
「目標タイムから計算したペースで走ればいい?」
「前半に貯金を作ったほうがいい?」
「練習では走れるのに、レース後半で失速してしまう」
レースプランを立てるときは、目標タイムだけでなく、現在の走力と大会の条件を合わせて考えることが大切です。
**目標達成に必要なペースを計算し、そのペースを採用できる根拠を確認する。そこから区間ごとの走り方と、当日の変更条件を決める。**この順番で整理すると、実際に使えるプランを作りやすくなります。
この記事では、主に10km・ハーフマラソン・フルマラソンに参加する市民ランナーに向けて、レースペースとペース配分の考え方を解説します。
レースペースとレースプランの違い

レースペースは「本番でどれくらいの速さで走るか」、レースプランは「その速さをどう配分し、状況に応じてどう行動するか」という計画です。
| 項目 | 決める内容 | 例 |
|---|---|---|
| 目標タイム | ゴールまでの時間 | ハーフ1時間45分 |
| レースペース | 目標とする走行ペース | 平均約4分59秒/km |
| ペース配分 | 序盤・中盤・終盤の走り方 | 序盤は急がず、中盤で安定させる |
| 補給・給水 | いつ、何を取るか | 練習で試した補給を給水所の位置に合わせる |
| 変更条件 | 計画を見直す場面 | 暑さや想定外のきつさがあれば減速する |

「何分/kmで走るか」だけでなく、予定どおりに走れないときの行動まで決めておくことが、レースプランのポイントです。
レースペースの決め方①|目標タイムから必要ペースを計算する

平均ペースは、次の式で求められます。
平均ペース=目標タイム÷レース距離
たとえば、ハーフマラソンで1時間45分を目指す場合、105分を21.0975kmで割ると、必要な平均ペースは約4分58.6秒/kmです。
| 種目 | 目標タイム | 必要な平均ペース |
|---|---|---|
| 10km | 50分 | 5分00秒/km |
| 10km | 45分 | 4分30秒/km |
| ハーフ | 2時間 | 約5分41.3秒/km |
| ハーフ | 1時間45分 | 約4分58.6秒/km |
| ハーフ | 1時間30分 | 約4分16.0秒/km |
| フル | 5時間 | 約7分06.6秒/km |
| フル | 4時間 | 約5分41.3秒/km |
| フル | 3時間30分 | 約4分58.6秒/km |
| フル | 3時間 | 約4分16.0秒/km |
※数値は目標タイムちょうどに相当する計算値です。「サブ4」など、その時間未満を目指す場合は、わずかに速い平均ペースが必要です。
この平均ペースには、給水やトイレ、立ち止まった時間も含まれます。走っている間だけ必要ペースを守っていても、停止時間が加われば目標タイムを超えます。

また、グロスタイムを目標にする場合は、スタートラインを越えるまでの時間も考慮します。大会の記録・関門の計測方法も事前に確認しましょう。
レースペースの決め方②|現在の走力で採用できるか確かめる

計算で分かるのは「目標達成に必要なペース」です。自分がその距離を走り切れるかどうかは、別に確認する必要があります。
最近のレース結果を出発点にする
まず参考にしたいのは、最近の同じ距離のレース結果です。
過去の自己ベストだけでなく、現在の練習状況に近い時期の記録を確認します。コースの起伏、気温、風、途中の失速や停止時間も振り返りましょう。
同じ距離の結果がない場合は、10kmからハーフ、ハーフからフルといった予測が参考になります。ただし、予測タイムは、そのまま実現できることを保証する数値ではありません。

特にフルマラソンでは、短い距離の記録に加え、長時間走る準備がどれだけできているかも確認します。
練習は「走れた距離」と「余裕度」をセットで見る
目標ペースで走れたという事実だけでは、判断材料として不十分です。
- どれくらいの距離・時間を続けられたか
- 途中に休憩を挟んだか
- 後半にペースやフォームが大きく崩れなかったか
- 呼吸や脚のきつさは、想定していた範囲だったか
- 練習後の疲労は、普段と比べてどうだったか
例
フルの目標ペースで5km走れたことと、42.195kmをそのペースで走り切れることは、同じではありません。インターバルの速さだけでフルのペースを決めることも避けましょう。

確認のために、本番の距離を目標ペースで走り切る必要はありません。1回の練習で合否を決めず、最近のレース結果・継続できた練習・長い距離への対応を合わせて判断します。
研究を確認|短い距離からの予測はどこまで使える?
Vickersら(2016)は、市民ランナー2,303人のデータを用いて、レースタイムの予測方法を検討しました。
| PICO | 内容 |
|---|---|
| P:対象 | 市民ランナー2,303人 |
| I:検討した方法 | 短い距離の記録から予測するRiegel式など |
| C:比較 | 実際の記録、週間走行距離などを含めた予測モデル |
| O:評価 | 予測タイムと実際のタイムのずれ |
Riegel式はハーフまででは比較的良好な予測を示しましたが、フルでは約半数のランナーに対して、実際より少なくとも10分速いタイムを予測していました。なお、研究の主解析で用いた指数は1.07です。
これは質問票に基づく予測研究であり、介入試験ではありません。また、全員が予測タイムに10分加えればよい、という結果でもありません。

フルのレースペースは、短距離の速さだけで決めず、長距離への準備も合わせて考えましょう。
レースペースの決め方③|コースと当日の条件で調整する

走力が同じでも、走る条件が変われば、適切なペースも変わります。
| 条件 | プランへの反映 |
|---|---|
| 上り坂がある | 平地のペースを無理に維持せず、負担の増えすぎを抑える |
| 下り坂がある | 上りの遅れを一気に取り返そうとしない |
| 向かい風が強い | ペース低下を許容し、無理な加速を避ける |
| 暑い・湿度が高い | 涼しい日の目標をそのまま当てはめず、序盤から見直す |
| 混雑や曲がり角が多い | 細かい追い越しや急加速を繰り返さない |
平坦で条件が安定したコースでは一定ペースを軸にできます。一方、起伏や風のあるコースでは、時計の数字と体感的な負担の両方を見ることが必要です。
「坂道でも必ず5分/km」のように固定せず、コース図に上り・下り・給水所を書き込み、ペースが変わる区間を先に把握しておきましょう。
ペース配分はどうする?3つのパターンと考え方

| 配分 | 特徴 | 計画時の注意点 |
|---|---|---|
| イーブンペース | 前半と後半をほぼ同じペースで走る | 現在の走力に合うペース設定が前提 |
| ネガティブスプリット | 後半を前半より速く走る | 前半を遅くしすぎると、後半に無理な加速が必要になる |
| ポジティブスプリット | 後半が前半より遅くなる | 実際のレースで多く見られるが、意図的な前半の飛ばしすぎとは分けて考える |
平坦なロードレースで自己記録を狙う市民ランナーには、実践上の出発点として、イーブンを軸にし、序盤の飛ばしすぎを防ぐ配分を提案します。終盤に余裕があれば、その時点で少しずつ上げます。

これは全員に共通する最適解が研究で確定している、という意味ではありません。起伏の配置や競技レベル、順位争いをするかによっても戦略は変わります。
研究を確認|多くのランナーは後半に遅くなる
Nikolaidisら(2019)は、2017年のリュブリャナ大会のハーフとフルの完走者データを解析しました。
| PICO | 内容 |
|---|---|
| P:対象 | 同大会のハーフ・フル完走者 |
| I:観察した条件 | ハーフマラソンの区間別ペース |
| C:比較 | フルマラソンの区間別ペース |
| O:評価 | レース中の速度変化・ペースの変動 |
両種目とも全体として後半に速度が低下し、ハーフではフルよりペース変動が小さい結果でした。
ただし、これは完走者の記録を比較した観察研究です。「後半に遅くなる人が多い」という結果から、「前半に速く走るほうが記録がよくなる」とは判断できません。
距離別|10km・ハーフ・フルのレースプラン

次の表は、走力に合った目標を設定できている場合の実践例です。研究で効果が保証された一律の配分ではありません。
| 距離 | 序盤 | 中盤 | 終盤 |
|---|---|---|---|
| 10km | 最初の1kmで飛び出しすぎず、早めに目標ペースへ | 呼吸とリズムを整えて維持する | 残り2〜3kmで維持するか、少し上げるか判断 |
| ハーフ | 最初の2〜3kmは周囲に引っ張られない | 目標ペース付近を安定して刻む | 残り5km前後で余力を確認する |
| フル | 最初の5kmは体感が軽くても急がない | ペースと補給・給水の計画を守る | 30km以降は状態を確認し、維持できるかを優先して判断 |
**序盤を抑えるとは、大幅に遅く走って後半に取り返すことではありません。**目標ペースを大きく超える加速を避け、落ち着いて予定のリズムへ入ることです。

初レースで走力の見積もりが難しい場合は、記録だけにこだわらず、完走や安定した配分を優先する目標も選べます。
具体例|ハーフ1時間45分のレースプラン

ここでは、平坦なコースで、最近の記録や練習から1時間45分が妥当と判断できたランナーを想定します。
まずは基準の通過タイムを作る
| 地点 | 1時間45分ちょうどの基準通過タイム |
|---|---|
| 5km | 約24分53秒 |
| 10km | 約49分46秒 |
| 15km | 約1時間14分39秒 |
| 20km | 約1時間39分32秒 |
| ゴール | 1時間45分00秒 |
※平均4分58.6秒/kmで計算し、秒単位に丸めています。通過タイムは計画を確認する基準であり、給水や起伏による数秒の変動を毎回取り返す必要はありません。
区間ごとの行動を決める
- **スタート〜3km:**急な追い越しを避け、目標ペース付近へ落ち着かせる。
- **3〜15km:**約4分59秒/kmを目安に、呼吸・脚の感覚と通過タイムを確認する。
- **15〜20km:**余裕があれば少しずつ上げる。想定以上にきつければ加速を見送る。
- **残り約1.1km:**体調に問題がなければ、残った力を使う。

1時間45分未満を狙う場合は、端数を含む必要ペースと停止時間も踏まえて、無理のない小さな余裕を設けます。そのために序盤だけ大幅に速く走る必要はありません。
A・B・Cの目標を用意しておく

目標を1つに固定すると、予定が崩れたときに無理を重ねやすくなります。
| 目標 | 位置づけ | ハーフの例 |
|---|---|---|
| A目標 | 条件がよく、走力の裏付けもある場合の挑戦 | 1時間45分未満 |
| B目標 | 普通の条件で狙う現実的な結果 | 1時間48分前後 |
| C目標 | 厳しい条件でも大切にしたい達成 | 記録に固執せず、状態を見ながら完走する |
このタイム差は例であり、決まった基準ではありません。A目標は願望だけで設定せず、採用できる根拠を確認します。

さらに、「暑さが予想以上ならスタート前にBへ変更」「中盤で呼吸が想定以上に苦しければ減速」のように、目標を切り替える条件も書いておきましょう。
レース当日は、ペース・体感・心拍数をどう使う?

ペースは計画とのずれ、体感は呼吸や脚の負担、心拍数は普段との違いを確認する材料になります。
ただし、心拍数は気温や緊張、時間の経過でも変わり、機器による測定誤差もあります。「この心拍数以下なら必ず最後まで走れる」とは考えないようにしましょう。
GPSの瞬間ペースだけに反応して加速・減速を繰り返すことも避けます。ラップペースや、大会の距離表示で確認した通過タイムを使うと、計画を把握しやすくなります。
序盤から想定以上に苦しいときは、数字を守ることより減速を優先します。胸痛、失神しそうな感覚、意識の異常などがある場合は走るのをやめ、救護を求めてください。
レースプランでよくある失敗

必要ペースの計算に加え、最近のレース結果と練習内容を確認します。根拠が乏しい場合は、目標を見直すことも計画の一部です。
後半の失速を見込んで前半を無理に速くすると、さらに大きく失速する可能性があります。まずは、そのペース設定自体が現在の走力に合っているかを見直しましょう。
数秒の遅れを急加速で埋めるより、落ち着いて元のリズムに戻します。停止時間が必要なら、事前に目標タイムへ織り込んでおきます。
同じタイムを目指していても、スタート位置や給水の取り方、坂道への対応は異なります。ペーサーの設定や計測基準を確認し、自分の状態と合わせて判断しましょう。
よくある質問

ランニングウォッチの予測タイムを使ってもよいですか?
目標ペースが練習できつい場合は、目標を下げるべきですか?
必ずネガティブスプリットを狙うべきですか?
スタート直後に混雑したら、すぐに取り返しますか?
まとめ
レースペースは、目標タイムから計算するだけでなく、現在の走力で採用できるかを確認して決めます。
- 目標タイムから必要な平均ペースを計算する。
- 最近のレース結果と練習内容で妥当性を確認する。
- コース・天候・混雑をプランへ反映する。
- 序盤・中盤・終盤の行動を決める。
- 当日の変更条件と別の目標を用意する。
**「このペースで走りたい」に、「このペースを選ぶ根拠」と「無理なときの行動」を加える。**そこまで決めておくと、当日の判断に役立つレースプランになります。
風を切るランニング 
