ランニングの高地トレーニングは効果がある?標高・期間・市民ランナー向けの取り入れ方

 高地トレーニングに興味はあっても、「何日滞在すれば効果がある?」「週末に山で走るだけでも速くなる?」と疑問に思う人は多いでしょう。

 結論からいうと、高地で数週間生活しながら練習する方法では、血液の酸素運搬能力や平地での走力が改善した研究があります。しかし、数時間から数日の高地ランだけで同じ効果を期待することはできません。

 しかも、全員が同じように伸びるわけではなく、高地で追い込みすぎると普段の練習の質や回復が落ちる可能性もあります。

 この記事では、フル・ハーフマラソンに取り組む市民ランナーを想定し、高地トレーニングの仕組みと、実施できる期間に応じた現実的な使い方を整理します。特定の商品は紹介しません。

ランニングの高地トレーニングとは?

 高地トレーニングは、平地より気圧が低い場所で生活または運動し、低酸素環境に適応することを狙う方法です。空気中の酸素の割合が急に変わるのではなく、気圧が低くなり、体に取り込める酸素が減ります。

 そのため、平地と同じペースでも息が上がりやすく、運動強度が高く感じられます。

 主な方法は次の3つです。

方法生活する場所/練習する場所特徴
高地に住み、高地で走る高地/高地移動しやすい一方、速いペースの練習が難しくなる場合がある
高地に住み、低地で走る高地/低地高地での生活と、低地での練習速度の維持を両立しやすい
平地に住み、高地や低酸素環境で走る平地/高地など取り入れやすいが、平地での持久力向上に上乗せ効果があるとは限らない
研究2・3・4

 高地に「住む」方法と、たまに高地で「走る」方法は、受ける低酸素刺激の時間が大きく違います。同じ高地トレーニングとして一括りにしないことが大切です。

高地トレーニングで期待できる効果

酸素を運ぶ能力が変わる可能性

 高地に滞在すると、体は酸素が少ない環境に反応します。赤血球をつくる働きが刺激され、十分な期間と鉄の供給があれば、酸素を運ぶヘモグロビンの総量が増える場合があります。これは持久力を支える仕組みの一つです。

 ただし、滞在直後の血液検査でヘモグロビン「濃度」が高く見えても、血漿量の変化による見かけ上の上昇かもしれません。濃度だけで赤血球が増えたとは判断できません。

平地のレースで速くなる可能性

研究1・2・3

 よく知られたランナーの比較試験では、標高約2500mに住んで約1250mで練習した群で、4週間後の平地5000m走の記録が改善しました。一方、同じ条件を誰にでも当てはめられるわけではありません。

 参加者は競技経験のあるランナーで、滞在期間、練習内容、元の鉄の状態、睡眠などでも結果は変わります。

 

走(かける)
走(かける)

高地滞在によってヘモグロビン量が増えても、必ず自己ベストにつながるとは言えません。

高地の大会への準備

 標高のある大会に出る場合は、平地での記録向上とは別に、現地の環境へ慣れるという目的があります。標高が高いほど、到着してすぐの運動能力は下がりやすくなります。

走(かける)
走(かける)

高地の大会が目標なら、現地での体調管理と順化を優先しましょう。

標高と期間はどれくらい必要?

研究1・2・3

 研究では標高1800〜2500m前後に3〜4週間程度滞在した例があり、ヘモグロビン量や走力の改善が報告されています。

 ただし、これは誰にでも効く最低ラインや、万能な「最適標高」ではありません。

走(かける)
走(かける)

低めの標高でも連続した滞在で反応した研究があり、高すぎる場所では睡眠や練習の質が損なわれる可能性もあります。

滞在の形期待の置き方
数時間の日帰り景色や起伏のあるコースで走る経験。血液の適応による平地の記録向上は期待しすぎない
1泊2日〜数日高地での運動感覚や体調の観察。数週間滞在の研究結果を当てはめない
3〜4週間の継続滞在研究に近い形。練習の質、栄養、睡眠、個人差も含めて評価する

週 末に標高の高い場所へ行って苦しい練習をすることと、数週間の高地生活で体を適応させることは目的が違います。「苦しく感じた=平地で速くなった」ではありません。

研究4

 短い低酸素運動を通常の運動に加えた研究をまとめた2025年の分析でも、最大酸素摂取量や平地での有酸素運動成績への明確な上乗せ効果は示されませんでした。

市民ランナーはどう取り入れる?

週末だけ行く場合

 「高地合宿で血液を変える」より、環境の変化を楽しみながら安全に走ることを目的にしましょう。標高が高い場所へ急に移動した日は、普段のキロ何分という数字を追わず、会話できる程度の楽な強度から始めます。

 起伏や未舗装路があれば、脚への負担も平地と変わるため、慣れない長い下りや全力の坂ダッシュは控えめにします。

 1泊2日の実践例(研究で効果を検証した処方ではありません)

日内容
到着日体調を確認し、余裕があれば短い散歩またはごく軽いジョグ
翌日体調が良ければ、平地よりペースを落として短めのイージーラン。頭痛や吐き気があれば中止
帰宅後走行距離だけで評価せず、疲労と睡眠を確認して通常の練習へ戻す
研究5

 標高約2450m以上に急に到着した場合、CDCは最初の48時間は軽い運動にとどめるよう勧めています。高い標高へ日帰りで行く計画でも、現地の標高と滞在方法に応じて無理をしないでください。

数週間の合宿を考える場合

 普段の練習を数か月継続できていて、合宿後のレースまでの予定も組めるランナーが対象です。

 到着後は平地の設定ペースに固執せず、呼吸の苦しさ、主観的運動強度、睡眠、食欲、疲労を見て調整します。ポイント練習の質が維持できないなら、強度を落とすか低い標高で行うことを検討します。

 合宿を組む前には、疲れやすさや鉄不足の疑いがあれば医療者に相談しましょう。鉄は赤血球をつくるために必要ですが、自己判断で鉄剤を飲み始める必要はありません。検査結果と食事を踏まえて対応します。

高地でのペースと心拍数の決め方

 高地では平地のレースペースやインターバルの設定をそのまま持ち込まないことが基本です。同じ速度でより苦しくなるため、イージーランは「会話が続く」、ややきつい練習は「狙った負荷で動きを保てる」ことを優先します。

 

走(かける)
走(かける)

心拍数も到着直後の環境変化、睡眠、脱水などでぶれます。単一の数値だけで追い込まず、体調と主観的運動強度を合わせて判断しましょう。

研究2・5

 予定した練習を完遂するために無理に走るより、練習時間を短くする、セット数を減らす、休息日を入れるといった調整が役立ちます。高地で頑張り切ることより、合宿全体を健康に終えて平地の練習へつなぐことが重要です。

高地トレーニングで注意したいこと

高山病の症状を見逃さない

 高い場所に着いてから頭痛に加えて吐き気、めまい、食欲低下、強い疲労が出たら、高山病の可能性があります。

 症状がある状態でさらに高い場所に泊まらず、悪化するなら標高を下げて医療機関に相談してください。安静時にも息苦しい、歩き方がおかしい、意識がはっきりしない場合は緊急の対応が必要です。

食事・水分・睡眠を削らない

 移動と低酸素環境が重なると食欲や睡眠が乱れる場合があります。走る量を増やすために食事や休息を後回しにしないでください。「水を大量に飲めば高山病を防げる」とも考えず、通常の水分補給を続けます。

持病があれば事前に相談する

心臓や肺の病気、睡眠時無呼吸などがある人は、高地旅行の前に高地医療に詳しい医師へ相談することが勧められています。体調不良のときに予定を優先して登らないことも大切です。

よくある質問

高地トレーニングをすればマラソンが必ず速くなりますか?

 数週間の滞在で変化が見られた研究はありますが、平地でのレース結果は練習の継続、疲労、補給、コースや気象条件にも左右されます。合宿前後の1回のタイムだけで効果を断定しない方がよいでしょう。

標高1000mのジョギングでも効果はありますか?

 平地と運動感覚が違う可能性はありますが、1回走るだけで赤血球が増え、平地の記録が改善するとは言えません。標高だけでなく、そこで過ごす時間や継続期間が重要です。

低酸素ジムやマスクは高地合宿の代わりになりますか?

 運動する数十分だけ低酸素にさらされる方法を、数週間の高地生活と同じものとして扱うことはできません。また、呼吸をしづらくするだけのマスクは気圧を下げるわけではありません。短時間の低酸素運動で平地の持久力が通常の練習以上に伸びるという根拠も一貫していません。

高地合宿後、何日目にレースを入れるべきですか?

 全員に共通する最適日は決まっていません。帰ってすぐの体調や練習への戻り方には個人差があります。初めての合宿を最重要レース直前に試すより、余裕のある時期に反応を記録する方が計画しやすいでしょう。

まとめ

 高地トレーニングは、十分な期間と適切な練習・回復がそろえば、ランニングの持久力向上に役立つ可能性があります。一方、日帰りや週末だけの高地ランを、数週間の高地滞在と同じ効果として語ることはできません。

 

走(かける)
走(かける)

市民ランナーはまず平地で継続できる練習、食事、睡眠を整えたうえで、高地を「何のために使うか」を決めましょう。高地の大会への順化を狙うのか、長期滞在で平地の走力向上を目指すのかによって、必要な準備は変わります。

参考文献

  1. Levine BD, Stray-Gundersen J. “Living high-training low”: effect of moderate-altitude acclimatization with low-altitude training on performance. J Appl Physiol. 1997;83:102–112.
  2. Bonato G, et al. Physiological and performance effects of live high train low altitude training for elite endurance athletes: A narrative review. Current Research in Physiology. 2023;6:100113.
  3. Garvican-Lewis LA, et al. Altitude Exposure at 1800 m Increases Haemoglobin Mass in Distance Runners. J Sports Sci Med. 2015.
  4. Aerobic Intermittent Hypoxic Training Is Not Beneficial for Maximal Oxygen Uptake and Performance: A Systematic Review and Meta-Analysis. Scand J Med Sci Sports. 2025.
  5. CDC. High-Altitude Travel and Altitude Illness. Yellow Book 2026.
  6. Quantifying the effects of acute hypoxic exposure on exercise performance and capacity: A systematic review and meta-regression.
  7. Govus AD, et al. Pre-Altitude Serum Ferritin Levels and Daily Oral Iron Supplementation.
  8. Okazaki K, et al. Iron insufficiency diminishes the erythropoietic response to moderate high altitude.
  9. Chapman RF, et al. Timing of return from altitude training for optimal sea level performance. J Appl Physiol. 2014.