂maxだけでは決まりません。
- 乳酸性作業閾値(LT)
- ランニングエコノミー
- 長時間ペースを維持する耐久性
- 筋・腱・骨が着地へ耐える能力

水泳は中央循環系や全身の有酸素能力を刺激できます。しかし、ふくらはぎや大腿部のランニング特異的な適応、腱や骨の荷重耐性、走行中のエネルギー効率までは十分に補えません。
水泳がランナーにもたらす4つの効果

1.着地衝撃を抑えて有酸素運動を追加できる
水中では浮力が働くため、陸上のランニングに比べて反復する着地衝撃を抑えられます。
そのため、水泳は次のようなランナーに向いています。
- 週間走行距離を増やすと脚に痛みが出やすい
- 脚への負担を抑えながら運動時間を確保したい
- ポイント練習後に低衝撃の運動を行いたい
- ケガで一時的に着地を避ける必要がある
ただし、水泳も肩、首、腰、膝へ負担がかかる場合があります。「低衝撃」と「無負担」は同じではありません。
2.全身の有酸素能力を刺激できる
水泳では上肢・体幹・下肢を協調させ、呼吸をストロークへ合わせます。泳力に合ったフォームで続けられれば、中強度の持続運動にも、高強度インターバルにもできます。
4週間の上半身中心HIITによって、上肢エルゴメーターで測定したVO₂maxが向上した競泳選手の研究もあります。
この結果から、高強度の水泳は水泳に関連する有酸素能力を高める可能性があります。ただし、上肢運動で測定したVO₂maxの改善を、そのままランニングVO₂maxの改善と解釈することはできません。
3.走れない期間の体力低下を抑えやすい
ケガで着地を避ける必要があるときも、医師や理学療法士から水中運動を許可されていれば、心肺機能への刺激を続けられます。
特にアクアジョギングは水泳よりもランニング動作に近く、故障期の代替トレーニングとして研究されています。
競技ランナー11人が陸上練習を4週間の深水ランニングへ置き換えた研究では、5km走、ランニングエコノミー、乳酸閾値速度、VO₂maxに有意な低下がみられませんでした。
対象人数が少ないため一般化には注意が必要ですが、短期間の走力維持に役立つ可能性があります。
4.気分転換と運動継続に使える
同じ路面や動作を繰り返すランニングから一時的に離れることで、練習への心理的な飽きを減らせる人もいます。
一方、水泳が苦手な人では、フォームや呼吸への緊張が強くなり、回復目的でも高負荷になる場合があります。運動中の感覚だけでなく、翌日の疲労も確認しましょう。
水泳がランニングへ与える効果の限界

水泳だけでマラソン記録が大幅に伸びるとは考えない方がよいでしょう。トレーニング効果は、実際に行った運動様式へ強く現れます。
水泳トレーニングによる適応は水泳VO₂maxへ現れやすい一方、トレッドミルで測定したVO₂maxへの転移は小さいことを示す研究があります。
また、トレーニングされたランナー30人を対象にした8週間の研究では、通常の走練習へ水泳を追加した群も3.2kmタイムトライアルを平均13.2秒短縮しました。
しかし、走練習を追加した群の短縮は26.4秒で、水泳群ではランニング中のVO₂peakや血中乳酸4mmol/L時の速度に有意な改善が認められませんでした。

水泳は走力を補助する可能性がありますが、走れる人が記録向上を目指す場合、必要な走練習まで水泳へ置き換えないことが重要です。
| 能力 | 水泳で期待できること | 水泳だけでは不足しやすいこと |
|---|---|---|
| 全身持久力 | 心拍出量や酸素利用能力への刺激 | ランニング測定値への完全な転移 |
| VO₂max | 泳動作での改善・維持 | 走動作での最大値や速度の改善 |
| 乳酸閾値 | 水泳に特異的な閾値の改善 | ランニングのLTペース向上 |
| ランニングエコノミー | 全身持久力による間接的な支援 | 着地や伸張短縮サイクルへの適応 |
| 荷重耐性 | 脚への衝撃を抑えられる | 骨・腱・足部が走行負荷へ耐える適応 |
ランナーに適した泳法とアクアジョギングの使い分け

| 方法 | 主な特徴 | ランナーへの向き方 |
|---|---|---|
| クロール | 連続運動にしやすく、強度調整の幅が広い | 通常期の有酸素補助やインターバル |
| 背泳ぎ | 顔を水上へ出しやすいが、進行方向を確認しにくい | 呼吸が苦手な人の選択肢 |
| 平泳ぎ | ゆっくり泳ぎやすいが、膝や股関節の動きが大きい | 膝や鼠径部に問題がない人の低強度運動 |
| バタフライ | 技術と筋力の要求が高く、高強度になりやすい | 水泳経験者の限定的な高強度練習 |
| アクアジョギング | 浮力ベルトを使い、深い水中で走動作を行う | 故障期にランニング特異性を残したい場合 |
水泳初心者はクロールを基本とし、フォームが崩れる前に休息を入れるとよいでしょう。連続して泳ぐと息が苦しくなる場合は、25mまたは50mごとに短い休息を入れて構いません。
心肺機能への刺激は、連続して泳いだ距離だけで決まるものではありません。
水泳の運動強度を決める方法

ランニング用の心拍ゾーンを、そのまま水泳へ当てはめるのはおすすめできません。
水平姿勢、水温、水圧、呼吸様式、使用する筋量などの影響で、同じ酸素摂取量でも心拍反応が異なるからです。
トライアスリートを対象とした最大運動テストでも、水泳のVO₂maxや最大心拍数はランニングと同じ値ではありませんでした。
水泳では心拍数だけに頼らず、RPE(主観的運動強度)と呼吸の余裕を組み合わせます。
| 強度 | RPE・10段階 | 呼吸と感覚 | 主な目的 |
|---|---|---|---|
| 低強度 | 2~3 | 呼吸に余裕があり、フォームを保てる | 回復・運動習慣・技術練習 |
| 中強度 | 4~6 | やや息が弾むが、反復を安定して続けられる | 有酸素持久力 |
| 高強度 | 7~9 | 短い反復なら維持でき、休息が必要 | VO₂max付近の刺激 |
息を止めて苦しさをつくることと、心肺機能を高めることは同じではありません。過度な呼吸制限、一人での長い潜水、失神につながる息こらえは避けてください。
水泳の時間・頻度・距離の目安

ランナーのクロストレーニングでは、距離よりも時間と強度で管理する方が実用的です。同じ1000mでも、泳力によって所要時間と生理的負荷が大きく変わります。
最初は週1回・20~30分とし、水に慣れてから30~45分へ延ばします。走練習を減らさず追加する場合は、水泳も総トレーニング負荷へ含めましょう。
| 対象 | 頻度 | 1回の時間 | 考え方 |
|---|---|---|---|
| 水泳初心者 | 週1回 | 20~30分 | フォーム練習を優先し、短い反復で行う |
| 有酸素運動を補いたい人 | 週1~2回 | 30~45分 | 低~中強度を中心にする |
| 高強度刺激を加えたい人 | 週1回 | 30~50分 | 高強度部分は合計5~15分程度から始める |
| 故障で走れない人 | 週2~5回 | 20~60分 | 診断と許可された負荷に合わせて個別化する |
これは一般的な開始目安です。泳力、走行量、ケガ、疲労、プール環境によって適量は変わります。特に故障中は、走れない時間を機械的に同じ時間の水泳へ置き換えないでください。
目的別|ランナー向け水泳メニュー

- 水中歩行またはゆっくり泳ぐ:5分
- クロールまたは背泳ぎ:2分+休息30秒を4セット、RPE2~3
- ゆっくり泳ぐまたは水中歩行:3分

翌日のポイント練習へ影響を残さないことを優先します。泳ぎ慣れていない人には技術練習自体が負荷になるため、回復目的でも短く始めましょう。
- ウォームアップ:8分、RPE2~3
- 中強度:5分を4セット、RPE4~6、セット間はゆっくり1分
- クールダウン:3分

連続して5分泳ぐことが難しければ、25mまたは50mごとに10~20秒休みながら合計時間をそろえます。
- ウォームアップ:10分
- 25~50mの流し:4本、1本ごとに十分休む
- 強めの50m:8~12本、RPE7~9、本間は30~60秒休む
- ゆっくり200mまたは5分
- クールダウン:5分
フォームが大きく崩れたり、肩に痛みが出たりした場合は終了します。泳力が高い人は100m反復へ変更できますが、距離を延ばして休息を削る必要はありません。
- 浮力ベルトを着けて軽く動く:10分
- ややきつい2分+楽な1分:8セット
- 軽く動く:5~10分
胸を起こし、過度に前へ進もうとせず、腕振りと脚の前後運動を行います。患部に痛みが出ない範囲が前提です。
深水ランニングによって、4~6週間にわたりトレーニングされたランナーの有酸素能力を維持できた研究があります。[3][8]
ただし、対象人数は少なく、すべてのケガへ適用できるわけではありません。
ランニングと水泳の組み合わせ方

マラソン記録を目指す場合、水泳はロング走、LT走、インターバル走の代わりではありません。まずはイージーランまたは完全休養日の候補として組み込みます。
ポイント練習の翌日は低強度にし、水泳の高強度日は、脚への衝撃が少なくても「ハード日」として数えましょう。
| 曜日 | ランニング中心の例 | 故障リスクを抑えたい例 |
|---|---|---|
| 月 | 休養 | 低強度水泳20~30分 |
| 火 | インターバル走 | インターバル走 |
| 水 | イージーラン | 休養または筋力トレーニング |
| 木 | LT走またはテンポ走 | LT走またはテンポ走 |
| 金 | 休養または低強度水泳 | 中強度水泳30~40分 |
| 土 | イージーラン | イージーラン |
| 日 | ロング走 | ロング走 |
走る日数が週3日なら、水泳を1日追加するだけでも十分です。週5日以上走る場合は、水泳を追加するより、イージーラン1回と入れ替えた方が疲労を管理しやすいことがあります。
高強度の水泳と高強度のランニングを連日にしないことが基本です。
ケガで走れないときの水泳の注意点

水泳が可能かどうかは、ケガの部位と治癒段階によって変わります。
足部や下腿のケガでも、壁を強く蹴るターン、平泳ぎのキック、プールサイドの歩行で症状が出る場合があります。肩や頸部に痛みがある場合は、クロールが悪化要因になる可能性があります。
手術創、開放創、感染、ギプスがある場合も、自己判断で入水してはいけません。医師や理学療法士から許可された動作と負荷を確認し、運動中だけでなく当日夜と翌日の症状も記録します。
次のような場合は運動を中止してください。
- 泳いでいる最中に患部の痛みが増える
- 運動後または翌日に痛みや腫れが明らかに悪化する
- フォームを変えなければ泳げない
- 胸痛、強い息切れ、動悸、めまい、失神しそうな感覚がある
- プールから上がった後も呼吸困難や強い倦怠感が続く
必要に応じて医療機関へ相談してください。突然の胸痛、意識障害、強い呼吸困難がある場合は、緊急対応が必要です。

水泳で心肺機能を維持できても、骨・腱・筋・足部が着地へ耐える能力は別です。痛みが落ち着いた後も、ウォーク&ランなどを使って段階的にランニングへ復帰しましょう。
水泳を取り入れるときによくある失敗

| よくある失敗 | 起こりやすい問題 | 修正方法 |
|---|---|---|
| ランニングの心拍ゾーンを使う | 水泳の強度を過小・過大評価する | RPEと泳ぎの再現性を中心に管理する |
| 距離だけを追う | フォームが崩れ、肩や首へ負担が集中する | 時間を決め、短い反復と休息を使う |
| 休養日に高強度で泳ぐ | 全身疲労が抜けず、ポイント練習へ影響する | 回復日はRPE2~3へ抑える |
| 水泳だけで走力を維持しようとする | 着地耐性やランニングエコノミーが低下する | 可能な範囲で筋力運動や段階的荷重を併用する |
| 息を止めれば心肺が鍛えられると考える | 失神や事故の危険性が高まる | 呼吸を確保し、監視のある環境で泳ぐ |
ランニングと水泳に関するよくある質問
- 水泳とランニングはどちらが心肺機能を高めやすい?
- 一般的な健康目的なら、継続でき、十分な強度を確保できる方を選べばよいでしょう。
ランニングの記録向上が目的なら、ランニングが優先です。運動様式ごとの適応があるため、走動作で測定するVO₂max、LT、ランニングエコノミーは、走練習の方が改善しやすいと考えられます。
- 水泳だけでマラソンの練習になる?
- 心肺機能の維持や補助には役立ちますが、水泳だけでは不十分です。
マラソンでは長時間の着地、脚筋の局所持久力、補給を含むレース特異的な耐久性が必要です。走れる状態なら、ロング走や目標ペース走を残しましょう。
- 水泳はランニング後の疲労回復に効果がある?
- 低強度で短く行えば、脚への着地を増やさずに身体を動かせます。ただし、水泳が受動的な休養より回復を早めるとは一律にいえません。
泳ぎが不得意な人や肩に負担がかかる人では、追加疲労になる可能性があります。翌日の主観的疲労や走りやすさで判断してください。
- ランナーは水泳を週何回行えばよい?
- 走れるランナーの補助なら、週1~2回が目安です。
故障期は、医療者の許可と全身疲労を前提に回数を増やせる場合があります。ただし、日数だけでなく、総運動時間と高強度日の数を管理することが重要です。
まとめ
水泳は、脚への着地衝撃を抑えながら心肺機能へ刺激を入れられるクロストレーニングです。一般的な有酸素能力の改善や、故障期の体力維持に役立つ可能性があります。
一方、水泳の適応は泳動作へ強く現れます。ランニングVO₂max、ランニングエコノミー、筋・腱・骨の荷重耐性へ与える効果は限定的です。
マラソン記録を目指す人は、走れる時期にはランニングを中心に置き、水泳を週1~2回の補助として活用しましょう。

ケガで走れないときは、泳法や壁の蹴りが患部へ与える影響を確認し、必要に応じてアクアジョギングを選びます。心肺機能が保たれていても、ランニング再開は組織の回復と着地耐性に合わせて段階的に進めることが大切です。
参考文献
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- Zhang L, et al. Influence of upper-body high-intensity intermittent training on energy metabolism and maximal oxygen uptake in elite swimmers. Front Physiol. 2025;16:1636405.
- Bushman BA, et al. Effect of 4 wk of deep water run training on running performance. Med Sci Sports Exerc. 1997;29(5):694-699.
- Magel JR, et al. Specificity of swim training on maximum oxygen uptake. J Appl Physiol. 1975;38(1):151-155.
- Lieber DC, Lieber RL, Adams WC. Effects of run-training and swim-training at similar absolute intensities on treadmill VO₂max. Med Sci Sports Exerc. 1989;21(6):655-661.
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- Kohrt WM, et al. Physiological responses of triathletes to maximal swimming, cycling, and running. Med Sci Sports Exerc. 1987;19(1):51-55.
- Wilber RL, et al. Influence of water run training on the maintenance of aerobic performance. Med Sci Sports Exerc. 1996;28(8):1056-1062.
- Roels B, et al. Specificity of VO₂max and the ventilatory threshold in free swimming and cycle ergometry. Br J Sports Med. 2005;39(12):965-968.
風を切るランニング 
