
「夏にランニングすると、いつもより筋肉痛が強い気がする」
「暑い日は筋肉にもダメージが入りやすいの?」
「大量に汗をかくと筋肉痛になりやすい?」
夏場のランニングでは、涼しい季節と同じ距離やペースでも、脚が重く感じたり、翌日に強い疲労感が残ったりすることがあります。
そのため、「暑さによって筋肉が傷ついているのでは?」と感じるランナーもいるでしょう。
しかし、現在の研究では、暑い環境そのものによって筋肉の損傷が必ず大きくなるとは言えません。
一方で夏場は、
- 体温上昇
- 発汗量の増加
- 脱水
- 心拍数の上昇
- 循環負担の増加
- エネルギー消費の変化
などが重なり、同じランニングでも身体への負担が大きくなります。
特に、高体温に脱水が重なると筋肉痛が強くなる可能性を示した研究もあります。
この記事では、夏に筋肉痛が強く感じやすい理由や、暑さ・脱水と筋肉ダメージの関係、夏場のランニングで注意したいポイントを研究をもとに解説します。
夏は筋肉痛になりやすい?

最初に結論をいうと、「夏だから筋肉痛になりやすい」と一概には言えません。
ただし、暑い環境では体温調節のために発汗量が増え、脱水や循環負担も大きくなります。
そこへ、
- 長時間のランニング
- 高強度トレーニング
- 下り坂
- 慣れていない運動
- 筋力トレーニング
など、もともと筋肉痛を起こしやすい刺激が加わることで、運動後の筋肉痛や疲労感が強くなる可能性があります。

そのため、暑さそのものが筋肉を傷つけるというより、暑熱環境によって運動時の生理的負担が大きくなると考えた方が適切です。
筋肉痛と筋肉ダメージは同じではない

夏の筋肉痛を考えるうえで、まず知っておきたいのが、筋肉痛の強さ=筋肉が壊れた量ではないということです。
運動後、数時間から数日遅れて現れる痛みは、遅発性筋肉痛(Delayed-Onset Muscle Soreness:DOMS)と呼ばれます。
一方、運動誘発性筋損傷(Exercise-Induced Muscle Damage:EIMD)は、
- 筋力低下
- 可動域低下
- 筋肉の腫脹
- CK(クレアチンキナーゼ)などの上昇
- 筋組織の構造的変化
など、複数の指標によって評価されます。
Nosakaらの研究でも、伸張性運動後の筋肉痛の大きさと筋損傷の程度は必ずしも一致しないことが示されています。
つまり、「筋肉痛が強い=筋線維がたくさん壊れている」とは限りません。夏場の筋肉痛についても、「痛み」と「筋損傷」を分けて考えることが重要です。
暑い夏のランニングで身体に起こる変化

ランニングでは、筋肉がエネルギーを使う過程で大量の熱が発生します。
身体は体温が上がりすぎないように、
- 皮膚への血流を増やす
- 発汗する
- 汗を蒸発させる
ことで熱を外へ逃がします。
しかし、気温や湿度が高いほど熱を逃がしにくくなり、さらに大量の汗をかくことで体内の水分が失われます。
十分に水分を補給できなければ脱水が進み、
- 血漿量の低下
- 心拍数の上昇
- 心血管系への負担増加
- 体温調節能力の低下
- 主観的なきつさの増加
- 持久力の低下
などが起こります。

つまり夏場は、ランニングそのものの負担に加えて、体温を下げるための負担も加わるということです。
脱水すると筋肉痛が強くなる可能性がある

暑さと筋肉痛の関係を考えるうえで、興味深い研究があります。
Clearyらは健康な男性10人を対象として、
- 高体温+水分補給
- 高体温+脱水
という条件を比較しました。
参加者は40℃、湿度75%という暑熱環境で運動したあと、下り坂ランニングを行っています。
運動後の体重減少は、
- 水分補給条件:約0.9%
- 脱水条件:約3.3%
でした。
脱水条件:下肢全体の筋肉痛や大腿部の圧痛が強くなった

この研究からは、高体温に脱水が重なることで、運動後の筋肉痛が強くなる可能性が考えられます。
ただし、この研究は10人という小規模な研究です。また、筋肉痛が強くなったことから、「脱水すると筋線維の損傷量そのものが増える」とまで断定することはできません。
暑いほど筋肉にダメージが入りやすいとは限らない

ここは夏の筋肉痛を考えるうえで重要です。
Oliveiraらは、同じ男性ランナー26人が走ったマラソンを、
- 約31.4℃の暑熱環境
- 約19.8℃の比較的涼しい環境
で比較しました。
暑い条件ではマラソンの記録が約13.5%低下し、水分・電解質バランスや腎機能関連指標、酸化ストレスなどにも大きな影響がみられました。
ところが、筋損傷の指標として評価されたCKやLDHについては、暑い環境で明確に大きくなるという結果ではありませんでした。
つまり、暑いとランニングパフォーマンスは低下しやすいものの、必ずしも筋損傷まで増えるわけではないということです。

「暑い日のランニングはきつい」ことと、「暑い日は筋肉が壊れやすい」ことは分けて考える必要があります。
夏のマラソンでは筋損傷マーカー自体は増える

一方で、暑い環境で長時間走れば筋肉への負担がなくなるわけではありません。
暑熱環境でマラソンを走ったランナーを調べた研究では、運動後にCKやLDHなどの筋損傷に関連する血液マーカーが大きく上昇しています。
研究ではCKが平均で、約174 U/L → 約1160 U/Lまで増加
※ただし、この研究には涼しい環境で走った対照条件がありません。
そのため分かるのは、「暑い環境でマラソンを走ったあとに筋損傷マーカーが上昇した」ということまでです。
マラソンそのものが大きな筋骨格系への負荷であるため、暑かったことが原因で筋損傷が増えたとは断定できません。
筋肉の温度が高いと筋肉が傷つきやすい?

「夏は筋肉の温度が高くなるから、筋線維が傷つきやすい」と思うかもしれません。しかし、この説明を裏付ける一貫した研究結果はありません。
筋温を上昇させた状態で伸張性運動を行った研究をまとめたレビューでも、事前に筋肉を温めたことで筋損傷が明らかに増えるとは確認されていません。
逆に、運動前の温熱刺激によって、運動後の筋力低下が軽減された研究もあります。
筋温が高い=筋肉が壊れやすいとは言えません。

夏場の暑熱環境による全身への負担と、筋肉そのものを温めることは分けて考えましょう。
夏は筋グリコーゲンを多く使いやすい

暑い環境では、ランニング中のエネルギー代謝にも変化が起こります。
2025年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、51研究・502人を対象として、暑熱や脱水と糖質代謝の関係が検討されました。
その結果、暑熱環境では比較的涼しい環境より、
- 糖質酸化量が増える
- 筋グリコーゲン利用量が増える
傾向が示されています。脱水条件でも糖質利用量が増加する傾向が報告されています。
ただし、筋グリコーゲンを多く使う=筋肉が損傷するという意味ではありません。
夏場はランニング中の代謝的な負担も大きくなりやすいため、
- 運動前後の糖質摂取
- 水分補給
- 運動後の回復
をより意識する必要があります。
夏のランニングは同じペースでもきつくなる

暑い日に、「いつものペースなのにやけにきつい」と感じるのは珍しいことではありません。
暑熱環境では、
- 心拍数
- 体温
- 発汗量
- 循環負担
- 主観的運動強度
などが増加します。
つまり、同じ1km5分でも、夏と冬では身体にとって同じ負荷とは限りません。

暑い日に涼しい季節と同じペースを無理に維持しようとすると、相対的な運動強度が高くなります。
特に、
- イージーラン
- ロングラン
- リカバリーラン
では、設定ペースだけではなく、
- 心拍数
- 呼吸
- 主観的なきつさ
- 暑さ
- 発汗量
なども確認しながら調整しましょう。
汗で塩分やミネラルが減ると筋肉痛になる?

夏場は大量の汗をかくため、「塩分やマグネシウムが不足して筋肉痛になる」と思われることがあります。
確かに、汗によって、
- ナトリウム
- 塩化物
- その他の電解質
が失われます。
そのため、長時間のランニングでは水分だけでなく電解質補給が必要になる場合があります。
しかし、電解質不足がDOMSの直接的な原因になるという十分な根拠はありません。したがって、汗をかく → ミネラル不足 → 筋肉が壊れる → 筋肉痛になると説明するのは単純化しすぎです。
夏のランニングで筋肉への負担を減らす方法

夏場は「筋肉痛だけを予防する」のではなく、暑熱による身体全体への負担を管理することが重要です。
暑さに徐々に身体を慣らす
暑い環境で運動を繰り返すことで、身体は徐々に暑さへ適応します。
これを暑熱順化といいます。
暑熱環境で運動するアスリートを対象としたコンセンサスでは、重要な対策として暑熱順化が推奨されています。
一般的には1〜2週間程度かけて暑熱環境への曝露を繰り返すことで、
- 発汗反応の改善
- 循環負担の軽減
- 体温調節能力の改善
- 運動時の体温上昇の抑制
などの適応が起こります。
夏になった直後から、長時間・高強度の練習をいきなり行うのは避けましょう。
脱水を進めすぎない
夏場はランニング開始前から水分状態を整えておくことが重要です。特に長時間走る場合は、運動中にも状況に合わせて水分を補給します。
※ただし、発汗量には大きな個人差があります。
そのため、「全員が同じ量を飲めばよい」という考え方ではなく、自分の発汗量や運動時間、気象条件に合わせて調整することが大切です。
涼しい季節と同じペースにこだわらない
夏場は、涼しい季節と同じペースを維持する必要はありません。
特にイージーランやロングランでは、ペースより運動強度を合わせるという考え方が重要です。
暑い日にペースが落ちても、それだけで走力が低下したとは判断できません。
高負荷トレーニングを重ねすぎない
夏場は暑熱によるストレスに加えて、
- ロングラン
- インターバル走
- 坂道トレーニング
- 筋力トレーニング
などを重ねると、身体への総負荷が大きくなります。

特に慣れていない下り坂や高負荷筋力トレーニングは筋肉痛を起こしやすいため、トレーニング全体のバランスを考えましょう。
ランニング後に水分・糖質・たんぱく質を補給する
夏場は発汗による水分損失だけでなく、糖質利用量も増えやすくなります。
運動後は、
- 水分
- 必要に応じた電解質
- 糖質
- たんぱく質
を摂取し、次のトレーニングに向けて回復を促しましょう。
夏に筋肉痛が強いときの対処法

筋肉痛が強く残っている場合、予定どおりに高強度トレーニングを行う必要はありません。
- ランニング強度を下げる
- 短時間の軽い運動に変更する
- インターバル走などを延期する
- 十分な睡眠をとる
- 水分と栄養を補給する
などで回復を優先します。
夏場は筋肉そのものの疲労だけではなく、暑熱による全身疲労も重なっている可能性があります。

「予定したメニューをこなすこと」より、身体の状態に合わせてトレーニングを調整することを優先しましょう。
夏の筋肉痛に関するよくある質問
夏は筋肉痛になりやすいですか?
ただし、高体温に脱水が重なった条件では、運動後の筋肉痛が強くなった研究があります。
暑い日は筋肉が壊れやすくなりますか?
脱水すると筋肉痛になりますか?
汗で塩分が減ると筋肉痛になりますか?
夏はランニングのペースを落とすべきですか?
まとめ|夏は「暑さ」より暑熱ストレスを管理しよう
夏場のランニングは、涼しい季節より身体への負担が大きくなります。
しかし、暑いから筋肉が壊れやすくなると単純に説明することはできません。
現在の研究を整理すると、
暑熱環境
↓
体温上昇・発汗量増加
↓
脱水・循環負担・代謝負担の増加
↓
ランニング中の生理的ストレス増加
という流れで考えるのが適切です。
特に高体温に脱水が重なると、運動後の筋肉痛が強くなる可能性があります。一方で、暑い環境でランニングを行っても、涼しい条件より筋損傷そのものが大きくなるとは限りません。
夏場は、「筋肉を壊さないために暑さを避ける」というより、暑熱による全身へのストレスを適切に管理することが重要です。

暑さに徐々に慣れ、脱水を進めすぎず、その日の気温や体調に合わせてランニングのペースや距離を調整していきましょう。
参考文献
- Cleary MA, et al. Dehydration and symptoms of delayed-onset muscle soreness in hyperthermic males. Journal of Athletic Training. 2006;41(1):36-45.
- Nosaka K, Newton M, Sacco P. Delayed-onset muscle soreness does not reflect the magnitude of eccentric exercise-induced muscle damage. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2002;12(6):337-346.
- Owens DJ, Twist C, Cobley JN, Howatson G, Close GL. Exercise-induced muscle damage: What is it, what causes it and what are the nutritional solutions? European Journal of Sport Science. 2019;19(1):71-85.
- Racinais S, et al. Consensus recommendations on training and competing in the heat. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2015;25(Suppl 1):6-19.
- Trangmar SJ, González-Alonso J. Heat, hydration and the human brain, heart and skeletal muscles. Sports Medicine. 2019;49(Suppl 1):69-85.
風を切るランニング 
