ランニング中に汗をかくと、水分だけでなくナトリウムも失われます。そのため、夏のロング走やマラソンでは塩分補給が役立つことがあります。
ただし、すべてのランニングで塩タブレットが必要なわけではありません。また、塩分を摂れば摂るほど熱中症や低ナトリウム血症を防げるわけでもありません。
大切なのは、走る時間・暑さ・発汗量に合わせて、水分と一緒に必要な範囲で塩分を補うことです。
この記事では、初心者から中上級者まで実践できるように、ランニング中の塩分補給について科学的根拠と具体例を交えて解説します。
結論|ランニングの塩分補給は長時間・暑熱・多量発汗時に考える

ランニング中の塩分補給は、次のように考えるとシンプルです。
| 状況 | 塩分補給の考え方 |
|---|---|
| 涼しい日の60分未満の軽いラン | 通常の食事と、喉の渇きに応じた水分補給で足りることが多い |
| 60分を超えるランニング | 気温、発汗量、走る強度に応じて電解質入り飲料を検討する |
| 暑い日のランニング | 短時間でも汗が多ければ、水分と塩分を組み合わせる |
| 2時間以上のロング走・マラソン | 水分・ナトリウム・糖質をまとめて計画し、練習で試す |
| 汗の量が多い、ウェアに白い跡がつく | 飲料のナトリウム濃度を目安範囲の上側から試す。ただし自己判断で大量摂取しない |
日本スポーツ協会は、運動時の飲料として食塩0.1〜0.2%、ナトリウム40〜80mg/100mLを一つの目安に示しています。
マラソンの水分補給量は400〜800mL/時が例示されていますが、これは全員に固定された必要量ではありません。体格、気温、強度、ペース、発汗量によって調整が必要です。
塩分だけを単独で考えるのではなく、次の3点をセットにしましょう。
- 水分:汗で失った水分を補う
- ナトリウム:飲んだ水分の保持や体液バランスを支える
- 糖質:長時間走のエネルギー源を補う
ランニング中に塩分が必要になる理由

汗とともにナトリウムが失われる
汗の主成分は水ですが、ナトリウムなどの電解質も含まれています。発汗量が増えるほど、失われる水分とナトリウムの総量も増えやすくなります。

一方で、汗に含まれるナトリウム濃度には大きな個人差があります。同じ気温、同じ距離を走っても、必要な補給量が全員同じになるわけではありません。
ナトリウムは飲んだ水分の保持を助ける
水だけを一度に大量に飲むと、尿として排出されやすくなる場合があります。ナトリウムを含む飲料は、水だけよりも体内に水分を保持しやすくする可能性があります。
ただし、ランニング中のナトリウム補給だけで記録が向上するという根拠は限定的です。
2025年のレビューでは、ナトリウムがパフォーマンスに役立つ場合も、主に適切な水分摂取につながった場面であり、水分補給とは独立した効果は明確ではないと整理されています。
塩分補給だけでは低ナトリウム血症を防げない
運動関連低ナトリウム血症は、長時間運動中や運動後に血液中のナトリウム濃度が低下した状態です。主な問題は、汗で塩分を失うことだけではなく、失った量を超えて水や薄い飲料を飲み続けることです。

塩タブレットを摂っていても、水分を過剰に飲めば低ナトリウム血症は起こり得ます。「水を多く飲み、塩を足せば安全」という考え方は避けましょう。
ランニング中の塩分補給量の目安

まずは飲料のナトリウム濃度を確認する
初心者が最初に使いやすい目安は、ナトリウムを40〜80mg/100mL含む飲料です。1L当たりでは400〜800mgです。
この飲料を1時間に400〜800mL飲んだ場合、摂取するナトリウムは次の範囲になります。
| 飲料の量 | ナトリウム40mg/100mL | ナトリウム80mg/100mL |
|---|---|---|
| 400mL | 160mg | 320mg |
| 500mL | 200mg | 400mg |
| 600mL | 240mg | 480mg |
| 800mL | 320mg | 640mg |
これはあくまで飲料濃度と飲水量から算出した実用的な範囲であり、全ランナーが毎時間この量を摂るべきという意味ではありません。

水分摂取量が少ない状況で、汗によるナトリウム損失だけを全量補おうとすると、かえって摂取過多になる可能性があります。
食品表示では「ナトリウム」ではなく「食塩相当量」と書かれていることがあります。両者は同じ数字ではありません。
- 食塩相当量(g)=ナトリウム(mg)×2.54÷1,000
- ナトリウム(mg)=食塩相当量(g)×約393
例えば、ナトリウム400mgは食塩相当量で約1.0gです。

塩タブレット、ジェル、スポーツドリンクを組み合わせる場合は、表示単位をそろえて合計しましょう。
自分の発汗量を調べる方法

塩分補給を個別化する第一歩は、汗の量を知ることです。レースに近い気温・時間・強度の練習で、走る前後の体重を測ります。
(走る前の体重-走った後の体重+飲水量-尿量)÷走行時間
体重はkg、飲水量と尿量はLとして計算します。体重1kgの減少を、およそ1Lの水分損失として扱います。
- 走る前:60.0kg
- 走った後:59.4kg
- 飲水量:0.5L
- 尿量:0L
- 走行時間:1.5時間
(60.0-59.4+0.5)÷1.5=約0.73L/時
このランナーの発汗量は、同じ条件では1時間当たり約730mLと推定できます。
ただし、1回の測定だけで固定しないでください。発汗量は季節、湿度、走る速さ、暑熱順化、服装で変化します。夏・冬、イージー走・ペース走など、条件を変えて複数回測ると実用的です。

汗中ナトリウム濃度まで正確に知るには専門的な測定が必要です。ウェアの白い跡、目にしみる汗、強い塩味は参考になりますが、それだけで濃度や必要量を正確には決められません。
塩分を補給するタイミング

ランニング前
普段から食事を摂れていて、脱水していなければ、短いランの前に塩分を追加する必要は通常ありません。
暑い環境で長時間走る日は、スタートの2〜4時間前から食事と水分を整えます。直前に濃い食塩水や塩タブレットをまとめて摂ると、喉の渇き、胃の不快感、下痢につながることがあります。
研究では運動前のナトリウム摂取による水分保持も検討されていますが、高濃度・大量の「塩分ローディング」は上級者向けの個別戦略です。

日常的に数日間の塩分摂取量を増やす方法は、一般の市民ランナーには勧めにくいと考えられます。
ランニング中
60分未満で、涼しく、発汗量が少ないランニングでは、水や通常の食事で足りることが多いでしょう。
60分を超えるランニング、暑熱環境、多量発汗時には、ナトリウム40〜80mg/100mL程度を含む飲料を出発点にします。少量ずつ摂り、胃腸症状や喉の渇き、走行後の体重変化を確認してください。

塩タブレットを使う場合は、必ず水分と組み合わせます。製品ごとにナトリウム量が異なるため、「1粒」ではなく1粒当たりのナトリウム量で管理します。
ランニング後
短時間のランニング後は、通常の食事と水分で回復できることが多いです。みそ汁、スープ、おにぎり、乳製品など、食事から水分・塩分・糖質・たんぱく質をまとめて補えます。
大量に汗をかき、短時間で再び運動する場合は、体重減少量を参考に計画的に再水和します。

飲料だけで回復する場合はナトリウムを含む方が水分を保持しやすくなりますが、食事も摂るなら食事中の塩分を含めて考えましょう。
水分・糖質・塩分をどう組み合わせる?

1時間を超えるランニングでは、塩分補給と同時に糖質補給も考えます。日本スポーツ協会は、1時間以上の運動時に糖質4〜8%の飲料を示しています。
持久系運動では、一般に糖質30〜60g/時が目安となり、2.5時間を超える競技では、十分に練習した選手が最大90g/時程度を用いる場合があります。
組み合わせ例
ナトリウム60mg/100mL、糖質6g/100mLのスポーツドリンクを1時間に500mL飲むと、次の量を摂取できます。
- 水分:500mL
- ナトリウム:300mg
- 糖質:30g
フルマラソンで糖質60g/時を目標にするなら、この飲料にジェルなどを加えて調整できます。ただし、ジェルにもナトリウムが含まれる場合があるため、全商品の合計を確認してください。
糖質濃度を上げすぎたり、ジェルを水なしで連続摂取したりすると、胃もたれや吐き気が起こることがあります。本番前のロング走で補給間隔まで試しておきましょう。
走る時間・条件別の塩分補給例

| ランニング条件 | 補給例 |
|---|---|
| 涼しい日の45分ジョグ | 喉の渇きに応じて水分を摂る。特別な塩分補給は原則不要 |
| 暑い日の60分走 | 電解質入り飲料を少量ずつ摂る。走行前後の体重で発汗量を確認 |
| 90分のロング走 | ナトリウム40〜80mg/100mLの飲料を基本に、必要なら糖質30〜60g/時を組み合わせる |
| 4時間前後のフルマラソン | 給水所の間隔を確認し、水分・ナトリウム・糖質を1時間単位で計画。ロング走で再現する |
| 暑熱下の長時間レース | 発汗量の測定を優先。多量発汗や高い汗中ナトリウム濃度が疑われる場合は、専門家への相談や測定を検討 |
塩分補給アイテムの種類と選び方

水分、ナトリウム、糖質を一緒に摂れるため、初心者が最も使いやすい方法です。
確認したい表示は次の3つです。
- ナトリウム:40〜80mg/100mL程度か
- 糖質:長時間走なら4〜8g/100mL程度か
- 1本の容量:1時間当たりの摂取量を計算しやすいか
糖質が少ない製品もあり、ジェルや補給食から糖質を摂るランナーに向いています。粉末は濃く作りすぎず、表示どおりの水量で溶かしてください。
携帯しやすく、給水所の水と組み合わせやすい点が利点です。一方、製品ごとのナトリウム量の差が大きく、スポーツドリンクやジェルとの重複にも注意が必要です。

塩タブレットだけをなめ、水分をほとんど摂らない使い方は避けましょう。
経口補水液は、脱水時の水分・電解質補給を目的とした飲料で、一般的なスポーツドリンクよりナトリウム濃度が高い傾向があります。日常のジョギングやすべてのレースで常用する飲料ではありません。

脱水が疑われる場面では製品表示に従い、持病や服薬がある場合は医師や管理栄養士へ相談してください。
塩分不足と摂りすぎに注意する

頭痛、吐き気、だるさ、めまい、筋けいれんなどは、脱水、暑熱障害、低ナトリウム血症、低血糖、運動強度の上げすぎなどでも起こります。
「脚がつったから塩分不足」とは断定できません。運動関連筋けいれんは、神経筋疲労を含む複数の要因が関係すると考えられています。
塩分を多く摂ると、強い喉の渇き、胃腸症状、むくみなどが起こることがあります。毎日の食生活まで高塩分にする必要はありません。
高血圧、心臓病、腎臓病などがある人、利尿薬などを服用している人は、一般的なランナー向け補給法をそのまま使わず、主治医に確認してください。
ランニング中の低ナトリウム血症を防ぐポイント

低ナトリウム血症を防ぐうえで最も重要なのは、水分を必要以上に飲まないことです。
- スタート時より体重が増えるほど飲まない
- 決めた量を無理に飲み続けない
- 発汗量と喉の渇きを参考にする
- 水分とナトリウムをセットで計画する
- 塩タブレットを「飲み過ぎを帳消しにするもの」と考えない

頭痛や吐き気に加えて、混乱、ふらつき、意識障害、けいれんなどがみられる場合は、走るのを中止し、救護スタッフへ連絡してください。大量の水や塩タブレットを自己判断で追加してはいけません。
自分に合う塩分補給を決める4ステップ

- レースに近い条件で走る前後の体重を測る
- 1時間当たりの発汗量を計算する
- ナトリウム40〜80mg/100mLの飲料から試す
- 走行後の体重、喉の渇き、尿、胃腸症状を記録して調整する

いきなり本番で塩タブレットや高濃度の飲料を使うのではなく、ロング走で試してください。季節が変われば発汗量も変わるため、夏と冬で補給計画を見直します。
よくある質問

ランニング前に塩をなめる必要はありますか?
何kmから塩分補給が必要ですか?
汗がしょっぱい人は塩分を多く摂るべきですか?
塩タブレットとスポーツドリンクは併用できますか?
水だけではだめですか?
塩分補給で足のつりを防げますか?
まとめ|塩分だけでなく水分・糖質とセットで考える
ランニング中の塩分補給は、長時間走、暑い環境、多量発汗時に役立ちます。まずはナトリウム40〜80mg/100mL程度の飲料を出発点にし、発汗量や飲水量に合わせて調整しましょう。
一方、短時間で発汗量が少ないランニングでは、特別な塩分補給が不要な場合も多くあります。

低ナトリウム血症の主な予防策は、塩を大量に摂ることではなく、水分を飲み過ぎないことです。
レースでは、次の3点を1時間単位で計画します。
- どれくらい水分を飲むか
- どれくらいナトリウムを摂るか
- どれくらい糖質を摂るか

自分に合う補給量は、練習で測り、試し、修正して作っていきましょう。
参考文献
- 日本スポーツ協会.スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック.
- McCubbin AJ. Sodium intake for athletes before, during and after exercise: review and recommendations. Performance Nutrition. 2025.
- Armstrong LE. Rehydration during Endurance Exercise: Challenges, Research, Options, Methods. Nutrients. 2021;13(3):887.
- Hoffman MD, et al. Sodium Supplementation and Exercise-Associated Hyponatremia during Prolonged Exercise. Med Sci Sports Exerc. 2015;47(9):1781-1787.
- Hew-Butler T. Exercise-Associated Hyponatremia. Front Horm Res. 2019;52:178-189.
- Burke LM, et al. Carbohydrates for training and competition. J Sports Sci. 2011;29 Suppl 1.
- 厚生労働省.日本人の食事摂取基準(2025年版).
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。体調不良がある場合や、高血圧・心疾患・腎疾患などの治療中、薬を服用中の場合は、医師や管理栄養士へ相談してください。
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