
「フルマラソンを完走するには、どれくらい走ればいいの?」
「30km走はやっておいた方がいい?」
「初心者は何か月前から練習を始めればいい?」
初めてフルマラソンに挑戦するとき、同じような疑問を持つ方は多いと思います。
42.195kmという距離を見ると、「とにかく長い距離を走らないといけない」・「もっと速く走れるようにならないと完走できない」と思ってしまうかもしれません。
しかし、完走を目標とする初心者にとって大切なのは、毎回限界まで頑張ることではありません。
まず優先したいのは、無理のないランニングを継続し、長時間動き続けられる身体を段階的に作ることです。
さらにフルマラソンでは、
- ペース配分
- エネルギー補給
- 水分補給
- シューズやウェア
- ロング走
- 大会直前の疲労管理
なども重要になります。
本記事では、初心者がフルマラソンを完走するために必要なトレーニングと考え方を、科学的根拠を踏まえながら解説します。
フルマラソン完走で大切なのは「速さ」だけではない

フルマラソンは42.195kmという非常に長い距離を走る競技です。
特に「まずは完走」が目標なら、短時間だけ速く走る能力よりも、余裕のある強度で長時間動き続けられる能力を優先して鍛える必要があります。
持久系トレーニングを継続すると、骨格筋ではミトコンドリアや酸化系酵素、毛細血管など持久性運動に関係するさまざまな適応が生じます
こうした適応が、長時間走り続けるための土台になります。ただし、初心者が最初から2時間、3時間と走る必要はありません。
20〜30分程度のランニングから始め、
30分
↓
40分
↓
50分
と身体の反応を確認しながら徐々に運動時間を延ばしていきます。
スタート直後は楽に走れていたのに、30kmを過ぎたあたりから急に脚が重くなる。これはフルマラソンでよく経験する現象です。
しかし、「乳酸が溜まったから身体が動かなくなる」と単純に説明することはできません。
マラソン後半のパフォーマンス低下には、
- 筋グリコーゲンの減少
- 筋疲労
- 神経筋疲労
- 筋損傷
- 水分状態
- 暑熱環境
- ペース配分
- エネルギー補給
- 心理的要因
など、複数の要因が関係します。
そのためフルマラソンでは、心肺機能だけを鍛えても十分ではありません。

長時間走る経験を積み、疲労した状態でも動き続けること、そして適切に補給・ペース管理することまで含めて準備する必要があります。
初心者が一番大切にしたいのは「継続」

フルマラソンに向けたトレーニングでは、1回だけ30km走ることよりも、数か月にわたってランニングを継続することが重要です。
ランニングを始めると、心肺機能だけでなく、
- 筋肉
- 腱
- 骨
- 関節周囲組織
にも繰り返し負荷が加わります。
これらの組織がトレーニングへ適応するには時間がかかります。
そのため、「大会まで時間がないから一気に距離を増やそう」という考え方には注意が必要です。

初心者ほど、少し余裕を残して練習を終え、次の練習を継続できることを大切にしましょう。
初心者は何か月前から練習すればいい?

よく、「フルマラソンは3か月前から準備すればいい」・「半年あれば大丈夫」などと言われます。
しかし、初心者は○か月トレーニングすれば完走できるという科学的に確立された期間はありません。
必要な期間は現在の状態によって大きく変わります。
ほとんど運動していない人
まずはウォーキングや短時間のランニングから始める必要があります。
いきなりマラソン専用のトレーニングへ進むより、
歩く
↓
ラン&ウォーク
↓
30分程度走る
↓
週2〜3回走る
↓
走行時間を徐々に延ばす
という段階を踏んだ方が現実的です。
この状態からなら、大会まで半年以上の余裕を持った計画の方が組みやすいでしょう。
※ただし「半年あれば必ず完走できる」という意味ではありません。
すでに週2〜3回走っている人
30〜60分程度のランニングを継続できているなら、その土台を利用してマラソントレーニングへ移行しやすくなります。
そこから数か月かけて、
- ロング走
- 週間走行量
- 補給
- 本番ペース
などを練習していきます。
10km程度を余裕を持って走れる人
すでに一定のランニング習慣があるなら、
- ロング走を延ばす
- 本番用の補給を試す
- マラソンペースを確認する
- 大会前にテーパリングする
という、よりマラソンに特化した練習へ進みます。
つまり、「何か月前から始めるか」以上に、「今どの程度走れるか」が重要ということです。
市民ランナー向けでは12〜16週間程度のマラソントレーニングプログラムがよく使われます。
しかし、12〜16週間あれば、運動習慣のない初心者でも十分という科学的基準ではありません。
すでに一定のランニング習慣がある人が、フルマラソンに向けてより専門的な練習を行う期間として考えた方がよいでしょう。
フルマラソン完走には月間何km走ればいい?

「月100km走れば完走できる?」
「月200km必要?」
月間走行距離も初心者が気になるポイントです。
しかし、フルマラソン完走に必要な最低月間走行距離は確立されていません。
月100km走れば完走できるわけでも、100km未満なら完走できないわけでもありません。
月間走行距離だけでは練習内容が分からない
同じ月100kmでも、
Aさん
25kmを週1回
Bさん
5〜10km程度を週3〜4回
では内容がまったく異なります。
さらに、
- ランニング歴
- ペース
- ロング走
- 練習頻度
- コースの高低差
- 疲労状態
も違います。
そのため、月間走行距離だけを見てトレーニングが十分か判断することはできません。
月間距離より週間トレーニングを見る
初心者なら、「今月100km走った」という数字より、1週間の練習を無理なく繰り返せているかを見る方が実用的です。
例えば、
週3回ランニング
+
1回は少し長めに走る
という週間パターンを継続することを考えます。
その結果として月間走行距離が増えていく形が理想です。
目安として、
週15km → 約65km/月
週20km → 約87km/月
週25km → 約109km/月
週30km → 約130km/月
週40km → 約174km/月
程度になります。
ただし、「月130kmなら完走できる」という意味ではありません。
観察研究ではトレーニング量とマラソンパフォーマンスとの関連が報告されていますが、「○km以上なら完走」というカットオフ値が示されているわけではありません

月間走行距離は、達成しなければいけないノルマではなく、トレーニング量を把握するための指標として利用しましょう。
走行距離はどのくらいずつ増やす?

ランニングでは、「週間走行距離は10%以内で増やす」という10%ルールを聞くことがあります。
しかし、10%以内なら必ず安全と裏付ける十分な根拠があるわけではありません。
初心者ランナーを対象としたBuistら(2008)のランダム化比較試験では、段階的に負荷を増加させるプログラムによってランニング障害が明確に減少する結果にはなりませんでした。
一方、Nielsenら(2014)の前向き研究では、短期間に走行距離を大きく増加させたランナーで、一部の距離関連障害が増える可能性が報告されています。
そのため、「必ず10%以内」と固定するより、急激な増加を避けて身体の反応を確認するという考え方がよいでしょう。
前週の疲労が強ければ、
- 距離を増やさない
- 同じ距離を繰り返す
- 一時的に距離を減らす
という調整も必要です。

フルマラソン完走に向けて行いたいトレーニング

①イージーラン
初心者のトレーニングの中心となるのがイージーランです。
比較的楽なペースで走り、持久力の土台を作ります。
速く走ることが目的ではありません。
初心者なら、細かい速度や心拍数だけにこだわる必要はありません。
使いやすい方法のひとつがトークテストです。目安は、走りながら会話できる程度です。
トークテストは運動強度を判断する簡便な方法として研究されています(Foster et al., 2008)。
反対に、毎回息が上がって会話できないほど頑張っているなら、トレーニング全体の強度が高すぎる可能性があります。
②ラン&ウォーク
まだ長時間走れない人は、歩きを組み合わせても構いません。
例えば、
5分走る
↓
1分歩く
↓
5分走る
といった方法です。
初心者にとって大切なのは、「一度も歩かないこと」ではなく、無理なく長時間身体を動かす経験を増やすことです。
フルマラソン本番でも、
- 給水所だけ歩く
- 坂道は歩く
- 一定時間ごとに歩く
など、計画的にウォーキングを取り入れる方法があります。
完走が目標なら「歩く=失敗」と考える必要はありません。
③ロング走
普段のランニングに慣れてきたら、少し長めに走るロング走を取り入れます。
ロング走には、
- 長時間運動への適応
- 脚の疲労を経験する
- 補給を試す
- シューズを確認する
- ウェアを確認する
- 本番のペース感覚を確認する
など、多くの目的があります。
フルマラソン練習では重要ですが、長ければ長いほど良いわけではありません。
マラソントレーニングでは「30km走」という言葉をよく聞きます。
実際に30kmを経験しておくことには、
- 長時間運動を経験できる
- 補給を試せる
- 本番への心理的な自信になる
といったメリットがあります。
ただし、初心者全員に30km走が必須という科学的根拠はありません。
例えば1km8分で走れば、30km × 8分 = 240分つまり4時間です。途中の給水やウォーキングを含めれば、さらに時間がかかります。
遅いランナーほど「30km」という距離を達成するために非常に長時間の運動が必要になります。
そのため、距離だけでなく運動時間も考えることが重要です。
20km、25km、30kmという数字だけにこだわらず、
- 普段の走行距離
- ランニング歴
- 疲労
- 大会までの日数
- 翌日以降の回復
を見ながら決めます。
基本的にありません。初心者が本番前に一度フルマラソンと同じ距離を走っておく必要はありません。
42.195kmを走れば、それだけ疲労も大きくなります。
練習では、本番より短いロング走を積み重ねながら、長時間運動に身体を慣らしていくことを考えます。
④ マラソン本番を想定したペースで走る
完走目的でも、本番のペースを確認しておくことは大切です。
大会では周囲のランナーにつられ、普段より速いペースで走り出してしまうことがあります。特にスタート直後は元気なので、「今日は調子がいい」と感じやすい時間帯です。
しかし、前半のオーバーペースは後半の失速につながる可能性があります。
レース前には、余裕を持って長く維持できるペースを確認しておきましょう。完走目的なら単純に、制限時間 ÷ 42.195kmだけでペースを決めるのも不十分です。
実際には、
- スタートロス
- 給水
- 補給
- トイレ
- 坂道
- ウォーキング
などで時間を使います。
ある程度の余裕を持ったレースプランを考えておきます。
⑤ 筋力トレーニング
筋力トレーニングもランナーに有用な補助トレーニングです。
持久系ランナーを対象としたシステマティックレビューでは、筋力トレーニングによってランニングエコノミーや一部のパフォーマンス指標が改善する可能性が報告されています(Blagrove et al., 2018)。
しかし、筋トレをしなければフルマラソンを完走できないわけではありません。
初心者では、まずランニングを継続できることを優先します。
そのうえで、
- スクワット
- カーフレイズ
- ヒップヒンジ
- ステップアップ
- 片脚系トレーニング
などを取り入れる方法があります。
筋トレによる筋肉痛でランニングができなくなるほど追い込む必要はありません。ランニングを支える補助トレーニングとして利用しましょう。
⑥ クロストレーニング
サイクリング、水泳、エリプティカルなどのクロストレーニングを利用する方法もあります。
ランニングとまったく同じ刺激ではありませんが、有酸素運動量を確保する手段になります。
特に、「走る回数を増やすと脚に痛みが出やすい」という人では、すべてをランニングで行わず別の運動を利用する方法もあります。
初心者は週何回走ればいい?

これも全員に共通する正解はありません。
走り始めたばかりなら、まず週2回からでも構いません。
ランニング後の身体の反応を確認しながら習慣を作ります。
初心者が比較的組みやすい頻度です。
例えば、
火曜日:イージーラン
木曜日:イージーラン
日曜日:ロング走
とすると、間に休養日を作ることができます。
週3回のランニングを十分回復しながら継続できるようになれば、必要に応じて回数を増やすこともできます。
ただし、走る回数を増やすこと自体が目的ではありません。
週4回走って毎週疲労している人よりも、週3回を数か月継続できる人の方が良い場合もあります。
初心者の週間トレーニング例
完走を目標に週3回走る場合の一例です。
月曜日:休養
火曜日:イージーラン30〜45分
水曜日:休養または筋トレ
木曜日:イージーラン30〜60分
金曜日:休養
土曜日:ウォーキングまたは休養
日曜日:ロング走
これはあくまで一例です。
現在20分しか走れないなら、20分から始めて問題ありません。他人のトレーニングメニューに身体を合わせるのではなく、

現在の身体にトレーニングを合わせることを優先しましょう。
フルマラソンまでのトレーニングの流れ

最初は短時間で構いません。
ウォーキングやラン&ウォークを利用して、定期的に運動する習慣を作ります。
30分走れるようになったら40分、50分と段階的に増やします。
毎週必ず増やす必要はありません。同じ時間を数週間繰り返しても問題ありません。
通常のランニングに慣れたら、週末などに少し長いランニングを取り入れます。
毎週最長距離を更新する必要はありません。
大会が近付いてきたら、ロング走の中で、
- 本番用シューズ
- ウェア
- 補給
- 水分
- ペース
- ラン&ウォーク
などを試します。
大会直前まで走り込む必要はありません。
持久系競技では、大会前にトレーニング量を減らすテーパリングによるパフォーマンス改善が報告されています(Bosquet et al., 2007)。
レース直前になって、「練習が足りないから30km走っておこう」と焦るのは避けたいところです。

大会直前は、能力を新しく作る時期から、疲労を抜いて能力を発揮する時期へ切り替えます。
ロング走では補給の練習もする

フルマラソンでは、走るトレーニングだけでなくエネルギー補給の練習も必要です。
長時間運動では炭水化物摂取が持久系パフォーマンスを支える重要な要素になります(Thomas et al., 2016; Jeukendrup, 2011)。
ただし、本番当日に初めてジェルを使うのはおすすめしません。
人によって、
- 胃が重くなる
- 甘さがつらくなる
- 一度に摂ると気持ち悪くなる
- 固形物の方が合う
- ジェルの方が摂りやすい
など違いがあります。

ロング走では、何を・どのタイミングで・どのくらい摂れば自分が走りやすいかを確認しておきましょう。
水分補給は「多ければ多いほど良い」ではない

マラソンでは水分補給も重要です。しかし、必要な水分量は全員同じではありません。
発汗量は、
- 気温
- 湿度
- 体格
- 走るペース
- 暑熱順化
- 個人差
などによって変わります。
そのため、決められた量を無理に飲むのではなく、自分の発汗や環境に合わせて調整することが重要です(Sawka et al., 2007)。
特に暑い大会では、給水だけでなくペースを落とす判断も必要になります。
シューズとウェアも本番前に試しておく
大会当日に新品のシューズやウェアを初めて使うのは避けた方が無難です。
短時間では問題なくても、数時間使用すると、
- 靴擦れ
- 水ぶくれ
- 足趾の痛み
- ウェアの擦れ
- ベルトの圧迫
などが起こることがあります。
ロング走は、身体を鍛えるだけでなく本番のリハーサルとして利用しましょう。
初心者が避けたいトレーニングの考え方

毎回息を切らしながら走る必要はありません。
イージーランを中心に、余裕を持って継続できるトレーニングを作ります。
大会が近付いたからといって、短期間で走行距離を大きく増やすのは避けます。
距離は身体の反応を確認しながら増やしましょう。
「あと3日で20km走れば月100km」と帳尻を合わせる必要はありません。
月間走行距離は結果として確認します。
30km走にはメリットがありますが、全員に必要とは限りません。
自分のペースや回復力も考慮します。
ランニング後の疲労感と、局所的な痛みは別です。
走るほど痛みが増える、日常生活でも痛いなどの場合には無理に距離を増やさないようにします。
直前のロング走で大きく能力を伸ばすことは期待しにくく、疲労を残す可能性があります。
大会前は回復を優先しましょう。
フルマラソン本番で大切な考え方

前半でタイムを稼ごうとしない
初心者が特に注意したいポイントです。
スタート直後は身体も元気で、大会の雰囲気もあるためペースが上がりやすくなります。
しかし、フルマラソンでは前半のオーバーペースが後半に響きます。
完走が目標なら、序盤は少し物足りない程度でも構いません。
周囲のランナーについていかない
他のランナーが速いからといって、そのペースが自分にも適しているとは限りません。
練習で確認してきた自分のペースを基準にします。
歩いてもいい
給水所や坂道で歩いても問題ありません。
制限時間内の完走が目標なら、走ることと歩くことを組み合わせて42.195kmを進むのも立派な戦略です。
補給は空腹になる前から考える
空腹や強いエネルギー不足を感じてから慌てて摂るのではなく、練習で試した方法をもとに計画的に補給します。
初心者が出場するフルマラソンの選び方

大会によって完走の難易度は変わります。
初めて挑戦するなら、次の点を確認しておきましょう。
制限時間が長い大会ほど、歩きを取り入れながら完走を目指しやすくなります。
大会全体の制限時間だけでなく、途中の関門時間も確認します。
坂道が多いコースでは、上りと下りの両方で身体への負担が変化します。
初めてのフルマラソンなら、比較的アップダウンの少ない大会は選びやすいでしょう。
暑さ、寒さ、風などもパフォーマンスへ影響します。
大会開催時期の過去の気温なども確認しておきましょう。
給水所の間隔や提供されるものを確認しておくと、自分で持っていく補給物も決めやすくなります。
そして、ご当地グルメがある大会なら、それを楽しみにするのもよいでしょう。
フルマラソンは長い競技です。
「次のエイドまで頑張ろう」と思える楽しみも、42.195kmを進む助けになります。

初心者がフルマラソンを完走するために大切なこと

フルマラソン完走を目指す初心者にとって重要なのは、短期間でたくさん走ることではありません。
短時間のランニング
↓
週2〜3回の運動を継続
↓
少しずつ走行時間を延ばす
↓
ロング走を取り入れる
↓
補給や装備を試す
↓
本番ペースを確認する
↓
大会前に疲労を抜く
という順番で準備していきます。
「月100km走らないといけない」
「30km走らないと完走できない」
「一度も歩いてはいけない」
と考える必要はありません。
重要なのは、今の自分が無理なく継続できるトレーニングを積み重ねることです。
そしてフルマラソン本番では、速さよりもペースを抑えること、適切に補給すること、必要なら歩くことも大切です。
42.195kmを一度に考えると途方もなく感じるかもしれません。
まずは今日できる30分のランニングから。その積み重ねが、フルマラソン完走につながっていきます。
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風を切るランニング 
