
「ランニング前には、どのストレッチをすれば速く走れる?」
「身体が柔らかくなれば、マラソンのタイムも縮まる?」
このように考えるランナーは少なくありません。
結論からいうと、ストレッチだけで持久力や走力が大きく向上するとはいえません。
走る前の動的ストレッチには、身体を動かしやすくし、その後の走行パフォーマンスを高める可能性があります。
一方、静的ストレッチの主な目的は柔軟性や関節可動域の改善です。
本記事では、
- ストレッチでランニングが速くなるのか
- 動的ストレッチと静的ストレッチの違い
- ランニング前におすすめの動的ストレッチ
- ランニング後や別日に行う静的ストレッチ
- ストレッチを行う時間と回数
- ストレッチに関する注意点
について、科学的根拠をもとに解説します。
ランニングが速くなるストレッチはある?

ストレッチを行うだけで、最大酸素摂取量や乳酸閾値が大きく向上するわけではありません。
ランニングパフォーマンスには、主に次の要素が関係します。
- 最大酸素摂取量(VO₂max)
- 乳酸閾値
- ランニングエコノミー
- 筋力や腱の特性
- ペース配分
- 疲労への耐性
ストレッチは、これらの能力を高めるための中心的なトレーニングではありません。
ただし、走る前に動的ストレッチを取り入れることで、必要な関節可動域を確保し、筋肉を動かしやすい状態に整えられる可能性があります。

したがって、ストレッチは「行うだけで脚が速くなる運動」ではなく、「練習やレースで現在の能力を発揮しやすくする準備」と考えるのが適切です。
ストレッチはランニングエコノミーを改善する?

ランニングエコノミーとは、一定速度で走るときに必要な酸素量やエネルギー量を表す指標です。
同じ速度なら、少ないエネルギーで走れる方がランニングエコノミーに優れていると考えられます。
2025年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、15研究・181人のデータが分析されました。
その結果、静的・動的・PNFストレッチのいずれについても、1回の実施によってランニングエコノミーが有意に変化するとは確認されませんでした。ただし、研究の規模が小さく、研究方法にもばらつきがあるため、エビデンスの確実性は低いと評価されています。
つまり、現時点では、「ストレッチでランニングエコノミーが必ず改善する」とも、「ストレッチをするとランニングエコノミーが必ず悪化する」とも断定できません。
長期的なストレッチがランニングエコノミーへ与える影響については、研究数が少なく、明確な結論は出ていません。
動的ストレッチと静的ストレッチの違い
ランナーがストレッチを取り入れる場合は、動的ストレッチと静的ストレッチを区別する必要があります。
| 種類 | 方法 | 主な目的 | おすすめのタイミング |
|---|---|---|---|
| 動的ストレッチ | 身体を動かしながら筋肉や関節を伸ばす | 動作準備・可動域の確保 | ランニング前 |
| 静的ストレッチ | 一定の姿勢を保って筋肉を伸ばす | 柔軟性・関節可動域の改善 | ランニング後・別の時間 |
| PNFストレッチ | 収縮と弛緩を組み合わせる | 可動域の改善 | 別のトレーニング時間 |

走る前は動的ストレッチを中心にし、静的ストレッチはランニング後や別の時間に行う方法が実践しやすいでしょう。
走る前には動的ストレッチがおすすめ

動的ストレッチでは、関節を動かしながら筋肉を繰り返し伸ばします。
研究では、動的ストレッチによって持久走パフォーマンスが改善した例があります。
トレーニング経験のある男性ランナー7人を対象とした研究では、下半身5部位の動的ストレッチを行った後、最大酸素摂取量の90%に相当する速度での運動継続時間と走行距離が増加しました。
ただし、対象者が7人と少なく、ランニングエコノミーには有意な変化がありませんでした。
2021年のスコーピングレビューでも、動的ストレッチはランニングエコノミーへの影響が小さい一方、走行パフォーマンスを高める可能性が示されています。
ただし、研究間のばらつきが大きいため、結果の解釈には注意が必要です。
動的ストレッチは、単独で行うよりも、
軽いジョギング
↓
動的ストレッチ
↓
ランニングドリル
↓
流し
というウォームアップの一部として取り入れるのがおすすめです。
ランニング前におすすめの動的ストレッチ5種

ふくらはぎと足首を動かすストレッチです。壁などに両手をつき、かかとを床につけたまま膝を前へ動かします。膝はつま先と同じ方向へ向けましょう。
左右10回程度行います。
足首の前側が詰まる場合や痛みが出る場合は、無理に膝を前へ押し込まないでください。

股関節を前後に動かし、太ももの前側、後側、股関節周囲を準備します。
壁や手すりにつかまり、上半身を大きく反らさないようにして脚を前後へ振ります。最初から高く上げるのではなく、小さな振り幅から始めてください。
左右10〜15回程度が目安です。

股関節を左右に動かすストレッチです。
壁や手すりにつかまり、片脚を身体の前で左右へ振ります。骨盤が大きく回転しすぎない範囲で行いましょう。
左右10〜15回程度が目安です。
股関節や鼠径部に痛みが出る場合は中止してください。

股関節周囲を動かしながら、臀部や太ももの筋肉を活動させます。
片脚を前へ踏み出し、身体を軽く沈めます。そのまま後ろの脚を前へ運び、交互に進みます。
膝を深く曲げることよりも、上半身を安定させて滑らかに動くことを優先してください。
左右5〜10歩程度が目安です。

太ももの後ろ側を動的に伸ばします。
片脚を前へ出してつま先を上げ、膝を軽く伸ばします。お尻を後ろへ引きながら、両手で足元をすくうように動かします。
反動をつけて無理に前屈する必要はありません。
左右5〜10回程度行います。

ランニング前のウォームアップ例

- ウォーキングまたは軽いジョギング:3〜5分
- アンクルロッカー:左右10回
- レッグスイング前後:左右10回
- ウォーキングランジ:左右5歩
- ゆっくり走り始める
低強度のランニングでは、長時間のウォームアップが必要とは限りません。最初の5〜10分をゆっくり走り、徐々にペースを上げる方法もあります。
- 軽いジョギング:10〜15分
- 動的ストレッチ:3〜5種
- AマーチやAスキップなどのドリル
- 60〜100m程度の流し:2〜4本
- メイン練習
高い速度で走る日は、ストレッチだけで終わらせず、実際のランニングに近い動作まで段階的に強度を上げます。
- 軽いジョギング
- 動的ストレッチ
- ランニングドリル
- 流し
- スタートまで身体を冷やさない
必要なウォームアップ量は、レース距離によって異なります。

5kmや10kmでは比較的長めのウォームアップが必要ですが、フルマラソンではウォームアップで体力を消耗しすぎないことも重要です。
静的ストレッチはランニング後や別の時間に行う

静的ストレッチでは、筋肉が伸びる姿勢を一定時間保ちます。
2025年のメタ解析では、静的ストレッチによって柔軟性が改善することが示されています。効果はもともと柔軟性が低い人ほど大きい傾向があり、長期的な柔軟性改善は合計週10分程度で最大化されていました。
ただし、これは全身ではなく、ストレッチを行った部位ごとの合計時間として解釈する必要があります。
静的ストレッチには柔軟性を高める効果がありますが、柔軟性の向上がそのままランニングタイムの短縮につながるとは限りません。

ランニング動作に必要な可動域が確保できている人が、さらに柔らかくなる必要があるとはいえないためです。
ランニング後に取り入れやすい静的ストレッチ5種

壁に手をつき、伸ばしたい脚を後ろへ引きます。後ろ脚の膝を伸ばし、かかとを床へつけたまま身体を前へ移動します。
ふくらはぎの上部が伸びる位置で20〜30秒保ちます。

腓腹筋のストレッチと同じ姿勢から、後ろ脚の膝を軽く曲げます。かかとを床につけたまま、足首を前へ倒します。
ふくらはぎの下部が伸びる位置で20〜30秒保ちます。

立った状態で片脚の足首を持ち、かかとをお尻へ近づけます。腰を反らしすぎず、左右の膝を近づけます。
太ももの前側が伸びる位置で20〜30秒保ちます。
バランスが不安定な場合は、壁や手すりにつかまりましょう。

片膝立ちになり、骨盤を軽く後ろへ傾けます。腰を反らさないようにしながら、身体を少し前へ移動します。
後ろ脚側の股関節前面が伸びる位置で20〜30秒保ちます。

仰向けになり、片方の足首を反対側の太ももへ乗せます。下側の脚を両手で抱え、身体へ引き寄せます。
お尻が伸びる位置で20〜30秒保ちます。
静的ストレッチは走る直前にしてはいけない?

走る前の静的ストレッチが、すべて禁止されているわけではありません。
短時間の静的ストレッチでは、筋力やパフォーマンスへの悪影響がみられない場合もあります。一方、ひとつの筋群を長時間伸ばし続けると、一時的に筋力やパワーが低下する可能性があります。
特に、
- 短距離走
- 坂道ダッシュ
- インターバル走
- ラストスパート
- ジャンプ系トレーニング
の前に、強い静的ストレッチを長時間行うことは避けた方がよいでしょう。
走る前に静的ストレッチが必要な場合は、
- 痛みのない範囲で短時間行う
- ひとつの筋群を長く伸ばしすぎない
- その後に動的ストレッチを行う
- ジョギングや流しで走る動作へつなげる
という順番がおすすめです。
ランニング後のストレッチで疲労は回復する?

ランニング後の静的ストレッチには、気持ちよさや身体を落ち着かせる効果を感じる人がいます。
しかし、ストレッチだけで筋肉痛や筋力低下からの回復が大きく早まるとはいえません。
2025年のシステマティックレビュー・メタ解析では、運動後のストレッチを単独で行っても、筋肉痛、筋力、パフォーマンス、柔軟性の回復に有意な効果は確認されませんでした。
ストレッチは、睡眠、食事、水分補給、トレーニング負荷の調整の代わりにはなりません。
ランニング後は、
- ゆっくり歩いて呼吸を整える
- 水分と必要な栄養を補給する
- 十分な睡眠を確保する
- 次回の練習強度を調整する
ことも大切です。
身体が柔らかいほど速く走れる?

身体が柔らかいほど、ランニングエコノミーが高くなるとは限りません。
ランニングでは、筋肉や腱に蓄えた弾性エネルギーを再利用します。そのため、一定の硬さが効率的な走行に役立つ可能性があります。
一方で、必要な関節可動域が不足していると、
- 脚を後ろへ運びにくい
- 足首を滑らかに動かしにくい
- 動きを別の関節で代償する
- ランニングドリルや筋トレを行いにくい
ことがあります。
目標は「できるだけ柔らかくなること」ではなく、「ランニングやトレーニングに必要な動きを確保すること」です。
左右差や特定部位の強い制限があるランナーは、その部位を個別に確認した方がよいでしょう。
ストレッチだけでランニング障害を予防できる?

ストレッチを行えば、ランニング障害を確実に予防できるわけではありません。
ランニング障害には、
- 急激な走行距離や強度の増加
- 回復不足
- 筋力
- 過去のケガ
- ランニングフォーム
- シューズや路面
- 睡眠や栄養状態
など、複数の要因が関係します。
ストレッチは、必要な可動域を確保する方法のひとつです。しかし、ストレッチだけを行い、トレーニング負荷や筋力の問題を放置するのは適切ではありません。

痛みが続く場合は、無理に伸ばして解決しようとせず、ランニング量の調整や医療機関への相談も検討してください。
ランニングが速くなりたい人の優先順位

記録更新を目指す場合は、次の順番で考えましょう。
- 継続的なランニングトレーニング
- イージーラン・ロング走・高強度練習の組み合わせ
- 十分な睡眠と栄養
- 必要に応じた筋力・プライオメトリックトレーニング
- ウォームアップとしての動的ストレッチ
- 可動域が不足している部位への静的ストレッチ
ストレッチは大切ですが、ランニングトレーニングの代わりにはなりません。

走る前の動的ストレッチで身体を準備し、必要なランニング練習を継続することが、記録更新へつながる基本です。
よくある質問
毎日行わなければ効果がないわけではありません。
動的ストレッチはランニング前に行い、静的ストレッチは柔軟性が不足している部位を中心に週数回から始めましょう。
継続できる頻度を設定することが大切です。
動的ストレッチは、左右5〜15回程度から始めます。
静的ストレッチは、痛みのない範囲で20〜30秒を1〜2セット行う方法が取り入れやすいでしょう。
長時間伸ばせば伸ばすほど、ランニングが速くなるわけではありません。
痛みや強い疲労がなければ、軽い静的ストレッチを行っても構いません。
ただし、レースや高強度練習の直後に強く伸ばす必要はありません。まずは歩いて身体を落ち着かせ、水分や栄養を補給しましょう。
痛みを我慢して伸ばす必要はありません。
筋肉が軽く伸びていると感じる範囲にとどめます。鋭い痛み、しびれ、関節内部の痛みが出る場合は中止してください。
まとめ
ランニングが速くなりたい人は、走る前に動的ストレッチを取り入れる方法がおすすめです。
動的ストレッチには、必要な関節可動域を確保し、身体を走る動作へ移行させる役割があります。一部の研究では、走行パフォーマンスが改善した例も報告されています。
一方、静的ストレッチの主な効果は柔軟性の改善です。ランニングエコノミーやタイムを直接改善する効果については、十分な根拠がありません。
基本的な使い分けは、
- 走る前:動的ストレッチ
- 走った後:軽い静的ストレッチ
- 柔軟性改善:ランニングとは別の時間
- 高強度練習前:長時間の静的ストレッチを避ける
となります。

「ストレッチをすれば速くなる」と考えるのではなく、ランニングに必要な動きを整え、質の高い練習につなげる手段として活用しましょう。
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風を切るランニング 
