
「走り込みをしているのに、なかなかタイムが伸びない」
「レース後半になるとフォームが崩れてしまう」
「走っていると上半身や骨盤が左右にブレる気がする」
同じような悩みを感じているランナーも多いのではないでしょうか。
ランニングでは脚の筋力や心肺機能に注目しがちですが、身体を支える体幹の機能も走動作を構成する重要な要素です。
ただし、
「体幹を鍛えれば速くなる」
「プランクをすればケガを防げる」
というほど単純ではありません。
体幹トレーニングによって体幹筋力や筋持久力、バランス能力などが改善することは報告されていますが、ランニングタイムやランニングエコノミーといった競技パフォーマンスへの効果については、研究結果が必ずしも一致していません。
そのため、ランナーの体幹トレーニングでは「腹筋を鍛える」だけでなく、
- 身体が反りすぎないように支える
- 左右への傾きをコントロールする
- 胸郭と骨盤の回旋をコントロールする
- 腕や脚を動かしながら体幹を安定させる
といった複数の機能を組み合わせることが重要です。
本記事では、
- ランニングにおける体幹の役割
- ランナーにおすすめの体幹トレーニング
- 効果的な組み合わせ方
- 回数・セット数・頻度
- 体幹筋トレによって期待できる効果
- ランニングパフォーマンスやケガとの関係
について、研究を踏まえながら解説します。
ランニングにおける体幹の役割

「体幹」というと腹筋をイメージする人も多いですが、腹直筋だけを指しているわけではありません。
一般的には、
- 腹直筋
- 内腹斜筋・外腹斜筋
- 腹横筋
- 脊柱起立筋
- 多裂筋
など、腰椎・骨盤・胸郭周囲の筋群が体幹の動きや安定性に関わっています。
さらに実際のランニングでは、殿筋群や広背筋など周囲の筋肉とも協調しながら身体をコントロールしています。
腕と脚を動かしながら姿勢をコントロールする
ランニングでは右脚と左脚を交互に前後させ、それに合わせて腕も前後に振ります。そのため胸郭や骨盤には回旋が生じます。
ここで重要なのは、体幹を完全に固定することではありません。

必要な回旋は残しながら、過剰な回旋・側屈・前後方向へのブレをコントロールすることが重要です。
片脚支持でも身体を支える
ランニングでは一歩ごとに片脚で身体を支える時間があります。
そのため、「両足を床につけて腹筋運動ができる」だけではなく、片脚支持や四肢運動の中でも骨盤や体幹をコントロールできる能力が重要になります。
この点からも、ランナーの体幹トレーニングではプランクだけでなく、デッドバグやバードドッグなど異なる課題を組み合わせることが大切です。
自宅でできるランニングのパフォーマンスを支える体幹トレーニング
プランク

プランクは、身体が反りすぎる方向への動きを抑えながら姿勢を維持する基本的な体幹トレーニングです。
- うつ伏せになり、肘を肩の真下につく
- つま先と前腕で身体を支える
- 頭からかかとまでを一直線にする
- 腰が反ったり、お尻が高く上がったりしないようにする
- 呼吸を止めずに姿勢を維持する
腹直筋、腹斜筋群などを中心に、体幹周囲のさまざまな筋肉が姿勢保持に関わります。
プランクでは単純に「お腹を固める」のではなく、肋骨と骨盤の位置関係を保ちながら身体全体を支えることを意識しましょう。
サイドプランク

サイドプランクは、身体が左右に傾く方向への動きをコントロールするトレーニングです。
ランニング中の左右方向への身体のブレを抑える能力を鍛える種目の一つとして利用できます。
- 横向きになり、肘を肩の真下につく
- 肘と足で身体を支えて腰を持ち上げる
- 頭から足までを一直線にする
- 骨盤が前後へ倒れないように姿勢を維持する
- 左右とも行う
腹斜筋群を中心に、体幹側面や股関節周囲の筋肉が関与します。
慣れてきたら、上側の脚を上げるなどして負荷を高める方法もあります。
バードドッグ(ダイアゴナル)

バードドッグは、腕と脚を動かしながら体幹の回旋や傾きをコントロールするトレーニングです。
ランニングのように四肢を動かしながら身体を支える種目として使いやすいのが特徴です。
- 四つ這いになる
- 背中を反りすぎないように姿勢を整える
- 右腕を前へ伸ばしながら左脚を後ろへ伸ばす
- 骨盤が開いたり身体が左右へ傾いたりしないようにする
- ゆっくり戻し、反対側も行う
腹筋群、脊柱周囲筋、殿筋群などが協調して姿勢を保ちます。
腕や脚を高く上げることより、身体が動きすぎないことを優先しましょう。
デッドバグ

デッドバグも、四肢を動かしながら腰部・骨盤をコントロールする代表的なトレーニングです。
- 仰向けになる
- 股関節・膝を約90度に曲げ、両腕を天井方向へ伸ばす
- 腰が大きく反らない位置を保つ
- 右腕と左脚など、対角の腕と脚をゆっくり伸ばす
- 元に戻し、反対側も繰り返す
腹直筋、腹斜筋群などを中心に体幹筋が働きます。
腰を床に強く押し付けることだけを目的にせず、呼吸を続けながら骨盤と胸郭をコントロールすることがポイントです。
ヒップリフト

ヒップリフトは厳密には殿筋トレーニングとして扱われることも多い種目ですが、骨盤をコントロールしながら股関節を伸展する練習として体幹トレーニングと組み合わせやすい種目です。
- 仰向けになり膝を立てる
- 足を腰幅程度に開く
- お尻を締めながら骨盤を持ち上げる
- 腰を反らせるのではなく股関節を伸ばす
- ゆっくり元に戻す
大殿筋、ハムストリングスなど。
慣れてきた場合はシングルレッグヒップリフトにすると、片脚支持で骨盤をコントロールする課題を加えられます。
クランチ

クランチは腹直筋を中心に鍛える代表的な腹筋運動です。
- 仰向けになって膝を立てる
- 手を胸の前または頭の後ろに添える
- おへそを見るように上体を起こす
- 肩甲骨が床から離れる程度まで起こす
- ゆっくり元へ戻る
腹直筋などを中心に体幹筋が働きます。
肘と膝を近付けるようにイメージし、呼吸を続けながら行うことがポイントです。
ロシアンツイスト

ロシアンツイストも体幹回旋を伴う種目です。
- 床に座り膝を曲げる
- 上体を少し後方へ傾ける
- 胸の前で両手を組む
- 左右へゆっくり身体を回旋する

反動を使って速く動かすよりも、腰椎だけを大きく捻らず、胸郭を含めてコントロールすることを意識します。
ニートゥチェスト

ニートゥチェストは腹筋群や股関節屈筋群を使うトレーニングです。
- 仰向けまたは座位になる
- 膝を身体へ引き寄せる
- 腰を過度に反らせない
- 反動を使わず元に戻す
※股関節屈筋群を鍛えられますが、ランニングパフォーマンス向上のために必須の種目ではありません。体幹トレーニング全体の一種目として利用しましょう。
スーパーマン

スーパーマンでは背面の筋群を使います。
- うつ伏せになる
- 腕を前へ伸ばす
- 腕・胸・脚を軽く床から持ち上げる
- 腰だけを大きく反らない
- ゆっくり元に戻す

腰椎伸展が大きくなりやすいため、「できるだけ高く上げる」必要はありません。
脊柱起立筋を鍛える方法の一つですが、腰に違和感が出る場合は別の種目へ変更しましょう。
パロフプレス

パロフプレスは身体を捻るのではなく、外から加わる回旋方向の力に抵抗するanti-rotationトレーニングです。
- チューブを身体の横から引っ張られる位置に固定する
- 胸の前でチューブを持つ
- 身体を正面へ向ける
- 両腕をゆっくり前へ伸ばす
- 身体がチューブ側へ回旋しないように姿勢を維持する

ランニングでは胸郭と骨盤に回旋が生じるため、回旋運動だけでなく回旋をコントロールするトレーニングを入れる意味があります。
腕立て伏せ

腕立て伏せは大胸筋や上腕三頭筋だけでなく、身体を一直線に維持するために体幹筋も働きます。
そのため、上半身トレーニング+体幹安定を同時に行える種目です。
ベントオーバーロウ

ベントオーバーロウは背中や上腕部を中心に鍛える種目です。
前傾姿勢を保った状態でダンベルを動かすため、姿勢を保つ体幹筋も働きます。
広背筋などが腕振りに関与しますが、「腕振りの力を脚へ直接伝える筋肉」と考えるより、肩関節・体幹を含む上半身の動きを支える筋群として考える方が適切です。
ランナーの体幹トレーニングは「組み合わせ」が重要

体幹トレーニングでは、「腹直筋を鍛えた」・「腹斜筋を鍛えた」という筋肉単位だけで考える必要はありません。
ランニングに必要な体幹機能を考えるなら、動作の方向を組み合わせることが重要です。
プランク
デッドバグ
腹筋ローラー
サイドプランク
バードドッグ
パロフプレス
プランクショルダータップ
ヒップリフト
シングルレッグヒップリフト
腕立て伏せ
ベントオーバーロウ

こうした異なる課題を組み合わせることで、「腹筋だけを鍛える」トレーニングから、よりランニング動作を意識した体幹トレーニングにできます。
初心者ランナーにおすすめの体幹トレーニングメニュー

体幹トレーニングを始めたばかりであれば、10種類以上行う必要はありません。
まずは、
- プランク
- サイドプランク
- デッドバグ
- バードドッグ
- ヒップリフト
程度から始めると、異なる方向への体幹コントロールを組み合わせられます。
慣れてきたら、
- パロフプレス
- シングルレッグヒップリフト
- 腹筋ローラー
- プランクショルダータップ
などを追加します。

種目数を増やすことよりも、正しいフォームで少しずつ負荷を高めることを優先しましょう。
体幹トレーニングの回数・時間・頻度

体幹トレーニングについて、「ランナーは必ず○秒×○セット行えばよい」という明確な最適値が確立されているわけではありません。
そのため、トレーニング経験や疲労度に合わせて調整します。
静的トレーニング
プランクやサイドプランクでは、フォームを維持できる時間から始めます。
例えば、
20~30秒程度
×
2~3セット
から開始し、余裕が出てきたら時間を延ばす方法があります。

ただし、長時間耐えることだけが目的ではありません。
60秒、90秒と時間を延ばし続けるよりも、姿勢を保ったまま腕や脚を動かしたり負荷を加えたりする方法もあります。
動的トレーニング
デッドバグやバードドッグなどでは、
左右5~10回程度
×
2~3セット
などから開始できます。

動作速度を上げるより、フォームを崩さずコントロールすることを優先します。
頻度
体幹トレーニングは週2~3回程度から取り入れやすいですが、これはランナーにとって「週2~3回が最適」と証明されているわけではありません。
2026年に更新されたACSMのレジスタンストレーニングに関するPosition Standでは、主要筋群を週2回以上刺激することなどが筋力向上の一般的な指針として示されています。
ランニングの負荷との兼ね合いを考えながら調整しましょう。
ランニングと体幹筋トレを組み合わせる方法
体幹トレーニングは比較的短時間で実施できるため、ランニング後やランニングを行わない日に取り入れられます。
例えば、
イージーラン
↓
体幹トレーニング10~20分
体幹トレーニング
+
必要に応じて上半身・下半身の筋力トレーニング
といった組み方ができます。

インターバル走やレペテンション走など重要なランニングセッションの直前に、疲労が残るほど体幹トレーニングを行う必要はありません。
体幹筋トレで走る練習の質を落とさないことも大切です。
体幹トレーニングで期待できる効果

体幹筋力・筋持久力の向上
体幹トレーニングによって最も期待しやすいのは、トレーニングした体幹筋群の筋力や筋持久力を高めることです。
アスリートを対象としたシステマティックレビューやメタ解析でも、体幹トレーニングによって体幹持久力やバランスなどの改善が報告されています。
※ただし、体幹筋持久力が向上した=必ずランニングタイムが速くなるというわけではありません。
身体をコントロールする能力の向上
プランク、サイドプランク、デッドバグなどでは、外力や四肢の動きに対して体幹を安定させる課題を練習できます。
ランニングでは四肢を繰り返し動かすため、こうした身体コントロール能力は走動作を支える要素の一つになります。
ランニングパフォーマンスへの影響
一部の研究では体幹トレーニングによるランニングパフォーマンス改善が報告されています。
Sato & Mokhaはランナーを対象に6週間の体幹トレーニングを行い、5000mタイムの改善を報告しました。
また、8週間の体幹トレーニングによって体幹持久力やバランス、一部のランニングエコノミー関連指標が改善した研究もあります。
一方で、体幹トレーニングに関する研究全体を見ると、スポーツパフォーマンスへの効果は一貫していません。

そのため、「体幹トレーニングをすれば速くなる」と飛躍するのではなく、「ランニングパフォーマンスを支える補助的なトレーニングの一つ」として位置づけるのが適切です。

体幹トレーニングでランニングエコノミーは良くなる?

ランニングエコノミーとは、簡単にいえば一定のスピードで走るときにどれだけ少ないエネルギーで走れるかを表す指標です。
体幹が安定すれば無駄な動きが減り、ランニングエコノミーも改善するように思えます。
実際に改善を報告した研究はあります。
しかし現時点では、「体幹トレーニングによってランニングエコノミーが確実に改善する」と断定できるほど証拠が揃っているわけではありません。

体幹トレーニングはランニングエコノミー改善を狙う方法の一つになり得ますが、あくまで補助的な位置づけとして考えましょう。
体幹筋トレでランニング障害を予防できる?

「体幹が弱いと膝を痛める」・「体幹を鍛えればランナー膝を予防できる」といった説明を見かけることがあります。
しかし、これは単純化しすぎです。
ランニング障害には、
- トレーニング量
- 急激な負荷増加
- 過去のケガ
- 回復状態
- 筋力
- 走動作
- 個人の身体的特徴
など、さまざまな要因が関係します。
2024年に発表された持久系ランナーを対象としたシステマティックレビュー・メタ解析では、運動ベースの予防プログラム全体としてランニング障害を明確に減らす結果は確認されませんでした。
したがって、「体幹筋トレをすればケガを予防できる」とは断言できません。

体幹トレーニングは身体機能を高める一つの方法ですが、ケガ予防はトレーニング負荷・休養・過去のケガなども含めて総合的に考える必要があります。
体幹トレーニングだけでランニングパフォーマンスは上がる?

体幹トレーニングは重要ですが、ランニングパフォーマンスを高めるための主役ではありません。
基本となるのは、実際に走るトレーニングです。
さらにランニングパフォーマンス向上については、高負荷筋力トレーニングやプライオメトリクストレーニングなどにも比較的多くの研究があります。
そのため、
ランニング
+
必要な筋力トレーニング
+
補助的な体幹トレーニング
という考え方が大切です。
ランニングと筋トレは両立できる?
持久系トレーニングと筋力トレーニングを組み合わせたコンカレントトレーニングについてのメタ解析では、筋肥大や最大筋力について明確な悪影響が認められない結果も報告されています。
一方、爆発的筋力などについては、同一セッションで両方を行うことで適応が小さくなる可能性が示されています。

つまり、「ランニングと筋トレは両立できない」のではなく、目的に合わせて疲労や実施順序を調整すると考えた方が適切です。
自宅での体幹トレーニングに便利なアイテム
自宅で体幹トレーニングを行うなら、最も使いやすいアイテムの一つです。
プランク、サイドプランク、デッドバグ、ヒップリフトなど床で行う種目では、肘・膝・背中などが床に当たります。
マットがあることで、
- 床との摩擦を減らす
- 肘や膝への圧迫を減らす
- 汗で滑りにくくする
といったメリットがあります。
器具がなくても体幹トレーニングはできますが、継続しやすい環境づくりという意味では優先度の高いアイテムです。
腹筋ローラーは体幹前面に比較的大きな負荷を加えられるトレーニング器具です。
特に、腕を前へ伸ばしたときに腰が反らないように支えるanti-extension能力が求められます。
※ただし負荷が高いため、初心者がいきなり行う必要はありません。プランクやデッドバグを安定して行えるようになってから、負荷を高める選択肢として利用できます。
バランスボールなど不安定な環境では、安定した床面より一部の体幹筋活動が増えることが報告されています。
ただし、筋活動が高い=ランニングパフォーマンスが向上するという意味ではありません。
バランスボールは必須ではなく、通常のトレーニングに変化をつけるための選択肢として考えましょう。
まとめ|体幹筋トレはランニングを支える補助トレーニング
体幹トレーニングは、ランナーにとって有用な補助トレーニングの一つです。
特に、
- 体幹筋力・筋持久力
- 左右方向への身体コントロール
- 回旋のコントロール
- 四肢を動かしながら姿勢を維持する能力
などを鍛えられます。
一方で、
「体幹を鍛えれば必ず速くなる」
「体幹を鍛えればランニング障害を予防できる」
と断定できるだけの科学的根拠はありません。
ランナーの体幹トレーニングでは、
プランクだけを長時間続けたり、クランチだけを繰り返したりするのではなく、
プランク・サイドプランク・デッドバグ・バードドッグなど異なる方向の体幹コントロールを組み合わせる
ことがポイントです。

最も重要なのは、体幹トレーニングだけに偏らないこと。
実際に走るトレーニングを基本として、必要な筋力トレーニングと体幹トレーニングを組み合わせていきましょう。
参考文献
- Ángela Rodríguez-Perea ,Waleska Reyes-Ferrada et al.Core training and performance: a systematic review with meta-analysis
- Reed CA, Ford KR, Myer GD, Hewett TE. The effects of isolated and integrated “core stability” training on athletic performance measures: a systematic review. Sports Medicine. 2012.
- Reed CA, Ford KR, Myer GD, Hewett TE. The effects of isolated and integrated “core stability” training on athletic performance measures: a systematic review. Sports Medicine. 2012.
- Sato K, Mokha M. Does core strength training influence running kinetics, lower-extremity stability, and 5000-M performance in runners? Journal of Strength and Conditioning Research. 2009.
- Schumann M, et al. Compatibility of concurrent aerobic and strength training for skeletal muscle size and function: an updated systematic review and meta-analysis.
- Exercise-based interventions for prevention of running-related injuries in endurance runners: systematic review and meta-analysis. Sports Medicine. 2024.
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