脂質は持久力アップに必要?ランニングでの役割・摂取量・糖質とのバランスを解説

 「長く走るには脂肪を使えるようになることが大切」と聞いて、脂質を多く食べた方がよいのか迷ったことはありませんか。

 脂質は、ランニング中のエネルギー源になる大切な栄養素です。ただし、脂質を増やせば持久力が高まるとは限りません。

 体内の脂肪を利用する能力と、食事から摂る脂質の量は、分けて考える必要があります。

 この記事では、初心者からハーフ・フルマラソンに挑戦する市民ランナーに向けて、脂質と持久力の関係、食事での取り入れ方、糖質とのバランスを解説します。

脂質と持久力の関係|大切なのは「増やす」よりバランス

 持久力を支える食事では、脂質を極端に減らさず、練習に必要な糖質も確保することが基本です。

 高脂質・低糖質の食事では、運動中に脂肪を使う量が増えることがあります。しかし、その変化が競技成績の向上に結びつくとは限りません。

 2024年の国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解でも、ケトジェニック食の競技パフォーマンスへの効果は、全体として中立的または不利と整理されています。

 

走(かける)
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「脂質は必要」「脂質を増やすほど速くなるわけではない」という2点を押さえておきましょう。

ランニング中、脂質はどんな役割を果たす?

長時間の運動を支えるエネルギー源

 走っているとき、体は糖質と脂肪の両方からエネルギーを作ります。脂肪は主に体脂肪や筋肉内に蓄えられており、走る直前に食べた油だけを使っているわけではありません。

 脂質は1gあたり約9kcal、糖質は約4kcalのエネルギーを持ちます。ただし、エネルギー量が大きいことと、速いペースで必要なエネルギーを供給しやすいことは別です。

 脂肪には大きな貯蔵量がありますが、それだけであらゆる強度の運動をまかなえるわけではありません。

日々の食事を支える栄養素でもある

 脂質には、エネルギー源以外の役割もあります。細胞膜の構成成分になり、食事から摂る必要がある必須脂肪酸も含まれます。

 

走(かける)
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体重管理を意識して、油だけでなく魚、卵、乳製品などまで一律に避けると、食事の選択肢が狭くなります。持久力を伸ばすためにも、必要な栄養を継続して摂れる食事を目指しましょう。

脂質と糖質は、走る強度で使われ方が変わる

 一般に、運動強度が低いと脂肪がエネルギー供給に占める割合が大きくなり、強度が上がると糖質への依存が高まります。

 ただし、使われ方はトレーニング状態や食事などでも変わります。

走る場面エネルギー源の考え方
楽なジョグ糖質と脂肪を使い、脂肪の寄与も大きい
ロング走脂肪も活用するが、時間や強度に応じて糖質を確保する
テンポ走・インターバル走糖質の重要性が高い
ハーフ・フルのレース目標ペースを維持するため、糖質の準備と補給が重要

 「ゆっくりなら脂肪だけ」「一定の時間を過ぎたら脂肪に切り替わる」という単純な仕組みではありません。

 

走(かける)
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脂肪を使う“割合”と、1分あたりに使う“量”も異なります。低強度で脂肪の割合が高くても、脂肪を使う量が最大とは限らない点に注意しましょう。

脂質を多く摂れば持久力は高まる?

脂肪を使う量が増えても、記録がよくなるとは限らない

 2020年の研究では、エリート競歩選手26人を対象に、25日間のトレーニングと食事介入が行われました。

低糖質・高脂質の食事とパフォーマンス

 低糖質・高脂質食のグループでは、運動中の脂肪利用が増えました。一方、レースに近い速度での酸素消費量が増え、10,000mの競歩成績は低下しました。

 高糖質食のグループでは成績が改善しています。

 

走(かける)
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この結果は、脂肪利用を増やすことと、速いペースを効率よく維持することが、必ずしも一致しないことを示しています。

 ただし、これはエリート競歩選手の研究です。食事群への割り付けは無作為ではなく、対象人数や介入期間にも限界があるため、市民ランナー全員に同じ結果が出るとは断定できません。

記録向上を目指すなら、糖質を減らしすぎない

 ISSNの2024年の見解では、持久系競技への影響はトレーニング状態や食事介入の期間によって変わる可能性があり、追加研究が必要とされています。

 そのため、ハーフやフルマラソンの記録向上を目指す人が、脂肪利用を増やす目的だけで主食を大幅に減らすことは、基本の取り組みとしておすすめしません。

走(かける)
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まずは普段の食事でエネルギーを確保し、ポイント練習やロング走を十分な状態で行えるかを確認しましょう。

持久力を支える脂質の摂取量の目安

 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人の脂質摂取の目標量は、総エネルギー摂取量の20〜30%です。これは健康の保持・増進などを目的とする一般的な目安で、マラソンの記録を最大化するための専用基準ではありません。

 脂質は約9kcal/gなので、次の式で換算できます。

脂質量(g)=1日の総エネルギー摂取量(kcal)×脂質の割合÷9

1日の総エネルギー摂取量脂質20%脂質30%
2,000kcal約44g約67g
2,500kcal約56g約83g
3,000kcal約67g約100g

 この表は計算例です。ランナー全員に2,000〜3,000kcalをすすめるものではありません。

 また、ここでいう脂質量には、調理油だけでなく、肉・魚・卵・乳製品・菓子などに含まれる脂質も入ります。表の量をそのまま油として追加しないようにしましょう。

 

走(かける)
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練習量が多い人は、脂質の割合だけでなく、必要な総エネルギー量と糖質量を確保できているかも確認する必要があります。

ランナーが脂質を取り入れるときの食品選び

 脂質は、量とあわせて種類にも目を向けましょう。厚生労働省は、必須脂肪酸の不足を防ぎ、飽和脂肪酸を摂りすぎないことの大切さを示しています。

 以下は、日常の食事に取り入れる例です。特定の食品に持久力を高める効果を保証するものではありません。

食品取り入れ方の例
サバ・イワシ・サケなどの魚主菜として、ご飯や野菜と組み合わせる
ナッツ類間食やヨーグルトのトッピングにする
オリーブ油・菜種油など炒め物やドレッシングに使う
卵・大豆食品主菜や副菜として食事に組み込む

走(かける)
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「体によい油だから」と大量に追加する必要はありません。肉料理が続いているなら一部を魚料理に変えるなど、普段の食事の組み合わせから見直してみましょう。

ランニング前・中・後で脂質をどう考える?

走る前|直前に脂質を増やす必要はない

 走る直前に脂質を多く食べても、その場で持久力が高まるとはいえません。

 実践では、走るまでの時間と胃腸の反応を見ながら食事を選びましょう。揚げ物やクリームの多い料理で胃もたれを経験する人は、ランニング前の食事では量を控えたり、別の料理に変えたりする方法があります。

例

おにぎり、パン、バナナなど、自分が食べ慣れていて走る前に負担を感じにくい食品を選びます。脂質を完全にゼロにする必要はありません。

走っている間|一般的な長距離ランでは糖質補給を優先する

 脂肪を使って走っていても、糖質補給が不要になるわけではありません。

 ISSNの栄養摂取タイミングに関する見解では、60分を超える高強度の運動で、糖質を1時間あたり約30〜60g摂ることが示されています。必要量は運動時間や強度、胃腸の耐性に応じて調整します。

 ジェルやスポーツドリンクなどは、レース前のロング走で試しておきましょう。短いジョグにも同じ量の補給が必要という意味ではありません。

 超長時間の競技では食べ方が変わることもありますが、一般的なハーフ・フルマラソンで、油やナッツを糖質補給の代わりにする必要はありません。

走った後|糖質とたんぱく質を含む食事に戻す

 走った後は、使ったエネルギーを補い、回復を支える食事を摂りましょう。糖質とたんぱく質の摂取は、グリコーゲンの回復や筋たんぱく質の合成に関わります。

例

「ご飯+焼き魚+野菜+汁物」なら、糖質、たんぱく質、脂質を一緒に取り入れられます。

走(かける)
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脂質だけを追加するより、主食と主菜をそろえた食事を続ける方が、毎日の練習に合わせやすいでしょう。

脂肪を使う力を高めたいとき、練習はどうする?

 脂肪利用に目を向けるなら、食事だけでなく持久系トレーニングの積み重ねも大切です。持久系トレーニングは、運動中に脂肪を利用する能力に関わる適応をもたらします。

 市民ランナーは、まず無理なく続けられるジョグを土台にし、現在の走力に合わせてロング走やポイント練習を組み合わせましょう。

 大切なのは、脂肪を使う数値だけを追いかけず、次のような練習の変化も確認することです。

  • 同じペースで、以前より楽に走れるか
  • ロング走の後半もフォームやペースを保てるか
  • ポイント練習の質を維持できるか
  • 次の練習までに疲労が回復しているか

走(かける)
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脂肪利用を増やしたいからといって、毎回の練習を空腹で行ったり、ロング走で補給を我慢したりする必要はありません。練習の目的を達成できる食べ方を優先しましょう。

脂質と持久力を考えるときによくある失敗

よくある失敗見直すポイント
主食を油やナッツに置き換える必要な糖質まで減っていないか確認する
体重を減らすために脂質を極端に避ける食事全体の量と食品の種類を見直す
レース直前に高脂質食へ変える練習で試した食事を基本にする
油を追加すれば持久力が上がると考える練習・食事全体・睡眠も確認する
脂肪を使う量だけで練習成果を判断するペース、主観的なきつさ、回復も見る

走(かける)
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食事を変えた後に、同じペースがきつくなったり、ポイント練習をこなせなくなったりした場合は、脂質だけでなく糖質や総エネルギーの不足も含めて見直しましょう。

よくある質問

脂質を減らせば、体が軽くなって持久力は上がりますか?

脂質を減らしたことだけで持久力が上がるとはいえません。体重の変化と、必要なエネルギーを摂れているか、練習の質を保てているかをあわせて判断しましょう。

脂肪を使う能力が高ければ、マラソン中の糖質補給はいりませんか?

不要とはいえません。糖質はレースペースの維持に関わるため、走る時間や強度に合わせて準備・補給することが大切です。

高脂質食とケトジェニック食は同じですか?

同じではありません。ケトジェニック食は、糖質を大幅に制限してケトーシスを目指す食事です。魚やナッツ、調理油を日常の食事に取り入れることとは区別しましょう。

脂質は毎食、同じ量を摂る必要がありますか?

毎食同じにする必要はありません。走る時間、食べやすさ、1日の食事全体を見ながら調整しましょう。

まとめ|脂質も糖質も使える食事で持久力を支える

 脂質はランニングのエネルギー源であり、日々の食事にも必要な栄養素です。ただし、脂質を多く摂ることや脂肪利用を増やすことが、そのまま記録向上につながるとは限りません。

 

走(かける)
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持久力を伸ばしたいときは、脂質を極端に減らさず、練習に必要な糖質と総エネルギーを確保しましょう。脂質だけに注目せず、続けられる練習と食事の組み合わせを整えることが大切です。

参考文献

  1. International Society of Sports Nutrition. International society of sports nutrition position stand: ketogenic diets. J Int Soc Sports Nutr. 2024;21(1):2368167.
  2. Lowery LM. Dietary Fat and Sports Nutrition: A Primer. J Sports Sci Med. 2004;3(3):106–117.
  3. Purdom T, et al. Understanding the factors that effect maximal fat oxidation. J Int Soc Sports Nutr. 2018;15:3.
  4. Burke LM, et al. Crisis of confidence averted: Impairment of exercise economy and performance in elite race walkers by ketogenic low carbohydrate, high fat (LCHF) diet is reproducible. PLoS One. 2020;15(6):e0234027.
  5. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版).
  6. 厚生労働省. 脂肪/脂質.
  7. Kerksick CM, et al. International society of sports nutrition position stand: nutrient timing. J Int Soc Sports Nutr. 2017;14:33.
  8. Relationship Between Training Status and Maximal Fat Oxidation Rate. J Sports Sci Med. 2010;9:31–35.