
「ランニングウォッチに表示される上下動は、何cmならよいの?」
「上下動が大きいと、エネルギーを無駄にしている?」
ランニングフォームを確認していると、身体が上下へ動く「上下動」が気になることがあります。
上下動が小さいランナーは、同じ速度でも少ないエネルギーで走れる傾向があります。しかし、上下動は小さければ小さいほどよいわけではなく、全ランナーに共通する理想値も決まっていません。
無理に身体を低く保とうとすると、フォームが窮屈になったり、かえって走りにくくなったりする可能性もあります。
本記事では、市民ランナーに向けて、
- ランニングにおける上下動の意味
- 上下動と上下動比の目安・見方
- ランニングエコノミーとの関係
- 上下動が大きくなる主な要因
- 上下動を無理なく抑える方法
を科学的根拠に基づいて解説します。
ランニングの上下動とは
ランニングの上下動とは、走っているときに身体が上下方向へ移動する大きさです。
研究では身体重心の上下方向への移動を測ることがあります。一方、Garminなどのウェアラブル機器では、胸部や腰部に装着したセンサーなどから体幹の上下方向への移動を推定し、一般的にcm単位で表示します。
歩行では左右どちらかの足が常に地面に接していますが、ランニングには両足が地面から離れる局面があります。そのため、走るためには一定の上下動が必要です。

つまり、上下動そのものは悪い動きではありません。確認したいのは、前へ進む距離に対して上下方向への移動が過度に大きくなっていないかです。
上下動と上下動比の違い

ランニングウォッチでは、「上下動」と「上下動比」が別の項目として表示されることがあります。
| 指標 | 意味 | 表示例 |
|---|---|---|
| 上下動 | 1歩ごとの体幹の上下方向への移動量 | 8.5cm |
| 上下動比 | 上下動を歩幅で割った割合 | 7.7% |
上下動比は、次の式で計算されます。
上下動比(%)=上下動(cm)÷歩幅(cm)×100
たとえば、上下動が8.5cm、歩幅が110cmの場合、上下動比は約7.7%です。
同じ8.5cmの上下動でも、歩幅が90cmなら上下動比は約9.4%になります。上下動だけでは前へどれだけ進んだかを考慮できないため、走りの効率を考えるときは上下動比も併せて確認するとよいでしょう。
ただし、上下動比も速度、坂道、疲労、路面、シューズなどの影響を受けます。1回の数値だけでフォームの良し悪しを判断する指標ではありません。
ランニングの上下動の目安
全ランナーに共通する医学的・生理学的な「正常値」や「理想値」は確立されていません。
参考として、Garminは自社で収集したランナーのデータをもとに、上下動と上下動比をパーセンタイルで色分けしています。
| 色分け | 上下動 | 上下動比 |
| 紫 | 6.4cm未満 | 6.1%未満 |
| 青 | 6.4~8.1cm | 6.1~7.4% |
| 緑 | 8.2~9.7cm | 7.5~8.6% |
| オレンジ | 9.8~11.5cm | 8.7~10.1% |
| 赤 | 11.5cm超 | 10.1%超 |
| 色分け | 上下動 | 上下動比 |
| 紫 | 6.8cm未満 | 6.5%未満 |
| 青 | 6.8~8.9cm | 6.5~8.3% |
| 緑 | 9.0~10.9cm | 8.4~10.0% |
| オレンジ | 11.0~13.0cm | 10.1~11.9% |
| 赤 | 13.0cm超 | 11.9%超 |
この色分けは、ほかのランナーと比較した分布です。「緑なら正常」「赤ならフォームを直さなければならない」という基準ではありません。
また、Garminの資料でも、身長が高いランナーは歩幅と上下動がやや大きくなる傾向が示されています。センサーを胸と腰のどちらに装着するかによっても、表示される範囲が異なります。
上下動は、次の条件をできるだけそろえて比較します。
- 同じ機器・同じセンサーを使用する
- 似たペースで走る
- 平坦なコース同士で比べる
- 同じようなシューズを使用する
- 短い区間ではなく一定時間の平均を見る
- 1回ではなく数週間の傾向を確認する
ウェアラブル機器4種類と動画解析を比較した研究では、各機器は上下動の変化を捉える再現性を示した一方、機器ごとの測定値には有意な差がありました。

そのため、友人の数値や別メーカーの機器と単純に比べるより、自分が同じ機器で測定した過去のデータと比較する方が実践的です。
上下動が小さいとランニングエコノミーはよくなる?

ランニングエコノミーとは、一定の速度で走るために必要な酸素量またはエネルギー量を表す指標です。
同じ速度をより少ないエネルギーで維持できるランナーは、ランニングエコノミーがよいと考えられます。
2024年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、51研究、合計1,115人のデータが検討されました。
その結果、身体の上下方向への移動が小さいことは、酸素・エネルギーコストが低いことと中程度に関連していました(r=0.35)。
身体を大きく上へ持ち上げるには、重力に逆らう仕事が必要です。そのため、前へ進む速度が同じであれば、過度な上下動がエネルギーコストの増加に関係するという説明には力学的な妥当性があります。
ここで注意したいのは、この結果が主に観察研究のまとめであることです。
上下動が小さいランナーほどランニングエコノミーがよい傾向は示されていますが、上下動を意識的に減らせば、誰でも同じだけランニングエコノミーが改善するとは証明されていません。
同レビューでは、個々のバイオメカニクス変数が単独で説明できるランニングエコノミーの個人差は4~12%でした。ランニングエコノミーには、上下動以外にも、
- 心肺・代謝特性
- 筋腱の特性
- トレーニング歴
- 走速度
- シューズ
- 体格
- 複数のフォーム要素の組み合わせ
などが関係します。

したがって、上下動はランニングエコノミーを考える一つの指標ですが、上下動の数値だけで走力やフォーム全体を評価することはできません。
上下動が大きくなる主な要因

上下動は一つの動作だけで決まるわけではありません。次のような要因が組み合わさって変化します。
走速度が変わると、歩幅、ピッチ、接地時間、滞空時間も変わります。したがって、イージーランとペース走の上下動をそのまま比較するのは適切ではありません。
上下動が変わらなくても、速度が上がって歩幅が伸びれば上下動比は低くなる場合があります。
同じ速度でピッチが低い場合、1歩あたりの時間や歩幅が大きくなります。ランナーによっては滞空時間が長くなり、上下動が増える可能性があります。
ただし、低いピッチが必ず悪いわけではありません。身長、脚の長さ、速度、経験によって自然なピッチは異なります。
蹴り上げる意識が強すぎると、身体を前方より上方へ運ぶ割合が増える場合があります。
一方で、ランニングには地面から反発を得て前へ進む動きが必要です。「地面を蹴らない」「跳ばない」と極端に意識すると、自然な走りを妨げる可能性があります。
上半身や肩に力が入り、腕を上方向へ大きく振ると、体幹の上下動が目立つことがあります。疲労によってフォームが変化し、同じペースでも数値が変わる場合もあります。
身長、脚長、センサーの装着位置、使用機器によっても上下動は変わります。自分の努力では変えられない要因も含まれるため、他人との単純比較には注意が必要です。
ランニングの上下動を抑える方法

1.最初に同じ条件で基準値を確認する
いきなりフォームを変えず、まずは平坦なコースで普段どおり走り、次の数値を記録します。
- ペース
- 上下動
- 上下動比
- ピッチ
- 歩幅
- 心拍数
- 主観的な走りやすさ
数値が高くても、痛みがなく、ペースと心拍数が安定し、快適に走れているのであれば、すぐに修正が必要とは限りません。
2.ピッチを少しだけ高める
上下動が大きく、1歩が長すぎる感覚がある場合は、同じ速度を保ったままピッチをわずかに高める方法を試せます。
最初は現在のピッチから約3~5%増を目安に、30秒~2分程度の短い区間で確認します。
たとえば普段のピッチが160spmなら、165spm前後から試します。メトロノームやウォッチのアラートを利用すると調整しやすくなります。
2024年のメタ解析では、高いピッチは良好なランニングエコノミーと弱く関連していました(r=−0.20)。
また、20人の健康なランナーを対象とした実験では、ピッチを高める条件と上下動を抑えるよう指示した条件の両方で、垂直方向の負荷率と最大垂直地面反力が低下しました。

ただし、全員が180spmを目指す必要はありません。ピッチを急に上げると、呼吸が乱れる、脚だけが忙しくなる、ふくらはぎが張るといった変化が起こる場合があります。
3.「上へ跳ぶ」より「前へ進む」感覚を試す
走るときは、頭を無理に低く保つのではなく、
- 身体全体を過度に上下へ跳ねさせない
- 接地した足の上を身体が滑らかに通過する
- 肩と腕の力を抜く
- 足音を大きくしすぎない
といった感覚を短い区間で試します。
フォームの合図は人によって反応が異なります。上下動が下がっても、ペースが落ちる、心拍数が上がる、走りにくくなる場合は、その合図が自分に合っていない可能性があります。
イージーラン後に、平坦で安全な場所を使い、60~100m程度の流しを数本行います。
全力疾走ではなく、徐々に速度を上げながら、
- 力まずにピッチを上げる
- 身体の真下に近い位置で接地する
- 腰が落ちすぎない
- 前へ滑らかに進む
ことを確認します。
流しは上下動だけを直接改善すると証明された方法ではありませんが、短時間で動きの感覚を確認しやすい練習です。
ランニングエコノミーの改善には、高負荷筋力トレーニングやプライオメトリックトレーニングが役立つ可能性があります。
例として、
- スクワット
- スプリットスクワット
- カーフレイズ
- 軽いホッピング
- 短いジャンプ系ドリル
などがあります。
ただし、これらは「上下動の数値を下げるためだけ」に行うものではありません。筋力や腱の特性を高め、走行中に力を効率よく伝えるための補助トレーニングとして考えます。
初心者は自重や少ない回数から始め、強い筋肉痛や痛みを残さないようにしてください。
フォームを調整したら、同じペースで次の変化を確認します。
- 上下動と上下動比がどう変わったか
- 心拍数が上がっていないか
- 主観的に楽になったか
- ペースを維持しやすいか
- 足音や衝撃感が変わったか
- 痛みや違和感が出ていないか

目標は上下動の最小値を更新することではなく、無理のないフォームで一定のペースを効率よく維持することです。
上下動を抑えるときの注意点

上下動を小さくしようとして膝や股関節を曲げた姿勢を続けると、下肢の筋活動が増え、かえって疲れやすくなる可能性があります。
180spmは全ランナー共通の基準ではありません。現在のピッチ、速度、体格に合わせて少しずつ調整します。
上下動が下がっても、歩幅が極端に短くなり、上下動比、ペース、心拍数、走りやすさが悪化する場合があります。複数の指標をまとめて確認してください。
痛みの原因は、トレーニング量、回復不足、筋力、関節可動域、既往歴など多因子です。上下動の数値だけを原因と決めつけないでください。

痛みが続く場合や走るほど悪化する場合は、ランニングを中止または調整し、必要に応じて医療機関やスポーツ分野に詳しい専門家へ相談しましょう。
よくある質問
全ランナー共通の理想値はありません。Garminの胸部センサーでは8.2~9.7cm、腰部センサーでは9.0~10.9cmが中央付近の色分けですが、これは正常値ではなく利用者分布に基づく参考値です。
同じ機器・同じペース・似たコースで自分の推移を確認してください。
上下動が小さいことは良好なランニングエコノミーと関連しますが、低いほど必ず優れているわけではありません。走るためには一定の上下方向への動きが必要です。
無理に低く走るより、ペース、心拍数、上下動比、走りやすさをまとめて評価します。
両方を確認します。上下動比は歩幅を考慮できるため、前へ進む距離に対して上下へどれだけ動いたかを把握しやすい指標です。
ただし、速度が変われば歩幅も変わるため、異なるペース同士を単純に比較しないようにしましょう。
必ず速くなるとは限りません。上下動とランニングエコノミーには関連がありますが、意識的に上下動を減らす介入によって長期的に記録が向上するかは十分に分かっていません。
フォーム変更は短い区間から試し、同じペースで心拍数や主観的な楽さが改善するか確認します。
まとめ
ランニングの上下動は、走行中に身体が上下方向へ移動する大きさです。
研究では、上下方向への移動が小さいランナーほど、同じ速度で必要な酸素・エネルギー量が少ない傾向が示されています。一方、上下動はランニングエコノミーを決める一要素であり、全員に共通する理想値はありません。
市民ランナーは、
- 同じ機器と似た条件で測定する
- 上下動と上下動比を併せて見る
- 他人ではなく自分の推移を比較する
- 必要ならピッチを3~5%程度だけ高めて試す
- 数値だけでなく心拍数と走りやすさも確認する
という方法が実践しやすいでしょう。

上下動をゼロへ近づけるのではなく、前へ滑らかに進み、無理なくペースを維持できるフォームを探すことが大切です。
参考文献
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- Adams D, Pozzi F, Willy RW, Carrol A, Zeni J. Altering Cadence or Vertical Oscillation During Running: Effects on Running Related Injury Factors. Int J Sports Phys Ther. 2018;13(4):633-642.
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- Garmin. Vertical Oscillation and Vertical Ratio Data. Garmin Running Dynamics.
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