ランナーは風邪を引きやすい?原因と予防のための7つの対策

ハジメ
ハジメ

「走り込む時期になると風邪を引く」

「マラソン大会の後に、のどが痛くなる」

 

 そんな経験から、ランニングは免疫力を下げるのではないかと心配する人もいるでしょう。

 ただし、ランナーだから一律に風邪を引きやすいとはいえません。 運動後の体調不良を考えるときは、練習の負担だけでなく、睡眠・食事・人との接触、そして感染以外の原因も確認する必要があります。

 この記事では、市民ランナーに向けて、研究から分かっていることと、まだ断定できないことを分けながら、風邪のリスクを減らす方法を解説します。完全に風邪を防ぐ方法はありませんが、見直せる習慣はあります。

ランナーは本当に風邪を引きやすい?

運動習慣がある人ほど風邪の症状が少なかった研究もある

研究1

 成人1,002人を12週間追跡した研究では、有酸素運動を週5日以上行うと回答した人は、週1日以下の人より、上気道感染症状のある日数が43%少ないという結果でした。

 ただし、これは観察研究です。運動の頻度や症状は自己申告で、運動以外の生活習慣の違いも関係し得ます。「週5日走れば風邪を43%防げる」という意味ではありません。

 少なくとも、健康づくりのための運動と、回復が追いつかないほどの練習を同じものとして扱うべきではないでしょう。

激しい運動で「免疫力が落ちる」とは単純にいえない

 以前から、激しい運動後には一時的に感染しやすくなるという「オープンウィンドウ仮説」が知られています。

研究2

 しかし、2018年のレビューは、この説明を支持する根拠の限界を指摘しています。運動後に血液中のリンパ球が減る現象は、免疫細胞が別の組織へ移動していることでも説明でき、血液中の細胞数の低下が、そのまま身体全体の防御能力の低下を意味するわけではありません。

 一方で、この議論は「どれだけ走り込んでも体調に影響しない」と証明したものでもありません。免疫の検査値、風邪に似た症状、検査で確認された感染症は、区別して読む必要があります。

ランナーが風邪を引きやすいと感じる背景

1.練習の負担と回復のバランスが崩れている

研究3

 2022年のシステマティックレビューは、48研究・19,390人のアスリートを対象に、急性呼吸器疾患のリスク要因を整理しました。練習負荷の単調さ、持久系トレーニング、テーパリングの不足、冬季の練習、海外移動などとの関連が報告されています。

 ただし、練習量との関連は研究によって一致せず、感染が確認されていない症状も含まれます。風邪を引くかどうかを、月間走行距離だけで判断することはできません。

 市民ランナーでは、「忙しい平日に睡眠を削って走り、週末も強い練習を重ねる」といった生活全体を点検することが実用的です。

2.睡眠不足が続いている

研究4

 健康な成人164人の睡眠を測定した後、風邪の原因となるライノウイルスに曝露した研究では、睡眠時間が短い人ほど風邪を発症しやすい関連が認められました。7時間を超えて眠る群に対し、5~6時間の群の発症オッズ比は4.24でした。

 これは睡眠時間を無作為に割り付けた研究ではなく、推定値の幅も大きいため、「6時間以下なら必ず4倍風邪を引く」とはいえません。それでも、練習時間を増やすために睡眠を削る習慣は、見直す価値があります。

3.練習量に食事が追いついていない

 走る量が増えても食事量を変えなかったり、減量のために主食を大きく減らしたりすると、練習と回復に必要な栄養を確保しにくくなります。

IOC

 問題となるエネルギー不足が続くことで健康やパフォーマンスに影響する状態は、REDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)として整理されています。

研究5

 ただし、「食事が少ないから免疫が抑制され、風邪を引いた」と個人の原因を断定することはできません。 アスリートの食事条件と、実際の感染発症を直接結び付ける証拠には限界があります。まずは栄養不足を避けることが基本です。

4.大会や移動で人と接する機会が増える

 風邪はウイルスによる感染症です。大会後に発症したとしても、走ったことだけが原因とは限りません。

 大会前後には、電車・バス、受付、更衣室、宿泊施設など、人と近い距離で過ごす場面があります。疲労対策とあわせて、こうした場面での感染対策も考えましょう。

5.風邪ではなく、気道への刺激やアレルギーの場合もある

研究6

 走った後の鼻水や咳は、必ずしも感染によるものではありません。IOCの声明でも、アスリートの呼吸器症状には、アレルギー性・非アレルギー性鼻炎、運動に関連した気道の問題などが含まれると整理されています。

 例えば、寒く乾いた日に走ると咳が出る、花粉の多い時期に鼻水や目のかゆみが出る、運動のたびにゼーゼーする場合は、風邪以外の原因も考える必要があります。

 症状だけでは確実に見分けられません。繰り返す場合は「自分は免疫力が低い」と決めつけず、医療機関へ相談してください。

ランナーが風邪のリスクを減らすための7つの対策

1.睡眠を削らずに練習時間を決める

成人の睡眠時間に関する学会共同声明

 成人では、日常的に7時間以上の睡眠が推奨されています。ただし、必要な時間には個人差があります。時間だけでなく、起床時の回復感や日中の眠気も確認しましょう。

 実践例は、次のとおりです。

  • 寝る時刻が遅くなった翌朝は、朝ランを短縮・中止する。
  • 早朝のロング走を予定するなら、前夜の予定も調整する。
  • 夜の練習で就寝が遅れるなら、距離や開始時刻を見直す。

楓(かえで)
楓(かえで)

「予定の距離を走れたか」と同じように、「眠る時間を確保できたか」も振り返りましょう。

2.強い練習を重ねず、体調に応じて軽くする

 毎日同じように頑張るのではなく、負荷の高い日と軽い日を分けます。走力にかかわらず、睡眠不足や強い疲労がある日は、予定を変更してかまいません。

 以下は、日常の負担を減らすための調整例です。特定の変更量で風邪を予防できると検証された処方ではありません。

その日の状態練習の調整例
寝不足で身体が重いインターバル走を中止し、休養か短い軽運動へ変更
ロング走後の疲労が強い翌日の距離を減らす、または休む
仕事や家庭の負担が大きいその週の練習回数・時間を減らす
新しいのどの痛みや体調不良がある追い込まず、休養して経過を確認する

 休んだ分を翌日にまとめて取り戻そうとせず、その時点の体調から組み直します。

3.主食・主菜を確保し、極端な食事制限を避ける

 特定の「免疫によい食品」だけを増やすより、日々の食事全体を整えましょう。

 主食にはご飯・パン・麺類など、主菜には魚・肉・卵・大豆製品などを取り入れ、野菜や果物も組み合わせます。走った後に食欲がない場合は、おにぎりとヨーグルトなど、食べやすい補食を使う方法もあります。

 これらは食事を整える実践例であり、食品の組み合わせ自体に風邪の予防効果が証明されているわけではありません。体重を落とす時期と走り込む時期が重なっていないかも確認してください。

4.長時間の練習では補給を我慢しない

 ロング走などでは、練習時間や強度、胃腸の状態に合わせて、走る前・途中・後の補給を準備します。補給食を持たずに出発して毎回エネルギー切れになるなら、練習計画と一緒に見直しましょう。

研究5

 糖質補給によって運動時のストレス反応や免疫関連の指標が変わることはありますが、それだけで風邪の発症を防げるとはいえません。補給はまず、練習を支え、回復に必要な栄養を確保するためのものです。

5.手洗い・換気・混雑時の対策を組み合わせる

CDC

 呼吸器感染症の対策では、手洗い、屋内の空気環境の改善、体調不良時に周囲との接触を控えることなどが基本になります。混雑した屋内などでは、顔に合ったマスクも追加の対策です。

 ランナーなら、次のように日常の行動へ落とし込めます。

  • 補給食や食事を取る前に手を洗う。
  • 更衣室や宿泊先では、可能な範囲で換気する。
  • 混雑する移動中や受付では、状況に応じてマスクを使う。
  • 風邪症状があるときは、集団練習への参加を控える。

 インフルエンザや新型コロナなどについては、年齢・持病・国内の案内に応じてワクチン接種も確認します。これらのワクチンが一般的な風邪すべてを防ぐわけではありません。

6.寒さや乾燥への対策を、感染対策と分けて行う

 汗で濡れたウェアは着替え、寒い日は上着を準備します。これは、運動後の冷えを避けて快適に過ごすために役立ちます。

 ただし、「汗冷えをしたからウイルス感染が起こる」という単純な関係ではありません。着替えだけで風邪を防げるわけではないため、睡眠や食事、人との接触への対策も必要です。

研究6

 冷たく乾いた空気で咳が出る場合は、強度を落とす、時間帯や運動場所を変えるといった調整を検討します。毎回症状が出る場合は、気道の状態について相談してください。

7.体調を短く記録し、繰り返すパターンを探す

 走行距離と一緒に、睡眠時間、疲労感、食欲、鼻やのどの症状を記録してみましょう。大会・移動・周囲の体調不良も残しておくと、相談時の手掛かりになります。

 「長く走った翌日」だけでなく、「寝不足が続いた週」「移動が多かった時期」「花粉が多い日」など、症状が出る状況を振り返ります。

 記録だけで原因や免疫状態を診断することはできません。心拍数などの数値も単独で判断せず、自覚症状とあわせて練習を調整してください。

ビタミンCやサプリメントで風邪を防げる?

研究7

 ビタミンCに関する2013年のコクランレビューでは、一般集団での習慣的な摂取に、明確な風邪の発症予防効果は認められませんでした。

 一方、マラソンランナーやスキーヤー、寒冷地で活動する兵士など、短期間に厳しい身体的負荷を受けた人を対象とする5試験・598人では、風邪のリスク低下が報告されています。

 これは限られた条件の研究であり、普段ジョギングする人全員に同じ効果があるとはいえません。また、風邪を引いてから摂取を始めた試験では、症状の期間や重さに一貫した効果はありませんでした。

楓(かえで)
楓(かえで)

サプリメントを飲めば、寝不足や無理な練習を補えるわけではありません。 不足が疑われる栄養素や食事制限がある場合は、自己判断で大量摂取する前に、医師や管理栄養士へ相談しましょう。

 

風邪気味でもランニングしてよい?

「首より上の症状なら走ってよい」と決めつけない

研究8

 鼻水やのどの痛みなど、首より上だけの症状なら運動してよいという「ネックチェック」が知られています。しかし、そのルールの妥当性を支持する科学的根拠は十分ではありません。

 症状の部位だけでなく、全身状態や普段との違いを確認する必要があります。発症直後は、その後に症状が強くなる可能性もあるため、少なくとも高強度の練習やロング走は控えましょう。

発熱や強いだるさがある日は走らない

 発熱、悪寒、強い全身のだるさ、胸の症状などがあるときは、ランニングを中止します。解熱鎮痛薬で症状を隠して、予定の練習やレースをこなそうとしないでください。

研究9

 運動中の胸痛、普段と違う息切れ、動悸、めまいなども中止して評価を受ける理由になります。

回復後は短い軽運動から段階的に戻す

 症状が改善し、発熱や全身症状がなく、日常生活を無理なく送れる状態になってから、軽い運動で反応を確認します。重い症状があった場合や持病がある場合は、再開前に医療者へ相談してください。

研究9

 IOCの声明では、再開時に10~20分程度の運動で反応を確認し、運動中だけでなく、その後や翌日も観察する考え方が示されています。

 市民ランナーなら、まず短い散歩や、ごく楽なジョギングから様子を見る方法が考えられます。異常な疲労、息切れ、動悸、症状の悪化があれば中止し、問題がなければ段階的に時間と強度を戻します。集団練習への復帰は、周囲へ感染させる可能性も考えて判断しましょう。

医療機関へ相談した方がよい症状

 

楓(かえで)
楓(かえで)

安静時にも息苦しい、強い胸痛がある、意識がおかしい場合は、風邪と自己判断せず、速やかに救急相談・受診をしてください。

 また、次のような場合も受診を検討します。

  • 水分が取れないなど、脱水が疑われる。
  • 発熱が4日を超えて続く。
  • 10日を超えても症状が改善しない。
  • 一度よくなった発熱や咳が、再び悪化する。
  • 持病の症状が悪化している。

 これらは相談の目安であり、日数が短ければ待ってよいという意味ではありません。症状が強い場合や重症化リスクがある人は、早めに相談してください。

 

楓(かえで)
楓(かえで)

運動のたびに咳やゼーゼーする呼吸が出る、何度も「風邪」を繰り返す場合も、感染以外の原因を含めて確認することが大切です。

今日から見直すためのチェックリスト

  • □ 練習のために睡眠時間を削っていない。
  • □ 疲労が強い日は、予定を軽くするか休める。
  • □ 走る量に見合う食事と補給を確保している。
  • □ 食前の手洗い、屋内の換気を行っている。
  • □ 大会や移動中の混雑への対策を考えている。
  • □ 新しい体調不良がある日は、追い込まない。
  • □ 繰り返す咳や鼻水を、すべて風邪と決めつけていない。

※本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別の診断や治療、競技復帰の許可に代わるものではありません。